日本公衆衛生雑誌
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71 巻, 3 号
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総説
  • 片野田 耕太, 十川 佳代, 中村 正和
    2024 年 71 巻 3 号 p. 141-152
    発行日: 2024/03/15
    公開日: 2024/03/19
    [早期公開] 公開日: 2023/12/21
    ジャーナル フリー

     「たばこハームリダクション」は「たばことニコチンの使用を完全に排除することなく,害を最小限に抑え,死亡と疾病を減少させること」と定義される。加熱式たばこが普及している日本において,たばこ産業側の「たばこハームリダクション」を用いたプロモーションが活発化しており,たばこ対策関係者は背景や考え方を共有する必要がある。本稿は,「たばこハームリダクション」を公衆衛生施策として実施するための要件を,①リスク低減,②禁煙の効果,③新たな公衆衛生上の懸念,および④保健当局の規制権限,の4つに集約し,ニコチン入り電子たばこ(以下,電子たばこ),加熱式たばこのそれぞれについて検討することを目的とした。さらに,国際機関(世界保健機関;WHO)および諸外国(米国,英国,オーストラリア,イタリア,および韓国)の保健当局の「たばこハームリダクション」に対する方針についてまとめた。最初の3つの要件について,電子たばこは,リスク低減および禁煙の効果については一定の科学的証拠があるが,若年者における使用の流行と紙巻たばこ使用へのゲートウェイドラッグ(入門薬)になりえるという公衆衛生上の懸念については一致した見解が得られていなかった。加熱式たばこについては最初の3つの要件いずれについても十分な科学的証拠はなかった。WHOはあらゆるたばこ製品について同じ規制をすべきであるという立場をとっていた。保健当局が「たばこハームリダクション」の考え方を制度として導入していたのは英国と米国のみであり,加熱式たばこが比較的普及しているイタリアおよび韓国でもリスク低減については保健当局が否定していた。英国は電子たばこによる禁煙支援を公式に認めていた一方,米国は2009年に制定された連邦法に基づいてmodified risk tobacco product(リスク改変たばこ製品)の制度を設けたが,2023年6月現在,加熱式たばこまたは電子たばこで健康リスクを低減すると認められた製品はなかった。4つ目の要件について,英国,米国ともたばこ産業から独立した保健当局の規制の下に「たばこハームリダクション」が制度化されていた。「たばこハームリダクション」の導入には,たばこ産業から独立した保健当局の規制権限と包括的なたばこ対策の履行が必須だと考えられる。

原著
  • 種田 行男, 武田 典子, 井上 茂, 宮地 元彦
    2024 年 71 巻 3 号 p. 153-166
    発行日: 2024/03/15
    公開日: 2024/03/19
    [早期公開] 公開日: 2023/12/21
    ジャーナル フリー

    目的 我が国において,身体活動・運動の促進に関する国家施策が複数の省庁で策定されている。本研究は市区町村における身体活動促進のための施策の策定とその実施状況について,行政部門別および自治体の人口規模別に検討することを目的とした。

    方法 我が国のすべての市区町村を人口レベルで層化した上で,272市区町村を無作為に抽出し,これらの市区町村内にある6部門(保健,スポーツ,教育,都市計画,交通,環境)の1,632件を対象にした。施策の策定状況,実施状況,および部門間の連携状況についてのアンケート調査を横断研究として実施した。自治体群間の差は,Fisherの正確確率検定を用いて統計解析した。なお,調査期間は2018年9月から2019年3月までであった。

    結果 本調査の回答数は全体で616件(回答率37.7%)であり,保健部門と教育部門の回答率が他に比べて低かった。身体活動促進に関する施策の策定率は,保健部門とスポーツ部門においてきわめて高く,なおかつ自治体の人口規模による違いはほとんどみられなかった。一方,都市計画・交通・環境部門における策定率は全般的に低く,とくに小規模自治体で著しく低下した。身体活動促進に関する事業として,都市計画・交通・環境部門では主に運動・スポーツを実施するためのインフラの整備事業が,保健・スポーツ・教育部門ではそれらの環境を利用した事業が主に実施されていた。施策の実施時における部門間の連携については,保健部門とスポーツ部門と教育部門との間,および都市計画部門と交通部門との間のそれぞれに連携関係がみられた。しかしながら,小規模自治体ではこのような連携の機会は少なく,単独実施になりやすいことが明らかになった。

    結論 本研究において,市区町村における身体活動促進に関する施策の策定および実施状況を全国レベルで把握することができた。さらに,複数の行政部門別および自治体の人口規模別に比較し,それぞれの特徴を明らかにすることができた。これらの成果が,今後の地方自治体における身体活動促進に関する施策の策定および実施に活用されることが期待される。

資料
  • 赤松 友梨, 尾島 俊之, 福永 一郎, 逢坂 悟郎, 佐伯 圭吾, 島村 通子, 白井 千香, 永井 仁美, 宮園 将哉, 内田 勝彦
    2024 年 71 巻 3 号 p. 167-176
    発行日: 2024/03/15
    公開日: 2024/03/19
    [早期公開] 公開日: 2023/12/21
    ジャーナル フリー

