日本公衆衛生雑誌
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68 巻, 12 号
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原著
  • 岩崎 正則, 角田 聡子, 安細 敏弘
    2021 年 68 巻 12 号 p. 865-875
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2021/12/24
    [早期公開] 公開日: 2021/10/22
    ジャーナル フリー

    目的 継続的な口腔管理,定期的な歯科受診は口腔の健康維持に重要である。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により,感染への不安から医療機関への受診を控えるケースが報告されている。定期歯科受診による管理下にあった口腔の状態が,COVID-19感染拡大にともなう定期管理の中断により,どのように変化するかは明らかとなっていない。本研究は,高校生を対象に,学校健康診断(学校健診)のデータと学校健診と同時に実施した質問紙調査から得られたデータを用いて,COVID-19流行下の定期的歯科受診の状況と口腔の状態の変化を検討することを目的とした。

    方法 福岡県内の高等学校1校に在学する高校生のうち2019年度の1年生,2年生であった者878人を解析対象とした。COVID-19流行下での定期的歯科受診の状況,歯科医療機関受診に対する不安について質問紙により調査した。2019年度および2020年度学校健診結果にもとづく永久歯の状態と歯肉の状態の変化と定期的歯科受診の状況の関連をロバスト標準誤差を推定したポアソン回帰分析を用いて評価した。

    結果 対象者878人中,417人(47.5%)が定期歯科受診未実施,320人(36.4%)がCOVID-19流行下での定期歯科受診継続,141人(16.1%)が定期歯科受診中断であった。定期歯科受診中断群では,歯科医療機関受診に不安を抱いている者の割合が30.5%であり,有意に高かった。2019年度の歯科健診時に歯肉の炎症がない者521人における,2020年度の歯科健診時に歯肉の炎症を有する者の割合は,定期歯科受診未実施群で31.0%,定期歯科受診継続群で20.2%,定期歯科受診中断群で38.2%であった。定期受診継続群と比較して,定期歯科受診中断群および定期歯科受診未実施群では,歯肉の炎症を有する者の割合が有意に高く,共変量調整後の発生率比(95%信頼区間)は定期歯科受診中断群で1.95(1.34-2.84),定期歯科受診未実施群で1.50(1.07-2.10)であった。定期歯科受診中断と永久歯の状態の変化の間には有意な関連はなかった。

    結論 本研究の結果から定期歯科受診の中断と歯科医療機関受診への不安感は有意に関連していること,定期歯科受診中断者では学校健診時に新たに歯肉の炎症を有する者の割合が高いことが示された。

  • 吉岡 京子, 藤井 仁, 塩見 美抄, 片山 貴文, 細谷 紀子, 真山 達志
    2021 年 68 巻 12 号 p. 876-887
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2021/12/24
    [早期公開] 公開日: 2021/10/22
    ジャーナル フリー

    目的 本研究の目的は,保健師が策定に参画した保健医療福祉計画(以下,計画とする。)の実行段階における住民との協働に関連する要因を解明し,地域全体の健康レベルの向上に貢献できる保健活動への示唆を得ることである。

    方法 研究の概念枠組みとしてPlan-Do-Check-Act(以下,PDCAとする。)サイクルを用いた。本調査で焦点を当てた計画の実行段階は「Do」に相当するため,調査項目は「Plan」の段階の内容を中心に構成し,計画の実行段階における住民との協働をどの程度取り入れたか,回答者の属性,計画策定への参画状況,組織要因,計画策定の際に用いた方策を含めた。調査対象者は,地方自治体に勤務する常勤保健師のうち,保健師活動指針が発出された2013年以降に計画策定に参画した経験を有する者とした。協力意思を示した220地域(36都道府県,41保健所設置市,153市町村)に2,185人分の調査票を2019年10月~11月に郵送した。二項ロジスティック回帰分析により,住民との協働を取り入れたことと独立変数との関連について検討した。

    結果 1,281人から回答を得た(回収率58.6%)。2013年以降に計画策定の経験がなかった203人と欠損値の多かった50人を除く1,028人について分析した(有効回答率47.0%)。計画の実行段階で住民との協働を「全く取り入れなかった」と回答した者は125人(12.2%),「あまり取り入れなかった」者は293人(28.5%),「少し取り入れた」者は482人(46.9%),「とても取り入れた」者は128人(12.4%)だった。二項ロジスティック回帰分析の結果,係長級以上の職位に就いていること,健康増進計画の策定への参画,住民へのアンケート調査やグループワークの実施,ワーキンググループや計画策定委員会の委員への住民の参加,すでに発表されている研究成果の活用,ターゲット集団の設定および計画実施の進捗管理の実施が,住民との協働を取り入れたことと有意に関連していた。

    結論 保健師が,計画の実行段階における住民との協働を進めていくためには,地域の健康・生活課題解決に向けて住民の声やエビデンスに基づく計画を策定し,確実に実行されるように進捗管理を行う必要性が示唆された。

