目的 日本人の収縮期血圧の平均値は1965年を頂点に1990年にかけて急速に低下しており,それに伴い脳血管疾患での死亡は減少している。また虚血性心疾患の年齢調整死亡率も低下している。しかし日本では心血管疾患の発症に影響する生活様式の欧米化が急速に進行しており,今後心血管疾患の死亡率の低下が停止,そして増加への反転が懸念されている。よって心血管疾患全体の死亡率の動向を,年齢効果,時代効果,コホート効果に分解する Age-Period-Cohort(APC)モデルを用いて分析し,そのコホート効果について検討した。
方法 1950年から2010年までの人口動態統計のデータを 5 年間隔,計13年を分析対象とし,30歳から89歳までを 5 歳階級に区切り計12階級から人口,死亡数を求めた。この分析対象の出生世代(コホート)は1950年に85歳から89歳となる1861年から1865年の間の生まれ(出生中央年1863年)より,2010年に30歳から34歳となる1976年から1980年の間の生まれ(出生中央年1978年)までとなり,計24群が作成された。APC 分析には sequential method を用い,年齢効果が優位と仮定を置いて,それぞれの効果を推定した。
結果 心血管疾患死亡率の時代効果は一貫して減少していた。これに対して,1888年生まれ前後より減少した心血管疾患死亡率のコホート効果は,男性では1938年生まれ前後,女性では1943年生まれ前後より停止状態,または若干増加傾向が認められた。
結論 今回の分析から生活環境や保健医療環境の向上を反映すると考えられる心血管疾患死亡率の時代効果は一貫して減少していたのに対して,コホート効果は若い世代になるにつれ順調に低下とは言えなかった。心血管疾患のリスク予防となる日本人の収縮期血圧の平均値の低下の減退に加え,生活様式の欧米化がコホート効果の一部とするならば,今後若い世代で心血管疾患死亡が増加する可能性があり,今後の公衆衛生活動の展開において考慮すべき課題と考えられる。
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