    目的 現場から保健師数の充実を求める声はあがっているものの,客観的に保健師数と保健活動の充実に関連があることを示す報告は少ない。今回我々は,対人保健業務の中でもとくに保健師数が少ないと実績をあげにくいと考えられる精神保健福祉および難病相談の訪問指導に着目し,保健師数との関連について検討した。また,これまで保健師数や精神保健福祉・難病活動に関する地域差が指摘されていたが,その程度は明らかになっていなかったため,その点についても検討した。

    方法 2019年度の政府統計の総合窓口(e-Stat)中の地域保健・健康増進事業報告および2020年1月時点の住民基本台帳に基づく人口動態および世帯数調査のデータを使用した。人口10万人あたりの常勤保健師数(保健師数)と人口10万人あたりの精神保健福祉/難病相談の被訪問指導延人数(精神保健福祉/難病相談実績)の関連について,回帰分析(共変量には人口および面積を用いた)を行った。また,保健師数,精神/難病相談実績の各々について,平均値・標準偏差・最大/最小値・ジニ係数を用いて地域差を検討した。いずれも,総数・県型保健所・県型保健所管内市町村・保健所設置市(特別区含む)・保健所設置市(特別区含まない)の分析対象ごとに分析を行った。

    結果 回帰分析では,保健師数と精神保健福祉/難病相談実績は正の関連を認める傾向で,いずれの相談実績も,人口規模(人口を十万で割ったもの)とは正の関連を,面積規模(面積 km2 を千で割ったもの)とは負の関連の傾向であった。保健師数と相談実績に有意な関連を認める中で最も回帰係数が大きかったのは,精神保健福祉相談実績では県型保健所管内市町村で34.07,難病相談実績では県型保健所で5.48であった。ジニ係数を用いた地域差の分析では,保健師数が最も地域差が小さく(総数のジニ係数0.15),難病相談実績が最も地域差が大きかった(総数のジニ係数0.34)。さらに総数の最大値/最小値は,保健師数が3.8倍に対し,精神保健福祉相談実績10.6倍,難病相談実績30.0倍であった。

    結論 保健師数を充実させることは,精神保健福祉/難病相談活動をさらに充実させていくために必要であり,とくに人口規模が小さい都道府県や面積が広い都道府県ではより多めに保健師数を充実させることが重要である。また,精神保健福祉/難病相談活動に地域差があり,底上げを推進する必要がある。

  • 相良 友哉, 高瀬 麻以, 杉浦 圭子, 中本 五鈴, 馬 盼盼, 六藤 陽子, 東 憲太郎, 藤原 佳典, 村山 洋史
    2024 年 71 巻 3 号 p. 177-185
    発行日: 2024/03/15
    公開日: 2024/03/19
    [早期公開] 公開日: 2023/12/21
    ジャーナル フリー

    目的 介護施設が地域の高齢者を介護助手として雇用し,介護職員の補助的で非専門的な周辺業務に従事してもらう事例が散見されるが,施設の規模により,雇用のニーズや雇用後のサポート体制に差がある可能性がある。そこで本研究は,介護老人保健施設における高年齢介護助手の雇用実態を明らかにすることを目的とした。

    方法 全国老人保健施設協会の会員3,591施設に対し,まずFAX調査で高年齢介護助手の導入実態を尋ね,その後,より詳細な情報を収集するため質問紙調査を行った。FAX調査では2,170施設から,質問紙調査では1,261施設から回答を得た。調査では,60歳以上の介護助手を高年齢介護助手と定義した。対象施設は,入所定員により99人以下の「小・中規模施設」と100人以上の「大規模施設」に分類し,カイ二乗検定によって雇用理由や課題,教育体制,雇用継続のための工夫を比較した。

    結果 FAX調査の結果,全国の高年齢介護助手の導入割合は31.7%であった。質問紙調査では,687施設が高年齢介護助手を現在雇用していると回答し,これらを分析に含めた。大規模施設の方が小・中規模施設より高年齢介護助手の雇用人数が多かった。小・中規模施設は大規模施設よりも高年齢介護助手に対する決まった教育体制がなく(小・中規模施設30.0%,大規模施設21.6%;P=0.014),家庭の事情等で仕事への影響が出やすい(小・中規模施設15.7%,大規模施設10.2%;P=0.033)と感じている傾向があった。他方,大規模施設は小・中規模施設よりも,介護事故のリスク減少を雇用目的とする施設が多く(小・中規模施設19.8%,大規模施設26.3%;P=0.046),継続雇用に向けた工夫として,定期的な面談等の心理的サポートをしている傾向があった(小・中規模施設24.1%,大規模施設37.3%;P<0.001)。

    結論 高年齢介護助手の雇用人数は大規模施設の方が多い傾向であった。小・中規模の施設では大規模施設ほど面談等に定期的な心理的サポートが行われておらず,体系的な研修システムも構築されていなかった。高年齢介護助手という就労形態がより広まるためには,小・中規模の施設における高年齢介護助手への十分なサポート体制の整備が重要と考えられた。

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