日本公衆衛生雑誌
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52 巻, 12 号
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原著
  • 柴﨑 智美, 永井 正規, 渕上 博司, 仁科 基子, 太田 晶子, 川村 孝, 大野 良之
    2005 年 52 巻 12 号 p. 1009-1020
    発行日: 2005年
    公開日: 2014/08/06
    ジャーナル フリー
    目的 過去に実施された 4 回の医療受給者全国調査で入手された情報をリンケージし,最長13年間における受給継続状況を,疾患別,性年齢別,医療保険の種類別,都道府県別に明らかにする。また性別・疾患別の受給継続率を推計し,特定疾患治療研究事業対象者の医療受給者証交付継続状況を明らかにする。
    方法 1992年度給付対象であった34疾患の受給者について,過去 4 回(1984年度,88年度,92年度,97年度)実施した医療受給者全国調査の各年度のデータを,疾患毎に①性,生年月日と居住地都道府県が一致した場合に同一者とみなす②受給者番号と居住地市町村が年度間で一致した場合は,性,生年月日の年号,年,月と日の 5 つのなかで 4 つが一致すれば同一者とみなすとする方法で個人単位のリンケージを行った。各調査年度に観察された受給者がそれ以降に実施された全国調査の時点でも受給しているか否かで継続状況を区分した。この区分方法で,疾患毎に各年度の受給者のその後 4(または 5), 8(または 9), 13年間の継続率を算出した。さらに,受給継続率の推計値を単年毎に算出し,84, 88, 92年度受給者から得られた単年毎の継続率を平均した平均受給継続率も算出した。
    結果 受給者全体では,約70%が 4 年,約55%が 8~9 年受給を継続し,25~30%程度が受給を 4 年以内に中止している。疾患別には,全身性エリテマトーデスやベーチェット病などのいわゆる自己免疫疾患で長期に受給を継続する者の割合が高く,劇症肝炎,アミロイドーシス,筋萎縮性側索硬化症など生命予後の比較的不良な疾患で継続する割合が低い。また男より女の方が長期継続者の割合が高い。
     受給継続率は,受給者全体よりも各調査年度の新規受給者で低く,給付対象となった年度が古い疾患では,男の受給継続率が女よりも低くなっているが,最近給付対象となった疾患では男の方が女よりも高い傾向がある。
    結論 過去 4 回の医療受給者調査のリンケージデータを利用することによって,性・年齢別,都道府県別,疾患別,保険の種類別に特定疾患医療受給者の受給継続状況,最長13年後までの受給継続率の特徴を明らかにすることができた。特定疾患に関する医療制度を始めとする医療・保険制度の改革が行われていく中で,これらの社会的な要因によって受給継続状況は変化することが予測され,今後も注意深い観察が必要である。
  • 上島 通浩, 柴田 英治, 酒井 潔, 大野 浩之, 石原 伸哉, 山田 哲也, 竹内 康浩, 那須 民江
    2005 年 52 巻 12 号 p. 1021-1031
    発行日: 2005年
    公開日: 2014/08/06
    ジャーナル フリー
    目的 2-エチル-1-ヘキサノール(以下,2E1H)は,我が国で室内空気汚染物質として注目されることがほとんどなかった揮発性有機化学物質(以下,VOC)である。本研究では,2E1H による著しい室内空気汚染がみられた大学建物において,濃度の推移,発生源,学生の自覚症状を調査した。
    方法 1998年に竣工した A ビルの VOC 濃度を2001年 3 月から2002年 9 月にかけて測定した。対照建物として,築後30年以上経過したBビルの VOC 濃度を2002年 9 月に調査した。空気中カルボニル化合物13種類はパッシブサンプラー捕集・高速液体クロマトグラフ法で,その他の VOC41 種類は活性炭管捕集・ガスクロマトグラフ-質量分析(GC-MS)法で測定した。2002年 8 月に床からの VOC 放散量を二重管式チャンバー法で,空気中フタル酸エステル濃度をろ過捕集・GC-MS 法で測定した。講義室内での自覚症状は,2002年 7 月に A ビル315名および B ビル275名の学生を対象として無記名質問票を用いて調査した。
