日本公衆衛生雑誌
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70 巻, 11 号
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原著
  • 森元 真梨子, 田中 昌子, 堀 忍, 四方 哲
    2023 年 70 巻 11 号 p. 749-758
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/11/30
    [早期公開] 公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    目的 COVID-19流行当初,小児の感染者数は大人に比較して少なく,家族内感染,無症状がほとんどで,重症化も稀とされていた。感染力の強いオミクロン株に置き換わった2021年12月からの国内第6波では,小児の感染者数が急増し,社会機能や病院機能の維持に大きな影響を与え,少数ながら国内で死亡例が出たことで,保護者の不安が高まった。しかし,一般の小児を対象にしたオミクロン株の累積罹患率,重症化率,入院率等の疫学的特性を明らかにした文献はない。今回,第6波における小児陽性者の疫学的特性を明らかにするため検討を行った。

    方法 2022年1月15日から5月31日の期間に,京都府山城北保健所に発生届が提出されたCOVID-19陽性者(みなし陽性を含む)28,086人を対象とした。発生届,積極的疫学調査等に基づき,当保健所および京都府で作成したデータベースを元に,累積罹患率,入院率等について,15歳未満(小児)とそれ以上の年齢群で比較した。また,療養中に入院した小児陽性者24例を対象に,積極的疫学調査書に加え,感染症法に基づき,入院施設から保健所に報告された健康観察,退院報告を基に,症例背景,入院期間,臨床症状等について後方視的に検討した。

    結果 管内の小児人口52,897人(15歳未満人口比率12.3%)に対し,陽性者数は7,980人で,陽性者に占める小児の割合は28.4%,累積罹患率は15.1%であった。小児陽性者における入院者数は24人で,陽性者の0.3%,小児人口の0.04%であった。一方,15歳以上人口377,093人における陽性者数は20,106人であり,累積罹患率は5.3%であった。入院者数は1,088人で,陽性者の5.4%,15歳以上人口の0.28%であった。入院した小児24例の新型コロナウイルス感染症診療の手引きにおける重症度は,軽症22例(91.6%),中等症Ⅱ2例(8.3%)であり重症はなかった。2例(8.3%)はCOVID-19以外の疾患の治療目的で入院した。入院期間は中央値3.5日であり,20例(83.3%)が陽性のまま退院し,自宅療養へ移行した。

    結論 第6波における小児の累積罹患率は15.1%であり,それ以上の年齢層に比べて約3倍高かったが,小児の重症例は認めなかった。

  • 永井 智子, 米倉 佑貴, 梅田 麻希, 麻原 きよみ, 川崎 千恵, 小林 真朝, 嶋津 多恵子, 遠藤 直子, 大森 純子, 三森 寧子 ...
    2023 年 70 巻 11 号 p. 759-774
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/11/30
    [早期公開] 公開日: 2023/08/04
    ジャーナル フリー

    目的 市区町村の自治体保健師における地区活動の実施状況および地区活動に伴う保健師の認識を評価する尺度を探索的に開発することを目的とした。

    方法 文献検討,自治体保健師へのインタビュー調査に基づき,尺度案を作成し,全国の自治体保健師を対象に質問紙調査を実施した。自治体の多様性を確保するために人口規模別にリクルートを行い,52自治体2,074人に質問紙を配布した。探索的因子分析により因子数を検討し,候補の因子構造に対して,確認的因子分析を行い,因子構造を確定させた。尺度の信頼性は,クロンバックα係数を算出し,妥当性は,既存の尺度である保健師の道徳的能力尺度,行政保健師の職業的アイデンティティ尺度,保健師経験年数との相関により検証した。

    結果 721人(有効回答率34.8%)の回答が得られ,分析対象とした。保健師の地区活動の実践の指標となる【地区活動を構成する活動内容(3因子9項目)】【地区活動による地域/住民に対する保健師の認識(3因子10項目)】【地区活動を支える組織環境(2因子11項目)】の3種類の尺度を開発した。クロンバック α 係数は,順に0.896,0.913,0.868であった。それぞれの下位因子と既存尺度との相関については,仮説通り正の相関がみられた。経験年数との相関では,一部仮説が支持されなかった。