  • 根本 裕太, 桜井 良太, 松永 博子, 藤原 佳典
    2021 年 68 巻 12 号 p. 888-898
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2021/12/24
    [早期公開] 公開日: 2021/10/22
    ジャーナル フリー

    目的 自然災害時において,情報通信技術(ICT)機器を用いることで,迅速に多様な情報を収集できる。本研究では性別・年齢階級別のICT機器利用状況を示し,ICT機器利用者における自然災害時に想定される情報収集の特徴を明らかにすること,インターネットを介した情報収集手段に関連する人口統計学的要因を解明することを目的とした。

    方法 東京都府中市の18歳以上の住民21,300人を対象に郵送調査を実施した。ICT機器は,パソコン,スマートフォン,タブレット端末,携帯電話の利用状況を調査し,いずれかの機器を利用する者をICT機器利用者とした。自然災害時に想定される情報収集手段として,テレビ,ラジオ,インターネット検索,緊急速報メール,防災行政無線,行政機関のホームページ,近隣住民,家族,友人から該当するものをすべて選択してもらった。このうち,インターネット検索,緊急速報メール,行政ホームページを,インターネットを介した情報収集手段とした。ICT機器利用割合の性差と年齢階級差ならびにインターネットを介した情報収集手段に関連する人口統計学的要因を検討するため,ロバスト分散を用いたポアソン回帰分析を実施した。

    結果 9,201人(回答率43.2%)から有効回答を得た。ICT機器利用者は,70歳未満では95%程度以上,80歳以上では女性66.7%,男性70.6%であった。ICT機器利用者の災害時に想定される情報収集手段は,インターネット検索を選択した者は,女性では60歳未満,男性では70歳未満の70%以上であったが,80歳以上の女性では7.8%と低かった。インターネットを介した情報収集手段に関連する人口統計学的要因は,インターネット検索では,女性,世帯収入が高い者,教育年数が長い者,配偶者がいない者で選択する者が多く,同居者がいる者や高年層,とくに高齢女性では少なかった。緊急速報メールを選択した者は,女性,教育年数が長い者で多く,高年層,配偶者がいない者では少なかった。行政ホームページを選択した者は,女性,教育年数が長い者で多く,同居者がいない者,配偶者がいない者や高年層,とくに高齢女性で少なかった。

    結論 ICT機器利用者における災害時に想定される情報収集手段は性や年齢階級により異なることが示され,インターネットを介した情報収集手段に関連する要因は情報収集手段によって異なることが示唆された。

  • 田村 元樹, 服部 真治, 辻 大士, 近藤 克則, 花里 真道, 坂巻 弘之
    2021 年 68 巻 12 号 p. 899-913
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2021/12/24
    [早期公開] 公開日: 2021/10/22
    ジャーナル フリー

    目的 本研究は,うつ発症リスク予防に効果が期待される65歳以上の高齢者のボランティアグループ参加頻度の最適な閾値を傾向スコアマッチング法を用いて明らかにすることを目的とした。

    方法 日本老年学的評価研究(JAGES)が24市町村に在住する要介護認定を受けていない65歳以上を対象に実施した,2013年と2016年の2時点の縦断データを用いた。また,2013年にうつ(Geriatric Depression Scale(GDS-15)で5点以上)でない人を3年間追跡し2013年のボランティアグループに年1回以上,月1回以上もしくは週1回以上の参加頻度別に,2016年に新たなうつ発症のオッズ比(OR)を,傾向スコアマッチング法とt検定などを用いて求めた。

    結果 参加群は,年1回以上で9,722人(25.0%),月1回以上で6,026人(15.5%),週1回以上で2,735人(7.0%)であった。3年間のうつの新規発症は4,043人(10.5%)であった。傾向スコアを用いたマッチングでボランティアグループ参加群と非参加群の属性のバランスを取って比較した結果,月1回以上の頻度では参加群は非参加群に比べて,Odds比[OR]0.82(95%信頼区間:0.72, 0.93)と,うつ発症リスクは有意に低かった。年1回以上の参加群ではORが0.92(0.83, 1.02),および週1回以上では0.82(0.68, 1.00)であった。

    結論 高齢者のボランティアグループ参加は,月1回以上の頻度で3年後のうつ発症リスクを抑制する効果があることが示唆された。高齢者が月1回でもボランティアとして関わることができる機会や場所を地域に増やすことが,うつ発症予防対策となる可能性が示唆された。

  • 梅木 佑夏, 田淵 貴大
    2021 年 68 巻 12 号 p. 914-924
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2021/12/24
    [早期公開] 公開日: 2021/10/22
    ジャーナル フリー