    結果 2E1H だけで総揮発性有機化学物質濃度の暫定目標値(400 μg/m3)を超える場合があった A ビルの 2E1H 濃度は冬季に低く,夏季に高い傾向があったが,経年的な低下傾向はみられなかった。フタル酸エステル濃度には 2E1H 濃度との関連はなかった。2E1H 濃度は部屋によって大きく異なり,床からの 2E1H 放散量の多少に対応していた。床からの放散量が多かった部屋では床材がコンクリート下地に接していたが,放散量が少なかった部屋では接していなかった。講義室内での自覚症状に関して,2E1H 濃度が低かった B ビル在室学生に対する A ビル在室学生のオッズ比の有意な上昇は認められなかったが,鼻・のど・下気道の症状を有する学生は A ビルのみにみられた。
    結論 2E1H 発生の機序として,床材の裏打ち材中などの 2-エチル-1-ヘキシル基を持つ化合物とコンクリートとの接触による加水分解反応が推定された。両ビル間で学生の自覚症状に有意差はなかったが,標本が小さく検出力が十分でなかった可能性もあった。2E1H 発生源対策とともに,高感受性者に注目した量反応関係の調査が必要である。
  • 西連地 利己, 磯 博康, 入江 ふじこ, 山岸 良匡, 高橋 秀人, 野田 博之, 深澤 伸子, 大田 仁史, 能勢 忠男
    2005 年 52 巻 12 号 p. 1032-1044
    発行日: 2005年
    公開日: 2014/08/06
    ジャーナル フリー
    目的 健康日本21の市区町村計画策定を支援するために,危険因子への介入による死亡率低下予測が可能な地域診断ツールを開発する。
    方法 地域における死亡率低下割合の予測に必要な相対危険度と回帰係数を算出するために,茨城県健診受診者生命予後追跡調査のデータを用いて,1993年度の基本健康診査を受診した40歳~69歳の男性25,201人,女性51,776人を対象とし,2002年までの死亡を追跡した。総死亡率,全循環器疾患死亡率,脳血管疾患死亡率,虚血性心疾患死亡率,全がん,および肺がん死亡率に対する喫煙(吸う),多量飲酒 (1 日 3 合以上),肥満(Body Mass Index: BMI≧30),高血圧(収縮期≧160 mmHg,拡張期≧100 mmHg,高血圧治療中),高コレステロール(240 mg/dl 以上,ただし50歳以上の女性は260 mg/dl 以上,高脂血治療中),低 HDL コレステロール(35 mg/dl 未満),糖尿病(空腹時126 mg/dl 以上,非空腹時200 mg/dl 以上,糖尿病治療中)の相対危険度を Cox 比例ハザードモデルにより算出した。また,BMI,収縮期血圧,総コレステロール,HDL コレステロール,血糖について,二次項を含めた Cox 比例ハザードモデルにより回帰係数を算出した。これらの結果を基に,効果分画により,危険因子の変化による死亡率低下割合が予測可能なツールを Microsoft EXCEL を用いて開発した。
    成績 本ツールの開発により,地域での現在の危険因子保有者の割合(曝露人口割合),平均値・標準偏差と目標とするそれらの値を入力することにより,その目標を達成した場合の死亡率の低下割合をシミュレーションできるようになった。本研究の対象集団において,各危険因子の保有者割合が半減した場合,および各検査値の分布が変化した場合の死亡率の低下割合を推定した結果,喫煙率が半減した場合,男性では総死亡率が10%低下する可能性が示された。高血圧者の割合が半減した場合,男性では全循環器疾患死亡率が12%,女性では11%低下する可能性が示された。また,収縮期血圧の平均値を10%低下させた場合,男性では全循環器疾患死亡率が22%,女性では18%低下する可能性が示された。
    結論 本ツールは,都道府県と市区町村が連携して地域診断を推進するための,一つのツールとなり得る。
公衆衛生活動報告
  • 杉下 由行, 前田 秀雄, 森 亨