    結論 本研究で開発した3つの尺度について,それぞれ信頼性と妥当性を検討した。これらの尺度は,保健師が目的に応じて選択し,単独あるいは組み合わせて使用することが可能である。今まであいまいであった地区活動を評価するための指標が具体的に示されたことが大きな特徴である。尺度項目を参考に日々の保健活動を行うことで,組織レベル,個人レベルでの地区活動の評価の指標として活用することができると考える。

  • 谷野 多見子, 上野 美由紀, 山田 和子, 森岡 郁晴
    2023 年 70 巻 11 号 p. 775-783
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/11/30
    [早期公開] 公開日: 2023/08/04
    ジャーナル フリー

    目的 休養には,仕事や活動によって生じた心身の疲労を回復する「休む」という側面と,明日に向かって鋭気を養い,身体的,精神的,社会的な健康能力を高める「養う」という2つの側面がある。男性労働者は長時間労働をしている者が多く,ストレスを感じていても女性に比べてストレス対処行動をとらないため,十分な「休養」をとることが難しい。そのために休養を評価する指標が必要である。本研究は,休養を複数の要素で捉え,男性労働者の休養が達成できている状態を評価する「休養評価尺度」の開発を試みることを目的とした。

    方法 製造業の2社に従事する20歳から59歳までの男性労働者330人に質問紙調査を実施した。尺度の質問項目は,男性労働者にインタビュー調査を行った結果と,先行文献を参考に項目を作成し,産業衛生の専門家と検討したのちにプレテストを実施して表面的妥当性を得た70項目を用いた。探索的因子分析は最尤法でプロマックス回転を用いた。確認的因子分析は共分散構造分析で適合度を確認した。尺度の併存的妥当性の検討は,健康関連Quality of life,職業的ストレス,ワークエンゲージメント,睡眠,休養の自己評価を用いた。

    結果 探索的因子分析の結果,3つの下位尺度で15項目からなる尺度になった。3下位尺度は「英気の充填」,「仕事への意気込み」,「疲労の回復」と命名した。信頼性係数(クロンバック α)は,3下位尺度が0.79~0.88で,尺度全体が0.89であり,それぞれ内的整合性を確保していた。確認的因子分析での適合度はおおむね良好な結果が得られた。下位尺度および尺度全体の得点は,健康関連QOL,職業的ストレス,ワークエンゲージメント,睡眠,休養の自己評価の多くの項目と相関があった。

    結論 製造業に従事する男性労働者の休養を評価する「休養評価尺度」を作成した。この尺度は,信頼性,併存的妥当性に良好な結果が得られたことから,男性労働者の休養の達成状態を評価する指標であると考えられた。

資料
  • 蔭山 正子, 濱田 唯, 横山 恵子
    2023 年 70 巻 11 号 p. 784-794
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/11/30
    [早期公開] 公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    目的 精神障害者施策は,地域生活中心へと進められており,地域における精神障害者の権利擁護支援は重要性を増している。本研究は,地域生活全般の場面において,精神障害者が認識する権利擁護支援が必要な状況と対処方法を明らかにすることを目的とした。

    方法 質的記述的研究とした。ピアアドボケイト(権利擁護支援を行う精神障害者)13人とその他の精神障害者12人にグループインタビューを実施した。逐語録を作成し,「精神障害者が認識する権利擁護支援が必要な状況とはどのようなものか,どのようにその状況に対処しているのか」という視点で意味のまとまりごとに区切り,コードを作成した。コードを権利擁護支援が必要な場面や相手ごとに分類した後,抽象度を上げ,カテゴリを生成した。

