日本公衆衛生雑誌
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71 巻, 1 号
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原著
  • 宮脇 梨奈, 加藤 美生, 河村 洋子, 石川 ひろの, 岡 浩一朗
    2024 年 71 巻 1 号 p. 3-14
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/01/26
    [早期公開] 公開日: 2023/09/05
    ジャーナル フリー

    目的 近年,インターネットは,情報を検索し取得するだけでなく,情報発信や共有も可能となっている。それに伴い医療・健康分野でも,健康情報を収集する能力だけでなく,双方向性に対応した多様な能力も必要とされるようになっている。しかし,両方の能力を評価する尺度は見当たらない。そのため,本研究では欧米で開発されたDigital Health Literacy Instrument (DHLI)の日本語版を作成し,その妥当性と信頼性について検討した。またデジタル・ヘルスリテラシー(DHL)の程度と対象者の特徴との関連を明らかにした。

    方法 尺度翻訳に関する基本指針を参考にDHLI日本語版を作成した。社会調査会社にモニター登録している20~64歳男女2,000人(男性:50%,年齢:40.7±12.0歳)にインターネット調査を実施した。DHLI日本語版,社会人口統計学的属性,健康状態,インターネットの利用状況,eヘルスリテラシー(eHEALS)を調査した。構成概念妥当性は,確証的因子分析による適合度の確認,基準関連妥当性は,eHEALSとの相関により検討した。内部一貫性および再検査による尺度得点の相関により信頼性を検証した。DHLと各変数との関連は,t 検定,一元配置分散分析および多重比較検定を用いた。

    結果 確証的因子分析では,GFI=.946,CFI=.969,RMSEA=.054と良好な適合値が得られ,日本語版も原版同様に7因子構造であることを確認した。またeHEALS得点との相関(r=.40,P<.001)を示し妥当性が確認された。信頼性では,Cronbachの α 係数は.92であり,再検査による尺度得点の級内相関係数は r=.88(P<.001)であった。尺度得点は,主に性,世帯収入,健康状態,インターネットでの情報検索頻度および使用端末が関連していた。また信頼性の評価,適応可能性の判断,コンテンツ投稿の下位尺度得点が低い傾向にあった。

    結論 DHLI日本語版は,日本語を介する成人のDHLを評価するために十分な信頼性と妥当性を有する尺度であることが確認された。DHLの低さが健康情報格差につながる可能性もあるため,DHLの向上が必要な者や強化が必要なスキルの特定をし,それに合わせた支援策を検討する必要がある。

  • 亀尾 洋司, 須藤 元喜, 山城 由華吏, 宮村 猛史, 金 憲経
    2024 年 71 巻 1 号 p. 15-23
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/01/26
    [早期公開] 公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    目的 尿失禁の改善では対面で指導する運動療法の有効性は報告されているが,非対面での指導については報告が十分とは言えない状況である。本研究では,地域在住中高年尿失禁女性を対象として非対面の歩行や筋力トレーニング指導による尿失禁の頻度,量およびQOL改善効果を明らかにする。

    方法 対象は,46–64歳女性かつ主観的評価による腹圧性尿失禁有症者68人とした。対象者を無作為割付にて,介入群(n=34)と対照群(n=34)に振り分けた。介入群に対しては,事前に収録した動画にて効果的な歩き方および段階的な歩数の増やし方について指導を行った。加えて,家庭でできる歩行機能の改善を目指す筋力強化など包括トレーニングプログラムについて,ビデオを活用した非対面指導を行った。対照群に対しては,普段通りの生活を送るように指示した。介入期間は12週間とした。主要評価項目である尿もれ頻度スコア,尿もれ量スコア,QOL阻害の程度は,ICIQ-SF QOL質問票(International Consultation on Incontinence Questionnaire-Short Form)を用いて介入前後で比較した。歩数増が主要評価項目に及ぼす影響を解明するために,介入群において,介入前後の歩数増加率を算出し,中央値を境に歩数増加率高群(n=16)および歩数増加率低群(n=16)についてサブ解析を行った。

    結果 介入12週間後の尿漏れ頻度スコア,尿漏れ量スコア,ICIQスコアのすべてにおいて,群間比較での有意差を確認した(P<0.05)。さらに歩数増加率高群でのみ,8週間から尿もれ頻度スコア,ICIQ-SFスコアともに有意な改善傾向を示した。

    結論 本研究は,オープンラベル試験のため,主観的アウトカム評価にバイアスが内在している可能性を考慮した上での解釈が必要である。地域在住尿失禁中高年女性を対象として,非対面で行う指導であっても,歩行および筋力トレーニングによる介入は,尿もれ症状の改善および尿もれによるQOL阻害程度の改善に有効であることが示唆された。さらに,介入により歩数の増加を促すことでより大きな効果が期待できることが示唆された。

