日本公衆衛生雑誌
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66 巻, 7 号
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原著
  • 富田 義人, 有馬 和彦, 川尻 真也, 辻本 律, 金ヶ江 光生, 水上 諭, 岡部 拓大, 山本 直子, 大町 いづみ, 中原 和美, ...
    2019 年 66 巻 7 号 p. 341-347
    発行日: 2019/07/15
    公開日: 2019/07/23
    ジャーナル フリー

    目的 地域在宅高齢者において,転倒恐怖感と日常生活活動(Activities of daily living: ADL)の一部を構成する4動作(脊柱屈曲動作,脊柱伸展動作,立位持久力,歩行関連動作)困難との関連を明らかにする。

    方法 対象は,65歳以上の642人(男性267人,女性375人)である。年齢は72.2±5.1歳であった。転倒恐怖感の有無および,その関連要因として痛み(腰痛または膝痛),転倒歴,慢性疾患,白内障の有無について調べた。ADLは,脊柱屈曲動作(車の乗り降り,床から軽い物を持ち上げる,床から5 kgの物を持ち上げる,靴下を履く),脊柱伸展動作(頭の上に手を伸ばす),立位持久力(2時間立つ),歩行関連動作(100 m歩く,階段を昇る,階段を降りる)について困難の有無を調査した。転倒恐怖感と各ADL項目困難との独立した関連を検討するため,転倒恐怖感の有無を従属変数としたロジスティック回帰分析を行った。

    結果 転倒恐怖感有り群は,無し群と比較して男女ともに,有意に年齢が高く(P<0.01),転倒歴を有する割合が高く(P<0.05),痛みを有する割合が高かった(P<0.01)。100 m歩く項目を除いたADL項目困難は,年齢,BMI,性別,転倒歴,痛み,慢性疾患とは独立に転倒恐怖感有りと関連していた。

    結論 転倒恐怖感は,脊柱屈曲動作,脊柱伸展動作,立位持久力,100 m歩く項目を除いた歩行関連動作困難との関連を認めた。

  • 礒野 晃照, 佐伯 和子, 本田 光
    2019 年 66 巻 7 号 p. 348-355
    発行日: 2019/07/15
    公開日: 2019/07/23
    ジャーナル フリー

    目的 東日本大震災では生徒の避難行動が課題となった。そこで本研究では,中学生の津波のリスクに対する認識と避難意思との関連を明らかにする。

    方法 A県太平洋沿岸部にあるB町の中学校全4校の生徒,1~3年生の全251人を対象とした。B町教育委員会の承諾を得て無記名自記式調査票を用いた。中学生は未成年であるため,本人と保護者の同意が得られたものを分析対象者とした。調査内容は個人属性,避難意思,津波のリスクに対する認識(心理的リスク認知,津波の経験,地理的要因の認識,家庭内でのリスク対応)である。津波のリスクに対する認識と避難意思との関連についての分析はピアソンのχ2検定およびフィッシャーの正確検定を用いた。本研究は,北海道大学大学院保健科学研究院倫理審査委員会の承認を得た。

    結果 調査票は有効回答158人(有効回答率62.9%)であった。沿岸部の学校は141人(89.2%),男子81人(51.3%),女子77人(48.7%)であった。中学生の避難意思について,避難すると答えたのは「自治体から避難指示を聞いた時」147人(93.0%),「長い揺れを感じた時」112人(70.9%)であった。自宅の海抜が15 m以下であると認識している者は66人(41.8%)であった。家庭内で家族と津波のリスク対応について話し合っている者は125人(79.1%)であった。津波のリスクに対する認識と避難意思との関連について,「避難指示を聞いた時」において避難すると答えた割合は,自宅の海抜が15 m以下と認識している者が16 m以上と認識している者よりも多かった(100% vs 82.4%,P<0.001)。また,「長い揺れを感じた時」において避難すると答えた割合は,自宅の海抜が15 m以下と認識している者が16 m以上と認識している者よりも多かった(84.8% vs 35.3%,P<0.001)。家庭内で話し合っている者が話し合っていない者よりも多かった(76.8% vs 48.5%,P=0.001)。

    結論 中学生は,自宅の海抜によって津波のリスクをより現実味を持って捉えており,避難意思を持つためには,地理的要因を認識することの重要性が示唆された。また家庭内において津波について話し合うことで,中学生の避難意思は高められることが示唆された。

  • 佐藤 日菜, 田口 敦子, 山口 拓洋, 大森 純子
    2019 年 66 巻 7 号 p. 356-369
    発行日: 2019/07/15
    公開日: 2019/07/23
    ジャーナル フリー