    目的 受動喫煙には子どもの健康への悪影響がある。そのため,2018年4月1日に東京都では「東京都子どもを受動喫煙から守る条例」が施行された。日本における子どもの受動喫煙の防止を目的とした条例の影響について評価した報告はいまだ存在しない。本研究では,東京都の条例の施行前後の家庭における喫煙ルールの変化について分析し,条例の影響を評価した。

    方法 2018年1月26日~3月20日および2019年2月2~25日に日本の一般住民を対象としてインターネット縦断調査を実施した(JASTIS研究)。東京都居住者とコントロール地域居住者それぞれにおける2018年および2019年の家庭が屋内禁煙である者の割合の変化を差分の差分(Difference-in-Difference, DID)法を用いて分析した。

    結果 コントロール1(東京都を除いた46都道府県に居住する者),コントロール2(関東地方を除いた都道府県に居住する者),コントロール3(政令指定都市を有する都道府県に居住する者)の3種類のコントロールを用いて解析を行ったが,共変量調整DIDは,コントロール1で−1.0%ポイント(95%信頼区間(CI)=−5.8, 3.9),コントロール2で−1.0%ポイント(95% CI=−5.9, 4.0),コントロール3で−1.0%ポイント(95% CI=−5.9, 3.9)であり,いずれのコントロールを用いた場合も有意差を認めなかった。また,性別,年齢,喫煙状況,世帯年収,住居,仕事の状況,学歴,婚姻状況のいずれの属性で層別化した場合でも有意差は認められなかった。

    結論 本研究により,「東京都子どもを受動喫煙から守る条例」施行前の2018年と施行後の2019年で,東京都民の家庭での喫煙ルールは変化しなかったことが明らかになった。今後の自治体における受動喫煙防止条例の立案および推進方策について検討する上で,本研究は有用な資料になるものと考えられる。

正誤表
  • LINGLING, 辻 大士, 長嶺 由衣子, 宮國 康弘, 近藤 克則
    2021 年 68 巻 12 号 p. 925
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2021/12/24
    ジャーナル フリー

      第67巻第11号(2020年11月15日発行)「LINGLING,他.高齢者の趣味の種類および数と認知症発症:JAGES 6年縦断研究」において,以下の箇所に誤りがありました。お詫びとともに下記のとおり訂正いたします。

    P800 筆者•共著者の所属•責任著者連絡先の修正 下線部が訂正箇所

    Ling LING,辻  大士2∗,長嶺由衣子2∗,3∗,宮國 康弘4∗,5∗,近藤 克則2∗,4∗

     千葉大学大学院医薬学府先進予防医学共同専攻博士課程

     2∗筑波大学体育系

     3∗東京医科歯科大学医学部付属病院総合診療科

     4∗国立長寿医療研究センター老年学•社会科学研究センター老年学評価研究部

     5∗医療経済研究機構研究部

    責任著者連絡先:〒260-8670 千葉市中央区亥鼻1-8-1 千葉大学大学院医薬学府

    Ling LING

    LINGLING,辻  大士2∗,長嶺由衣子3∗,6∗,宮國 康弘4∗,5∗,近藤 克則4∗,6∗

     千葉大学大学院医学薬学府先進予防医学共同専攻博士課程

     2∗筑波大学体育系

     3∗東京医科歯科大学医学部付属病院総合診療科

     4∗国立長寿医療研究センター老年学•社会科学研究センター老年学評価研究部

     5∗医療経済研究機構研究部

     6∗千葉大学予防医学センター

    責任著者連絡先:〒263-8522 千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33 千葉大学大学院医学薬学府

    LINGLING

    P810 筆者•共著者の所属 下線部が訂正箇所

    Wrong

    Ling LING, Taishi TSUJI2∗, Yuiko NAGAMINE2∗,3∗, Yasuhiro MIYAGUNI4∗,5∗, Katsunori KONDO2∗,4∗

     Docter Course in Graduate School of Medical and Pharmaceutical Sciences, Chiba University

     2∗Faculty of Health and Sport Sciences, University of Tsukuba

     3∗Department of Family Medicine, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Tokyo Medical and Dental University

     4∗Department of Gerontological Evaluation, Center for Gerontology and Social Science, National Center for Geriatrics and Gerontology

     5∗Research Department, Institute for Health Economics and Policy

    Correct

    LINGLING, Taishi TSUJI2∗, Yuiko NAGAMINE3∗,6∗, Yasuhiro MIYAGUNI4∗,5∗, Katsunori KONDO4∗,6∗

     Doctor Course in Graduate School of Medical and Pharmaceutical Sciences, Chiba University

     2∗Faculty of Health and Sport Sciences, University of Tsukuba

     3∗Department of Family Medicine, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Tokyo Medical and Dental University

     4∗Department of Gerontological Evaluation, Center for Gerontology and Social Science, National Center for Geriatrics and Gerontology

     5∗Research Department, Institute for Health Economics and Policy

     6∗Center for Preventive Medical Sciences, Chiba University

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