日本公衆衛生雑誌
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64 巻, 12 号
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原著
  • 小堀 栄子, 前田 祐子, 山本 太郎
    2017 年 64 巻 12 号 p. 707-717
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/01/05
    ジャーナル フリー

    目的 日本在住外国人の死亡率を日本人と比較し,その特徴と傾向を明らかにする。また,日本在住外国人の健康に関する研究の意義と今後の方向性について考察する。

    方法 対象は日本在住外国人とした。データ(2010年)は政府統計から入手した。外国人の実際の人口により近いと考えられる法務省の登録外国人統計による外国人登録者数を用いた死亡率を新たに算出し,外国人の死亡率と日本人の死亡率を比較した。

    結果 死亡総数の年齢調整死亡率(人口10万対)は男性571.5,女性316.1で,日本人の値を1としたときの率比は男性1.1,女性1.0であり,日本人とほぼ同等の年齢調整死亡率であった。しかし,年齢階級別の率比は,20-34歳で0.3-0.5,35-59歳で0.6-1.0,60歳以上で1.0-1.4と,年齢階級とともに上昇していた。一般的に外国人は日本人より多くの面で不利な状況にあると思われるが,若年層から中年層の死亡率は日本人より低く,高年層では日本人より高くなっていた。同様の傾向は,主要死因別死亡率でもみられたが,不慮の事故,自殺による死亡率は中年層でも日本人より死亡率が高かった。また,高年層では主要死因別死亡率が全般的に日本人より高い中で,とくに自殺による死亡率が高かった。

    結論 本研究結果は,若年層および中年層の外国人は日本人より健康であり,日本でもヘルシー・マイグラント効果が存在する可能性を示している。しかし,その効果はその国での在住期間が長いと減少・収束するという報告があり,若年・中年層でみられた低い死亡率は,何もしなければやがて上昇に転じ,日本人のそれを上回ることも考えられる。死因別にみれば,中年層では外因死(不慮の事故,自殺)による死亡率が高く,また,高年層ではヘルシー・マイグラント効果の減少や収束にとどまらない高い死亡率の死因が多く,中でも自殺による死亡率はとくに高く,いずれも留意されるべきである。死亡率の算出値には,過小評価や過大評価の影響がまだ残されている。しかし,その影響の程度は小さく,算出値の妥当性が公表値のそれに比べて劣るとの根拠として十分ではない。ヘルシー・マイグラント効果に関するさらなる研究は,日本在住外国人の現在と将来の健康課題の解明とその対策に有用であると思われる。

  • 山田 知佳, 小林 恵子, 関 奈緒
    2017 年 64 巻 12 号 p. 718-726
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/01/05
    ジャーナル フリー

    目的 問題飲酒の早期発見と適切な介入のための示唆を得るために,交代勤務労働者の飲酒行動の特徴と問題飲酒に関連する要因を明らかにする。

    方法 A工場の全従業員を対象に無記名自記式質問紙調査を実施した。交代勤務労働者が全員男性であったため,性差を考慮し,日勤者から女性を除外し,230人を分析対象とした。調査内容は問題飲酒の有無,飲酒行動,問題飲酒の関連項目等とし,交代勤務と問題飲酒,交代勤務および問題飲酒と各飲酒行動等の関連について分析を行った。また「問題飲酒の有無」を従属変数とし,単変量解析でP<0.20の変数を独立変数として,年齢を強制投入した上で,変数減少法による二項ロジスティック回帰分析を行った。

    結果 交代勤務労働者の飲酒行動の特徴として,「自宅」での飲酒が日勤者に比べ有意に多かった(P=0.037)。交代勤務労働者の飲酒理由は日勤者に比べ「よく眠れるように」(P=0.006)が有意に多く,入眠のために飲酒することがある交代勤務労働者が,日勤者に比べ有意に多かった(P<0.001)。

     「入眠のための飲酒あり」(OR 6.38, 95%CI:2.11-19.29, P=0.001),「(職業性ストレスの)身体的負担が高いこと」(OR 2.24, 95%CI:1.11-4.51, P=0.024)は問題飲酒のリスク増加と有意に関連が認められ,「家族・友人からのサポートが高いこと」は問題飲酒のリスク減少と有意な関連が認められた(OR 0.75, 95%CI:0.58-0.97, P=0.030)。

