日本公衆衛生雑誌
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56 巻, 12 号
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原著
  • 古川 曜子, 田路 千尋, 福井 充, 鹿住 敏, 伊達 ちぐさ
    2009 年 56 巻 12 号 p. 839-848
    発行日: 2009年
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    目的 身体活動の異なる 2 群の若年女性を対象として,座位を主とする身体活動が糖尿病や循環器疾患のリスク要因に及ぼす影響を,身体的・血液生化学的指標および食事摂取状況の面から比較検討した。
    方法 女子大学学生で特別な運動習慣のない食物栄養学科学生108人を非運動群,激しい運動習慣をもつ健康スポーツ学科学生100人を運動群,合計208人を対象者とし,2004年 6 月中旬~7 月中旬に調査を実施した。身長・体重を含む身体計測,二重エネルギー X 線吸収法(Dual Energy X-ray Absorptiometry; DXA)を用いた体組成,血圧脈派検査装置による四肢血圧および足関節上腕血圧比(Ankle Brachial Index; ABI),血液生化学的検査,7 日間の秤量食事記録(Dietary Record; DR)が実施された。身体的・血液生化学的検査値の各項目,DR から算出された栄養素等摂取量,食品群別摂取量を非運動群と運動群で比較した。
    結果 7 日間の DR を完遂した133人(非運動群78人,運動群55人)を解析対象者とした。両群を比較すると,肥満指標については,Body Mass Index; BMI(kg/m2): 20.5, 21.4,体脂肪率:29.4%, 22.6%であり,非運動群は BMI が低いにも関わらず体脂肪率が有意に高かった。血圧では,足関節の収縮期血圧および ABI が運動群で有意に高く,血液生化学的検査値については,HOMA-β,レプチン,アポ蛋白 B が非運動群で有意に高かった。食事調査では,エネルギー:1550 kcal/日,1853 kcal/日と運動群で有意に高く,ほとんどの栄養素等摂取量が運動群で有意に高かった。
    結論 非運動群で,レプチン等の血液生化学的検査値が有意に高く,ABI が有意に低かった。これは,内臓脂肪を含む体脂肪量の蓄積が影響していると考えられる。非運動群は,身体活動量の増加や習慣的な運動を実施することにより,消費エネルギーを増加させ,消費量に見合った食事量を摂取することが重要であると考えられる。
  • 野原 真理, 宮城 重二
    2009 年 56 巻 12 号 p. 849-862
    発行日: 2009年
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    目的 本研究では,妊産婦に対する親族サポートの実態を確認し,妊産婦の QOL と親族サポートとの関連性を明らかにする。
    方法 都心にある病院産科の母親学級に参加した妊婦362人を対象に自己記入式質問紙を配布し,妊娠後期・生後 1 か月・生後 6 か月(以下妊娠育児 3 時期)に郵送法にて調査した。有効回答を得た151人を解析した。調査内容は,属性,親族サポート,育児,健康状態,QOL である。QOL に関してはオリジナルスケールを使用した。分析方法としては,特に QOL 等の要因分析については,パスモデルによる重回帰分析を行った。
    結果 1) 夫のサポートは妊娠育児 3 時期を通して徐々に高まり,親のサポートは生後 1 か月で最も高かった。しかも,親族サポートが夫や親の協働の中で進められていた。
     2) 親族サポートを 4 類型化し,タイプI(夫・親とも高得点群)の割合は妊娠後期より出産後に増え,逆に,タイプIV(夫・親とも低得点群)は減る。しかも,タイプIではタイプIVに比べて,妊娠育児 3 時期において,育児要因,健康状態,QOL の平均得点が高かった。
     3) QOL のオリジナルスケールは因子分析をした結果,第 1 因子(心理ポジティブ因子),第 2 因子(物的生活因子),第 3 因子(日常生活因子)が抽出・命名された。
     4) QOL の 3 因子に対する要因分析の結果,心理ポジティブ因子では,妊娠育児 3 時期を通して,夫サポートが,物的生活因子では,妊娠後期,生後一か月で夫サポートが,日常生活因子では,生後 6 か月に夫サポートが強い影響要因となる。
    結論 妊産婦への親族サポートの存在とその意義が実証され,しかも,親族サポートと妊産婦の QOL との関わりが確認された。良好な親族サポートが維持されれば,妊産婦の育児,健康状態,QOL も良好であることが示された。
  • 堀田 和司, 奥野 純子, 戸村 成男, 柳 久子
    2009 年 56 巻 12 号 p. 863-874
    発行日: 2009年
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    目的 介護職員の「仕事へのモチベーション」は,施設利用者の生活を左右する介護の質への影響も大きく,質の高い介護が求められる施設にとっては,離職問題だけでなく重要な課題となる。そこで本研究では,介護職員の「仕事へのモチベーション」が,どのような要因と関連し,影響を受けているのかについて検証し,「仕事へのモチベーション」を低下させない職場環境を作るため,どのようなアプローチをするべきかを明らかにすることを目的とする。
    方法 茨城県に所在する介護老人保健施設25に常勤で勤務する各専門職993人(うち介護職員607人)を対象に質問紙調査を実施。「仕事へのモチベーション」と「仕事の有能感」,「仕事への満足感」,「専門職アイデンティティ」,「連携に関する意識」,「専門職イメージ」それぞれの要因との関連について,因果モデルを想定し,構造方程式モデリングによるパス解析を行った。
