日本公衆衛生雑誌
Online ISSN : 2187-8986
Print ISSN : 0546-1766
ISSN-L : 0546-1766
62 巻, 2 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
原著
  • 丸尾 伸司, 磯 博康
    2015 年 62 巻 2 号 p. 57-65
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/10
    ジャーナル フリー
    目的 日本人の収縮期血圧の平均値は1965年を頂点に1990年にかけて急速に低下しており,それに伴い脳血管疾患での死亡は減少している。また虚血性心疾患の年齢調整死亡率も低下している。しかし日本では心血管疾患の発症に影響する生活様式の欧米化が急速に進行しており,今後心血管疾患の死亡率の低下が停止,そして増加への反転が懸念されている。よって心血管疾患全体の死亡率の動向を,年齢効果,時代効果,コホート効果に分解する Age-Period-Cohort(APC)モデルを用いて分析し,そのコホート効果について検討した。
    方法 1950年から2010年までの人口動態統計のデータを 5 年間隔,計13年を分析対象とし,30歳から89歳までを 5 歳階級に区切り計12階級から人口,死亡数を求めた。この分析対象の出生世代(コホート)は1950年に85歳から89歳となる1861年から1865年の間の生まれ(出生中央年1863年)より,2010年に30歳から34歳となる1976年から1980年の間の生まれ(出生中央年1978年)までとなり,計24群が作成された。APC 分析には sequential method を用い,年齢効果が優位と仮定を置いて,それぞれの効果を推定した。
    結果 心血管疾患死亡率の時代効果は一貫して減少していた。これに対して,1888年生まれ前後より減少した心血管疾患死亡率のコホート効果は,男性では1938年生まれ前後,女性では1943年生まれ前後より停止状態,または若干増加傾向が認められた。
    結論 今回の分析から生活環境や保健医療環境の向上を反映すると考えられる心血管疾患死亡率の時代効果は一貫して減少していたのに対して,コホート効果は若い世代になるにつれ順調に低下とは言えなかった。心血管疾患のリスク予防となる日本人の収縮期血圧の平均値の低下の減退に加え,生活様式の欧米化がコホート効果の一部とするならば,今後若い世代で心血管疾患死亡が増加する可能性があり,今後の公衆衛生活動の展開において考慮すべき課題と考えられる。
短報
  • 遠又 靖丈, 佐藤 紀子, 小暮 真奈, 須藤 彰子, 今井 雪輝, 青木 眸, 杉山 賢明, 鈴木 玲子, 菅原 由美, 渡邉 崇, 永富 ...
    2015 年 62 巻 2 号 p. 66-72
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/10
    ジャーナル フリー
    目的 被災地で心理的ストレス,活動量低下の問題が懸念されており,運動教室などが行われているが,その効果は十分に検討されていない。そこで,被災地における運動教室の心身への健康効果を検証した。
    方法 平成24年度に,宮城県石巻市の雄勝地区・牡鹿地区の住民を対象とした「被災者健康調査」の一環として,運動教室を実施した。運動教室の参加者と非参加者で健康状態の推移が異なるかを検討するため,同地区での「被災者健康調査」のデータから運動教室の参加者81人とベースライン特性の似た運動教室の非参加者81人を傾向スコアマッチングで抽出した。マッチングには性別,年齢,地域のほか,6 種のアウトカム変数を用いた。アウトカム指標は,K6(心理的ストレスの指標),主観的健康感,睡眠時間,睡眠の質,外出頻度,歩行時間(1 日あたり)とした。解析には線形混合モデルを用い,有意水準は P<0.05とした。
    結果 K6 得点の経時変化は,参加者と非参加者で有意差を認めなかった(P=0.913)。主観的健康感(P=0.011),外出頻度(P=0.002)は有意な改善を認めたが,睡眠時間,睡眠の質,歩行時間では経時変化に有意差を認めなかった。
    結論 運動教室に参加した者では,主観的健康感や外出頻度は有意に改善した。被災地における運動介入は,健康感の改善に有効な対策であることが示唆された。
研究ノート
  • 篁 宗一, 清水 隆裕, 猫田 泰敏
    2015 年 62 巻 2 号 p. 73-81
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/10
    ジャーナル フリー
    目的 本研究は,新聞紙のテレビ番組表から,自殺およびメンタルヘルスに関する情報を抽出し分析することによってテレビ番組による自殺報道の実態を明らかにすることとした。
    方法 一つの主要新聞紙から2004~2009年 6 月までのテレビ番組表の紹介欄から情報を抽出した。情報抽出においては,精神保健を専門とする研究者 2 人が独立に判断し,信頼性を保った。分析データは,テレビ番組表内の地上波 6 局の「番組名および紹介」の欄(最終の一面全体,以下紹介欄)を対象とした。「自殺と関連情報について事前に決定した選択基準に沿って抽出を行った後番組内のサブテーマの情報抽出を行った。また体験談の有無など,その他の属性および番組ジャンルや専門性についても情報を分類した。これら収集した情報データは質的な分類を行った他,件数および割合(%)を時系列および属性で比較した。また番組紹介の内容に関する傾向とメディアにおいて,一事例を繰り返し取り扱った番組の分析をそれぞれ行った。
    結果 期間中コンスタントに自殺を取り扱う番組がみられた。季節は春と秋,曜日は火曜日と水曜日の順であった。同一の事例が繰り返し10回以上報道されたのは 8 ケースであった。自殺のサブテーマとしてはいじめや殺人,うつ病であった。対策なども含み専門性の高い番組は47件(7.6%)で,504件(81%)の番組は専門性の低い番組であった。
    結論 自殺はテレビ番組で継続的に取り扱われている。番組の動向から,季節や曜日によって変動がみられた。いじめなど注目を集めやすいテーマが多く,専門性が低い傾向にあることが予測された。集中する報道による当事者の二次的な被害も考えられた。
会員の声
feedback
Top