日本公衆衛生雑誌
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49 巻, 11 号
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総説
  • 西浦 博, 今井 博久, 中尾 裕之, 月野 浩昌, 黒田 嘉紀, 加藤 貴彦
    2002 年 49 巻 11 号 p. 1135-1141
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
     遺伝子組換え食品の受容性(パブリックアクセプタンス)および安全性評価を中心に現状と動向について概説した。遺伝子組換え食品(組換え DNA 技術応用食品・食品添加物)は栽培者や生産者に比較的周知されているが,消費者には依然として受容性に関する課題がある。私たちの調査では消費者において遺伝子組換え食品の潜在的な健康リスクに対する不安があることを認めた。多くの消費者は健康リスクについて曖昧な知識だけを有し,健康リスクが有るものと考えて遺伝子組換え食品に対して否定的態度を示した。マスメディアや専門誌には私的意見が多数掲載されているが,一方で毒性や健康に及ぼす影響に関する報告はほとんどなかった。この総説では安全性評価における国際機関の役割を要約し,最後にわが国の農業生産地でどのように遺伝子組換え農作物の利用が実施されているかを示し,消費者にとって直接的利点となる栄養素含量,機能性を改変した遺伝子組換え食品の開発の動向などについて考察した。
原著
  • 都筑 千景, 金川 克子
    2002 年 49 巻 11 号 p. 1142-1151
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 都市部に居住する産後 1 か月前後の初産の母親に対する看護職による家庭訪問の効果について,母親の持つ不安と育児に対する捉え方に焦点を当て検討した。
    方法 A 市に居住する平成10年 5 月~8 月に出生した子とその母親のうち,特に異常のない第 1 子とその母親324人を抽出し,介入群,非介入群の 2 群に割り付け,抽出直後(初回調査)およびその 2 か月後(2 回目調査)の時点に,抽出した子の母親に対して質問紙を郵送し回答を得た。通常実施されている新生児家庭訪問事業を従来どおり実施し,さらに追加した形で,本研究の介入に対し 2 回の調査の間に看護職による家庭訪問(訪問時の子の平均日齢42.2±9.7日)を実施した。調査終了後,有効回答が得られた対象者から新生児家庭訪問事業による家庭訪問を受けた者を分析対象から除外し,本研究での分析対象者は介入群64人(有効回答率48.9%),非介入群66人(66.0%)とした。
    結果 初回調査項目すべてにおいて,両群の間に有意差はみられなかった。しかし,2 調査時点におけるスコアの差を従属変数,家庭訪問の有無を独立変数とした共分散分析の結果,家庭訪問を受けた母親は家庭訪問を受けていない母親よりも,不安の程度が有意に減少し(P=0.04),育児の楽しさが増加(P=0.02)していた。また家庭訪問を受けた母親の 9 割以上が,家庭訪問が自分にとって役に立ったと回答していた。
    結論 産後 1 か月前後の時期における看護職による家庭訪問は,母親にとって有効な育児支援となることが示唆された。
  • 岩橋 満愛, 百瀬 義人, 宮崎 元伸, 柴田 和典, 畝 博
    2002 年 49 巻 11 号 p. 1152-1158
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的Helicobacter pylori (H. pylori)のサイトトキシン関連遺伝子 A (Cytotoxin-associated gene A, CagA)陽性株と CagA 陰性株の慢性萎縮性胃炎に対するリスクの評価を行うとともに,慢性萎縮性胃炎に関連する生活習慣要因についても検討した。
    方法 福岡県南部の農村地域の基本健康診査を受診した30歳-64歳の住民738人(男295人,女443人)に研究参加を要請し全員から協力を得,対象とした。基本健康診査受診時に生活習慣の情報を得るとともに,採血を行い,H. pylori 抗体,CagA 抗体,血清ぺプシノーゲンI値(PGI)とぺプシノーゲンII値(PGII)を測定した。
     本研究では慢性萎縮性胃炎の診断を PGIと PGIIの値により血清学的に行った。すなわち,PGI<70 μg/l かつ PGI/PGII比<3.0のものを血清学的慢性萎縮性胃炎とした。
    成績H. pylori 抗体陰性を基準にした時,男では H. pylori 抗体陽性・CagA 抗体陽性群の慢性萎縮性胃炎に対するオッズ比は4.26 (95%CI, 2.22-8.17), H. pylori 抗体陽性・CagA 抗体陰性群では3.87 (95%CI, 1.95-7.68)であった。一方,女では前者のオッズ比は4.92 (95%CI, 3.06-7.92),後者では3.02 (95%CI, 1.23-6.35)であった。慢性萎縮性胃炎に対するリスクは CagA 陽性株感染の方が CagA 陰性株感染より大きいことが示唆された。
     生活習慣では緑茶の飲用が慢性萎縮性胃炎に対する抑制因子として働いていた。特に,その効果は CagA 陽性株感染の場合に顕著であった。
    結論 慢性萎縮性胃炎に対するリスクは CagA 陽性株感染の方が CagA 陰性株感染より大きいことが示唆された。
  • 竹鼻 ゆかり, 高橋 浩之
    2002 年 49 巻 11 号 p. 1159-1168
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 認知的スキルのひとつである一般的な自己管理スキルと糖尿病患者特有の自己管理スキルはどのような関連を持ち,またそれらが糖尿病患者の自己管理行動とどのように関連しているかについて検討する。