    結果 精神障害者が認識する権利擁護支援が必要な状況は,場面・相手に分類され,精神科外来,精神科入院,福祉施設,家族や親戚,学校,近所,就労,相談機関で生じていた。精神科外来では【精神科受診にたどり着けない】状況など,精神科入院では【圧力がかかり,逃げられない環境に置かれる】状況など,福祉施設では【利用者同士の恋愛関係を回避しようとされる】状況などがあった。家族や親戚では【病気の自分を理解・受容してもらえない】【劣悪な入院環境や強制入院によって家族関係が悪化する】【精神疾患のために婚姻関係に支障をきたす】状況などがあった。学校では【病気のために学校で孤立する】状況など,近所では【自治会の仕事をなかなか免除させてもらえない】状況など,就労に関しては【病気を伝えて働くが適度な配慮をしてもらえない】状況など,相談機関では【支援者に相談しても我慢を強いられる】状況などがあった。自身による対処方法としては,【転院する】【事業所を変える】など場所から逃げる方法がとられていたが,精神科入院においては【職員に逆らわない】という諦めの対応がとられていた。

    結論 精神障害者は,精神科医療だけでなく,家族,学校,近所など多様な場面や相手に対して権利擁護支援が必要だと認識していた。精神科病院へのアドボケイト制度の導入,精神疾患好発年齢における精神疾患の正しい知識の普及,合理的配慮の知識と適切な対応の周知などについて取り組みを進める必要性が示唆された。また,積極的な対処を増やすためにピアアドボケイトによる障害者への権利教育を行うことも期待される。

  • 寺川 由美, 稲田 浩, 井村 元気, 田端 信忠, 八木 敬子, 中山 浩二, 吉田 英樹
    2023 年 70 巻 11 号 p. 795-801
    発行日: 2023/11/15
    公開日: 2023/11/30
    [早期公開] 公開日: 2023/08/04
    ジャーナル フリー

    目的 2020年に始まった新型コロナウイルス(COVID-19)感染症感染拡大とその対応は,医療,保健を含む社会全体に対し大きな影響を及ぼしてきた。今回,COVID-19とその対応に関連する社会的変化と,妊娠,出産や母子保健行動との関係について記述疫学的検討を試みた。

    方法 大阪市における出生数や乳幼児健康診査受診率,その他の母子保健に関わる不妊治療費助成事業,産後ケア事業,専門的家庭訪問支援事業の利用について令和3年度までの経年推移を比較検討した。

    結果 近年,出生数は毎年減少しているが,2020年9月以降も減少傾向が持続し,とくに2021年11月以降には減少が顕著に認められた。また,2020年以降,婚姻数の低下も認めていた。不妊治療費助成事業において,2020年度総助成数は前年度に比較して約14%の減少を認めた。その反面,産後ケア事業においては,利用人数は2015年度以降増加傾向であり,COVID-19流行後の2020年度も前年度から約1.5倍の増加を認めた。また,専門的家庭訪問支援事業では,訪問延べ数は2017年度から減少傾向であったが,2020年度の方が前年度より増加していた。乳幼児健康診査に関しては,前年度まで受診率は上昇傾向であったが,2020年度は3か月児,1歳6か月児,3歳児ともに低下を認めた。2020年度3歳児健診受診率は7年ぶりに90%を下回っていたが,2021年度にはすべての乳幼児健康診査受診率について90%以上に回復した。

    結論 COVID-19に関連したメディアや行政,医療等の対応が,出産・子育て世代の非婚化,晩婚化や育児困難感の増加,妊娠の意図の低下に関係し,一時的にせよ結果的に出生数の低下に影響を与えた可能性も否定できない。COVID-19に対する適切な対応を行いながら,妊娠の意図が減退しないような適切な情報提供,施策,投資が必要と考えられた。COVID-19流行下では,出生後も育児困難感の上昇による母子保健行動の変容が認められるが,それに対してはサービスの充実などの工夫で対応することが可能であると思われた。

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