    結論 男性交代勤務労働者の飲酒行動の特徴と問題飲酒の関連要因について検討した結果,日勤者に比べ「自宅での飲酒」,「入眠のための飲酒」が有意に多いことが特徴であった。

     男性交代勤務労働者の問題飲酒のリスク増加には,「入眠のための飲酒あり」,「身体的負担が高い」ことが関連し,「家族・友人からのサポート」は問題飲酒のリスク減少に関連していたことから,夜間の勤務終了後の入眠困難感を把握し,飲酒以外の対処行動を支援するとともに,友人や家族からのサポートの重要性について啓発が必要である。

公衆衛生活動報告
  • 岩田 光宏
    2017 年 64 巻 12 号 p. 727-733
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/01/05
    ジャーナル フリー

    目的 ひきこもり支援の裾野を広げるためにはひきこもりサポーター養成派遣事業を活用することが重要である。そこで堺市におけるひきこもりサポーター養成派遣事業の取り組みを報告し,3年間の活動報告から効果的な事業のあり方について検討した。

    方法 堺市ではひきこもりサポーター養成派遣事業として,ひきこもりの集団支援段階に当事者のピアサポーターを活用することを目的とした「堺市ユース・ピアサポーター養成派遣事業」を実施した。2013年度から2015年度までの3年間に実施された養成講座とピアサポーターによる活動状況を分析した。

    活動内容 ひきこもり相談の利用を経て社会参加活動を開始している者を対象に,グループワークの企画方法に関する講座など全4回の養成講座を3年間で3クール実施したところ,15人(男性11人,女性4人,平均年齢31.9歳,ひきこもり期間の平均76.5か月)が受講してピアサポーターとして登録した。その全員がピアサポーター活動を開始し,延べ453回の活動をした。ピアサポーターにより延べ30回のグループワークが企画され,延べ372人の利用者が得られ,ひきこもりの集団支援を充実させることができた。

    結論 本報告の養成講座およびグループワークの企画というピアサポーター活動は,ピアサポーター自身の経験を活かせる,ひきこもり事例に対する間接的な支援であるなどの点から,ひきこもりのピアサポーターが取り組みやすいものであったと思われた。ピアサポーターによる支援によって集団支援が充実したと同時に,ピアサポートによる影響が生じ,ピアサポーター自身の主体性の回復にも繋がる取り組みであった。

資料
  • 坂口 景子, 武見 ゆかり
    2017 年 64 巻 12 号 p. 734-744
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/01/05
    ジャーナル フリー

    目的 健康日本21(第二次)では健康寿命の延伸,健康格差の縮小に向け,個人の生活習慣変容と社会環境の整備が重要とされた。社会環境の一部である食環境の整備に焦点を当て,保健所の行政栄養士が地域の飲食店・惣菜店等における食環境整備事業の課題をどのように捉えているかを把握し,保健所が事業を推進する上での課題を検討することを目的とした。

    方法 平成27年3月に全国の保健所489か所(支所は除く)の行政栄養士を対象に食環境整備事業に関する質問紙調査を,無記名,郵送法で実施した。行政栄養士個々人の意見を把握するため,1保健所に複数勤務の場合はそれぞれに回答を依頼した。自由回答の記述は,Berelsonの方法論を参考にした内容分析を用いた。

    結果 489保健所のうち,359保健所(回収率74.3%),行政栄養士599人分を解析対象とした。8割以上の保健所で何らかの事業が実施されており,8割以上の保健所行政栄養士が食環境整備事業を重要と考えていた。しかし,やりがいを感じていない者が半数を超えていた。また,評価方法は,登録店舗数をモニタリングする以外,ほとんど行われていないという課題が示された。また,国や自治体の支援を求めている者は約8割であった。以上より,登録店舗数だけでなく,店舗の利用状況や利用者の反応などを量的・質的に評価する必要性,および国や自治体による法的基盤整備等の支援の必要性が示唆された。

    結論 保健所が食環境整備事業を推進する上での課題として,登録店舗数だけでなく,店舗の利用状況や利用者の反応などを量的・質的に評価する必要性,国や自治体による支援の必要性が明らかとなった。

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