    方法 糖尿病外来に通院する糖尿病患者306人を調査対象者とし,自記式の質問紙と診療記録からの情報収集を行った。質問紙の内容は,患者の属性,一般的自己管理スキル尺度(高橋による自己管理スキル尺度,以下 SMS 尺度),糖尿病患者特有の自己管理スキルについての質問項目(以下糖尿病スキル得点),糖尿病患者の自己管理行動(安酸,木下が作成した尺度の項目を参考として使用)である。
    成績 1. SMS 尺度と糖尿病スキル得点は相関を有し,ともに自己管理行動と関連していた。またその度合いは,SMS 尺度よりも,糖尿病スキル得点の方が強かった。
     2. 自己管理行動と関連する要因についてパス解析を用いて検討した結果,糖尿病の自己管理行動と有意に直接関連する要因は,SMS 尺度,糖尿病スキル得点,仕事の有無だった。また,糖尿病スキル得点を媒介として自己管理行動と間接的に関連する要因は,SMS 尺度,知識の程度,家族の支援の程度,仕事の有無だった。また自己管理行動と直接関連している要因の標準偏回帰係数(β)の大きさから,糖尿病スキル得点が自己管理行動に比較的強く関与していることが示された。
    結論 糖尿病患者の自己管理行動を改善するためには,糖尿病と関連した認知的スキルを考慮した支援が有効である可能性が示唆された。
  • 西條 泰明, 岸 玲子, 佐田 文宏, 片倉 洋子, 浦嶋 幸雄, 畠山 亜希子, 向原 紀彦, 小林 智, 神 和夫, 飯倉 洋治
    2002 年 49 巻 11 号 p. 1169-1183
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 本研究では住宅環境の問題として社会的に注目されているいわゆる「シックハウス症候群」の実態を明らかにするために,一般住宅を対象に北海道で居住者の自覚症状と住環境の関係を調査した。
    方法 札幌市近郊のハウスメーカー24社の協力を得て新築・改築数年以内の住宅1,775戸を対象に,住宅の構造や状態,生活態度,現在の症状についての質問票を配布し,564軒から回答を得た(回収率31.8%)。症状については,その住居内でもっとも症状の強い人について記載を依頼した。新・改築後に発症・悪化した症状をカウントし,11のカテゴリーに分けて,1 個以上のカテゴリーに発症・悪化した症状を有する場合を「発症・悪化群」と定義し,2 個以上のカテゴリーに症状があり多訴と考えられる症状を有する場合を「多訴群」と定義し,症状と関連する住宅側の要因を検討した。
    結果 回答を得た564のうち「症状がある」と記載したのは210軒(回答世帯の37.2%)で,その中で「発症・悪化群」は94軒(16.7%),「多訴群」は57軒(10.1%)であった。新・改築後に発症・悪化した自覚症状はそれぞれ,のどの症状が7.1%,皮膚症状が6.9%,精神・神経症状が5.3%,眼症状が5.1%,鼻症状が4.1%であった。単変量解析では「臭いのある家具の有無」について発症・悪化群のオッズ比は2.66,多訴群のオッズ比は3.24であった。「芳香剤の使用」は発症・悪化群のオッズ比は1.78であった。屋内で結露・カビの発生の有無については,結露・カビの発生があるほうが発症・悪化群,多訴群とも有意に多く,「結露」の発症・悪化群のオッズ比2.98,多訴群のオッズ比3.32,「カビ」の発症・悪化群のオッズ比は3.12,多訴群のオッズ比は3.24であった。さらに,湿気の指標であるカビと結露について調べたところ,発症・悪化群,多訴群とも指標がどちらか 1 つの住宅よりも両方あるほうにオッズ比が高くなり,湿気の指標は相加的な関係が認められた。多変量解析の結果,カビ・結露は発症・悪化群,多訴群とも有意な関連を認めたが,臭いのある家具の有無は多訴群のみ有意の関連を認め,芳香剤の使用は関連がなかった。
    結論 本研究では,新・改築後数年以内の居住者について調査を行ったところシックハウス症状の原因としてガビ・結露の出現といった湿気が高いことと,家具や芳香剤の臭いが関係していることが示唆された。シックハウス症候群への対策は湿度環境への配慮も必要と考えられる。
公衆衛生活動報告
  • 足達 淑子, 山上 敏子
    2002 年 49 巻 11 号 p. 1184-1194
    発行日: 2002年
    公開日: 2015/12/07
    ジャーナル フリー
    目的 保健指導者が行動療法による体重コントロールができるようなることを目的にした実施訓練型の教育プログラの結果を評価する。
    方法 事前学習,前期講習,実践学習,後期講習の 4 段階よりなる 4 か月間の教育プログラムを作成し,月刊雑誌と私信による募集に応じた23人(男 6 人,女17人,33.0±7.0歳,医師 3 人,看護婦 3 人,保健婦 4 人,栄養士 8 人,運動指導士 4 人,その他 1 人)に実施した。教育の目標は受講者が 1)実行可能な行動療法プログラムを立案,実施,評価できるようになり,2)減量指導で目標設定のための面接ができ,3)行動療法の概念や基礎理論や接近法などの基本を理解し修得することの 3 点で,そのために,事前学習による知識の修得,受講者への具体的な目標と実践課題の提示,細かな連絡体制と強化,被指導者の疑似体験,面接のロールプレイなど行動的な工夫を行った。
    成績 1)高い課題へのコンプライアンス,すなわち出席率(100%, 96%),質問表の提出率(100%),症例報告の提出率(81%),実践プログラムの実行と事例発表(100%, 96%)と,2)ロールプレイによる面接技能の向上(カウンセラーとしての自己評価とクライアントからの評価)および,3)行動療法による減量指導についての理解度や行動療法実践に対する自己効力が高まった。さらに,指導上の課題が 5 項目で改善しており,研修の満足度も高かった。
    結論 以上より,本プログラムは,指導者教育養成の有効な実践訓練法として開発検討する価値があると考えた。
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