公衆衛生活動報告
  • 横山 勝教, 平本 恵子, 藤川 愛, 武智 浩之, 岩瀬 敏秀, 吉田 穂波, 尾島 俊之, 植田 英也, 児玉 佳奈, 村松 司, 宮園 ...
    2024 年 71 巻 1 号 p. 24-32
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/01/26
    [早期公開] 公開日: 2023/10/05
    ジャーナル フリー

    目的 医学生が進路選択をするにあたって,臨床と比較すると公衆衛生医師に関する情報は得にくい状況である。これを改善するために,医学生の就職活動におけるインターネットサービスの活用状況を調査し,その結果に基づいて,6つの動画を制作して公衆衛生医師の確保に向けた広報活動を実践した。

    方法 調査対象は全国の医学部のうち研究協力の得られた18大学の3年次以上の医学生である。医学部の公衆衛生分野の教室へ依頼し,対象学年の学生に一斉メール送信等によりGoogle Formsで作成した無記名自記式アンケートを配布した。「就職情報を収集するのに活用しているインターネットサービス」「就職情報を知るための動画1本あたりの望ましい長さ」「就職先について知りたい情報」を聴取し,制作する動画の配信環境の設定,長さ,内容に反映させた。

    活動内容 3年生14人,5年生177人,6年生300人の合計491人の医学生から回答を得て,集計分析を行った。就職情報を収集するのに活用しているインターネットサービスとして最も多いのはホームページが94.7%であり,ブログ42.0%,Twitter 32.6%,YouTube 18.9%と,一般的な学部の就活生と比較してソーシャルネットワーキングサービスの活用は少なかった。望ましい動画の1本あたりの長さは5分以内までの合計が55.8%,10分以内までの合計が95.1%であった。就職先について知りたい情報は,働いている若手医師の雰囲気が93.1%と最も多く,働いているベテラン医師の雰囲気も74.1%と高かった。これらの結果に基づき,若手からベテランまで6人の出演者を選定して,それぞれの医師の雰囲気が伝わる内容のインタビュー動画を,一人あたり5分以内に編集して制作した。完成した動画は動画配信サービスの一つであるYouTube上に公開し,全国保健所長会のホームページのバナーからもアクセス可能にした。

    結論 医学生の就職活動におけるインターネットサービスの活用状況を踏まえながら,そのニーズに合わせ,公衆衛生医師の確保に向けて,動画を用いた広報活動を始めることができた。動画を用いた広報を有効にするには,各自治体や大学や医療機関との連携を深めることで,オンラインでも対面でも人的ネットワークを拡大しながら,医学生や臨床医における情報源の認知度を高めていく必要がある。

資料
  • 緒方 靖恵, 上原 里程, 横山 美江
    2024 年 71 巻 1 号 p. 33-40
    発行日: 2024/01/15
    公開日: 2024/01/26
    [早期公開] 公開日: 2023/10/05
    ジャーナル フリー

    目的 出生人口に基づいた3か月児健康診査(以下,3か月児健診)のデータ分析から,経済不安と乳児を育てる母親の心理的側面との関連を明らかにし,経済不安を抱える家庭の支援を検討する基礎資料とする。

    方法 対象地域は大都市圏であるA市にある1地域である。2017年11月から2019年10月までに1歳6か月児健康診査を受診した1,013人を対象に母親への調査を実施した。調査票に回答し,かつ健診データの利用について同意が得られた908人の3か月児健診データと母親への調査データの統合データを分析対象とした。このうち,問診票記入者が母親以外の者および多胎児を除外し,847人のデータを分析した(有効回答率93.3%)。

     分析に使用した変数は,母親の心理的側面として3か月児健診時の母親の気分,母親の子どもとの生活への思いを目的変数とした。説明変数は3か月児健診時の母親の経済不安の有無であり,児の性別,児の出生順位,母親の相談者の有無,最終学歴で調整したロジスティック回帰分析を実施した。

    結果 経済不安のある母親は60人(7.1%)であった。3か月児健診時の母親の気分では,不安を感じると回答した母親が122人(14.4%)と最も多く,次いで孤独を感じると回答した母親が36人(4.3%)であった。子どもとの生活への思いでは,776人(91.6%)の母親が楽しいと回答し,567(66.9%)の母親が親になってよかったと回答した。一方,イライラすると回答した母親は157人(18.5%)であり,自分の時間がなく苦痛と回答した母親も75人(8.9%)いた。

     経済不安がある母親は経済不安がない母親と比べて,孤独を感じる者のオッズ比が5.59(95%信頼区間,2.49–12.55)であり,不安を感じる者のオッズ比は4.77(2.67–8.54),子どもとの生活にイライラする者のオッズ比は2.70(1.50–4.86)といずれも有意に高かった。

    結論 3か月児健診時の母親において経済不安があることは,孤独を感じる,不安を感じる,子どもとの生活にイライラするという心理状態と関連していた。経済不安がある母親が少しでも安定した状態で育児できるよう福祉との連携など問題解決に向けた支援が必要であることが示唆された。

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