    目的 発達障害は,認知,言語,運動,社会技能の獲得に障害を持つため,できる限り早期に発見し,本人に合わせた援助を考えていく必要がある。こうした中,支援体制の一翼を担うのが,保育所保育士である。そこで,本研究は,保育士による発達上気になる子の保護者への支援の実施状況と支援の実施に関連する要因を明らかにし,保護者への支援を推進するために必要な対策を検討することを目的とした。

    方法 A県内の6市町の全認可保育所の施設管理者および保育士を対象に,アンケート調査を行った。施設管理者には,施設の要因として保育所の体制や,気になる子の保育のための取り組み等について尋ねた。保育士には,保育士の要因として気になる子および保護者への支援に関する知識・態度や,施設内外との連携状況等を尋ねた。また,担当している気になる子を挙げてもらい,その一人一人について保護者への支援状況について尋ねた。保護者への支援の実施の関連要因を検討するために,施設要因,保育士要因を独立変数,保護者への支援の有無を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析の強制投入を行った。

    結果 気になる子は,合計567人であり,発生割合は10.8%であった。気になる子の保護者への支援の実施割合は,「意識的な関係づくり」は73.4%,「発達上の課題の伝達」は39.5%であった。また,「発達上の課題の伝達」の実施の有無を保護者への支援の実施の有無と定義し,これを従属変数,施設の要因や保育士の要因を説明変数とし,多変量解析を行った。その結果,保護者への支援「実施あり」と有意な関連があったのは,「保育カンファレンスに参加し,実施した支援の振り返りを行うこと」,「他機関との連携度」,「支援を行う自信があること」等であった。

    結論 本研究により,気になる子の保護者への支援の実施に関連する要因が明らかになった。発達障害の早期支援体制の整備に向けて,保護者への支援を推進するためには,保育士が実施した支援の振り返りを行えるように,保育カンファレンスの実施方法を検討することや,保育士が,他機関との連携を強めることが必要であると示唆された。たとえば,発達障害者支援地域協議会において保育現場の課題の解決を目指すことも有効であると考えられる。

  • 井上 英耶, 鈴木 智之, 小嶋 美穂子, 井下 英二, 李 鍾賛, 田中 佐智子, 藤吉 朗, 早川 岳人, 三浦 克之
    2019 年 66 巻 7 号 p. 370-377
    発行日: 2019/07/15
    公開日: 2019/07/23
    ジャーナル フリー

    目的 都道府県間には平均寿命の格差が存在し,その要因の分析が必要である。そこで,全国約2,000万人分の特定健康診査データが掲載されているレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)のオープンデータを活用して平均寿命に関連する要因を検討し,今後の健康づくり施策のための基礎資料とすることを目的とした。

    方法 2014年度都道府県別の特定健康診査項目および2015年都道府県別生命表に記載のある平均寿命を使用した。特定健康診査項目については第2回NDBオープンデータを利用し,2015年の国勢調査人口に基づく人口構成基準とし直接法により年齢標準化有所見割合等を算出した。平均寿命と相関の強い要因を抽出して説明変数とし,平均寿命を目的変数として重回帰分析をおこなった。その後,ステップワイズ変数増減法により変数選択を実施した。

    結果 男性の平均寿命と有意な負の単相関があった項目は,飲酒日の2合以上の飲酒,お酒を飲む頻度が毎日,喫煙あり,BMI 25 kg/m2以上,空腹時血糖値126 mg/dL以上,収縮期血圧140 mmHg以上,拡張期血圧90 mmHg以上,中性脂肪150 mg/dL以上,血糖降下薬服用,血圧降下薬服用の10項目,正の単相関があったのはコレステロール降下薬服用であった。また,女性では,喫煙あり,BMI 25 kg/m2以上,拡張期血圧90 mmHg以上,血圧降下薬服用の4項目が負の単相関を示した。重回帰分析において,男性では飲酒日の2合以上の飲酒者,喫煙あり,血圧降下薬服用,血圧140 mmHg以上,空腹時血糖126 mg/dL以上が平均寿命と独立して負の関連がある項目として選択された。また,女性では,喫煙ありと血圧降下薬服用が平均寿命と独立して負の関連がある項目として選択された。

    結論 NDBオープンデータを用いた分析において,都道府県間の平均寿命の格差には,喫煙,飲酒などの生活習慣と高血圧,高血糖などの循環器危険因子が関連する要因であることが推察された。都道府県が健康づくりに関する施策を進める際には,これらの要因に着目して施策をたてることが重要であることが示唆された。

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