    2005 年 52 巻 12 号 p. 1045-1049
    発行日: 2005年
    公開日: 2014/08/06
    ジャーナル フリー
    目的 日本では,管針を用いた経皮接種により BCG 接種が行われている。本調査の目的は BCG 接種による針痕数が接種医によって異なるか否かを検証することである。
    対象と方法 東京都葛飾区の 3 歳児健診に来所した218人に調査を行った。対象者全員が葛飾区の保健所で生後 4 か月時に管針法による BCG 接種を受けている。管針法では最大18個の針痕を確認する事ができる。BCG 接種による針痕数の調査を行い,接種医別にその個数をまとめた。
    結果 平均針痕数は9.23個(SD6.11)であった。同じ管針法で行われた特別区22区の平均針痕数(12.18±5.64)より有意に低く(P<0.01),22区の中で 3 番目に低い結果であった。平成12年結核緊急実態調査での全国の針痕数の調査結果と比較しても,葛飾区の平均針痕数は有意に低かった(P<0.05)。葛飾区では 7 人の接種医の間で平均針痕数は明らかな違いを認めた。良好な接種医上位 2 人の平均針痕数はそれぞれ15.26個(SD3.62)と14.59個(SD3.58)で 7 人の接種医の平均針痕数より有意に高く(P<0.01),良好でない接種医 1 名の平均針痕数は,3.34個(SD4.46)で 7 人の接種医の平均針痕数より有意に低かった(P<0.01)。
    結論 接種医により平均針痕数は有意な違いを認めた。針痕の個数が少ないのは特定の接種医の技術に問題があるためで,接種技術水準向上のためには,これらの接種医に対する技術訓練が必要であると考えられた。
資料
  • 大久保 豪, 斎藤 民, 李 賢情, 吉江 悟, 和久井 君江, 甲斐 一郎
    2005 年 52 巻 12 号 p. 1050-1058
    発行日: 2005年
    公開日: 2014/08/06
    ジャーナル フリー
    目的 介護予防事業における男性高齢者の参加割合は少ないと言われている。より効果的,効率的な介護予防事業の実施のために,男性の参加を促す必要があるが,その参加に関わる要因を検討した研究はこれまでに行われていない。本研究では,介護予防事業例の検討を通じて男性高齢者の介護予防事業への参加に関わる事業側の要因を探り,男性高齢者の参加を促進するために有益な知見を得ることを目的とした。
    方法 平成14年 3 月に厚生労働省老健局計画課がまとめた『介護予防事例集』に掲載されている介護予防事業例を検討した。事例数は32自治体73事例である。事例集に掲載のない男女別参加人数,より詳細な事業特性について把握するために自治体への電話調査を行った。分析項目は内容,目的,対象者,周知方法,企画立案段階における地域高齢者の参画度,活動内容設定に関する参加者の参画度および地域特性である。男女別参加者数を把握できた事例のうち,参加者の少ない 1 事業と参加型の事業ではない 2 事業を除外した29事例を対象に男性参加割合と特性との関連を分析した。
    結果 約50%は男性の参加割合が20%未満であった。総人口が 1 万人未満,高齢化率が20%以上,茶話・ふれあいサロン系の内容,当該年齢以上の住民全員対象,民生委員等へのチラシ配布による周知に該当する事業で非該当事業に比べて統計的有意に男性参加割合が低かった(P<.10)。統計的有意では無かったものの,第 1 次産業就業人口割合が10%以上,転倒予防目的に該当する事業で男性参加割合が低く,教養,健康情報の講義という事業内容に該当する事業で男性参加割合が高い傾向がみられた。
    結論 男性高齢者の介護予防事業への参加割合が低い現状が明らかになるとともに,茶話やふれあいサロンのような内容など事業要因との関連がみられた。今後は,より代表性の高い標本を用いた研究を行うほか,同一自治体における事業間比較や,地域住民調査により参加に関連する個人的要因の把握も通じ,男性高齢者が参加しやすい事業のあり方についてさらに検討を進めるすることが重要と考えられる。
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