    結果 「仕事へのモチベーション」に対して,仕事の有能感(β=.176)専門職アイデンティティ(β=.352)介護職イメージ(β=.245)の直接効果が認められ,「仕事の有能感」を媒介変数として,連携に関する意識(β=.164)が,「専門職アイデンティティ」を媒介変数として,仕事への満足感(β=.288)と仕事の有能感(β=.332)が,「仕事の有能感」と「専門職アイデンティティ」を媒介変数として,介護職イメージ(β=.188)の,それぞれから,「仕事へのモチベーション」に対する間接効果が認められた。
    結論 「仕事へのモチベーション」を高めるためには,介護職員が,介護職の仕事に肯定的なイメージを持ち,有能感を持って仕事に望むことや,専門職としてのアイデンティティを確立することが重要となる。そのために,仕事への満足感を得られると共に,看護職・リハビリ職といった他職種を肯定的なイメージで捕らえ,他職種と良好な連携の状態を作ることが出来る環境を整備することが必要である。
公衆衛生活動報告
  • 川崎 千恵, 服部 真理子, 渡邉 洋子, 長野 みさ子
    2009 年 56 巻 12 号 p. 875-882
    発行日: 2009年
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    目的 糖尿病境界域の人に対する血糖自己測定(以下 SMBG)の活用がもたらす作用を,フォーカス・グループ・インタビューにより質的に分析することで,SMBG を用いる意義と効果をもたらすのに関連した要因を明らかにし,公衆衛生活動における保健指導の手法としての有効性について検討することを目的とした。
    方法 糖尿病境界域の人を対象に,3 保健センターで SMBG を用いた自己管理支援事業を行った。事業の参加者のうち,本研究の趣旨に同意した計15人(64.2±5.9歳)を対象にフォーカス・グループ・インタビューを実施し,質的な内容分析を行った。
    結果 SMBG を用いることで得られる効果として,「新しい生活行動の獲得」と「血糖の自己管理ができるようになる」を見出した。これらの効果が得られた参加者では,最終的に事業参加後の空腹時血糖値や HbA1c 値が有意に低下していた。また,これらの効果をもたらすのに関連した要因として,「効果をもたらす条件」と「SMBG の特性と作用」が明らかになった。記録やグループワークを取り入れたプログラムを併用し「効果をもたらす条件」を満たすことで,「手軽に使える利便性」と「数値によるインパクト」という SMBG の特性により複数の作用が働き,効果につながっていることが示唆された。
    考察 糖尿病境界域にある参加者は,SMBG と記録を認知的技法(セルフ・モニタリング)として活用しながら,血糖曲線および血糖関連因子の理解に基づく生活行動の修正と新しい生活行動の獲得を図り,血糖値の改善に至ったと考える。また,SMBG による効果が得られるよう知識の補足や理解の修正を行い,グループメンバーの相互作用を活用することが,SMBG を用いて保健指導を行う上で必要であると考える。
  • 山口 幸生, 甲斐 裕子, 熊本 弘子
    2009 年 56 巻 12 号 p. 883-892
    発行日: 2009年
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    目的 食と運動を扱う初級ヘルスボランティアを対象とし,効果的な支援活動に関する実践法の習得および活動計画の作成,実施,評価までを組み込んだ研修プログラムを開発し,その構成や内容を評価する。
    方法 福岡県久留米市の事業として,研修の対象を活動し始めたばかりの意欲的なヘルスボランティアとするため,行政担当者が既存の 2 団体へ呼びかけた。その結果,18人(平均年齢63.3±6.4)が参加した。研修プログラムは,1)事前通信講座,2)基礎講座 3 日間(9 時間),3)2 か月の活動実践,4)応用講座 1 日(3 時間)から構成された。研修の目標は,①食と運動の健康づくり支援活動に必要な基礎的知識を理解し,②効果的な支援活動を計画でき,③支援活動の評価ができる,ことであった。そのために,事前通信講座で知識学習を促し,基礎講座では行動変容技法および活動の評価法に関する講義を行った。またグループ討論によって活動計画を具体的に作成した。さらに 2 か月の活動直後に実践報告を求め内容を討論した。研修プログラムの評価として,自記式による運動・栄養・行動科学に関する知識(15項目の正解率,各 0-1 点),生活習慣改善支援に関する自己効力感(5 項目,各 0~100%),参加者の研修内容に関する評価(9 項目,各 1-5 点)を用いた。また,研修参加者が研修後の地域実践活動において客観的な活動評価を行ったかどうか,も評価の指標にした。
    結果 知識テスト正解率は,事前通信講座前(54.8%)から基礎講座前(67.1%)にかけて向上した(P<.05)。さらに基礎講座前から基礎講座後(87.6%)にかけて正解率は向上した(P<.05)。生活習慣改善支援に関する自己効力感は,事前通信講座前(35.1%)から応用講座後(53.1%)にかけて向上した(P<.05)。全ての参加者は基礎講座後の活動実践時に,企画した支援活動に参加した地域住民から,アンケートによって企画内容に対する評価を受けた。参加者の本研修プログラムに対する総合評価,講座資料の有効性,グループワークの有効性,スタッフ,取り上げた内容に関する評価はいずれも 5 点満点中 4 点以上と高かった。
    結論 以上より,本プログラムの構成と内容は,意欲的な初級ヘルスボランティアに対する研修として,妥当なものと判断した。
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