日本公衆衛生雑誌
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58 巻, 8 号
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原著
  • 古村 美津代
    2011 年 58 巻 8 号 p. 583-594
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 認知症高齢者グループホーム(以下,GH)のケアスタッフが認知症高齢者との関わりの中で抱える困難とその関連要因を明らかし,GH ケアスタッフへの支援を検討する。
    方法 福岡県 A 市の GH 47か所に勤務するケアスタッフ600人に無記名自記式質問紙調査を実施した。回答の得られた333人を分析対象とした。
    調査項目は,基本属性•施設環境14項目,GH ケアスタッフ10人の半構成面接より抽出した認知症高齢者との関わりの中で抱く困難27項目。分析は,GH ケアスタッフが抱える困難27項目の因子分析により因子構造を明らかにした。また困難とその関連要因を検討するため各因子の下位尺度の合計点と基本属性•施設環境との関連を分析した。
    結果 GH ケアスタッフが抱える困難は,「認知症高齢者との葛藤」,「職場のサポート体制」,「スタッフ同士の葛藤」,「負担感」の 4 因子構造となった。各因子の Cronbach の α 係数は0.75~0.82であり内的整合性が確認された。「認知症高齢者との葛藤」と有意に関連していたのは,将来の不安,介護経験,家族の意向の理解,施設理念の理解であった。「職場のサポート体制」と有意に関連していたのは,辞めたいと思った経験,協力体制だった。「スタッフ同士の葛藤」と有意に関連していたのは,将来の不安,辞めたいと思った経験,協力体制,情報交換であった。「負担感」と有意に関連していたのは,将来の不安,辞めたいと思った経験,協力体制,情報交換,勤務の要望であった。
    結論 GH ケアスタッフは,認知症高齢者との関わりの中で様々な困難を抱えていた。ケアスタッフが抱える困難を軽減するためには,GH の施設理念や認知症高齢者に対する家族の意向の理解など教育環境の整備の必要性が明らかになった。またスタッフ間の情報交換や協力体制,個々のケアスタッフが抱える困難に対する個別の支援などの組織的な取り組みが重要であることが明らかになった。
  • 中山 直子, 田村 道子, 高橋 俊彦, 星 旦二
    2011 年 58 巻 8 号 p. 595-605
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 本研究の目的は,子どもたちの学校や家庭の楽しさや健康生活といった Well-Being と保護者の子どもへの健康づくりやコミュニケーションとの関連について,小学生,中学生,高校生の世代別•男女別に共分散構造分析を用いて,総合的•構造的に明らかにすること。
    方法 対象は,首都圏 A 自治体の公立小学校(4 年生)61校3,930人,中学校(1 年生)33校3,611人,高等学校(1 年生)16校3,882人の児童生徒とその保護者である。平成19年11月に自記式無記名の質問紙調査を実施した。分析対象者は,親子でマッチングできた9,651ペアである。探索的因子分析により抽出された 4 因子をもとに潜在変数を命名し,概念モデルを設定し,共分散構造分析を用いて,定量的•構造的な検討を行った。
    結果 探索的因子分析から得られた 4 因子を共分散構造分析で用いる潜在変数として,概念モデルを設定し,モデリングを繰り返し,子どもの楽しい健康生活を規定する関連要因を検討した。その結果,『児童生徒の Well-Being』(『 』は潜在変数を示す)は,『親の子どもの健康への心がけ』から,『親子のコミュニケーション』と『運動』をそれぞれ経由して間接的に関連している構造が定量的に明らかになった。世代別•性別で同時分析した結果,CFI=0.909, NFI=0.889, RMSEA=0.020と良好な適合度が得られた。それぞれの決定係数は,27~40%であった。『子どもの健康への親の心がけ』から『親子のコミュニケーション』への標準化直接効果と,『運動』から『児童生徒の Well-Being』への標準化直接効果は,同様に高い値が示され,さらに,世代別•性別でやや異なる傾向が示された。
    結論 首都圏 A 自治体の公立小•中•高等学校の児童生徒とその保護者のマッチングした調査データから,親の子に対する思いや認識レベルから子どもの Well-Being が直接規定されるのではなく,『親子のコミュニケーション』や『運動』と言った実践活動を経由して間接的に規定される実態と子どもの成長過程に伴う微妙な変化について明らかにすることができた。親子の積極的な会話と子どもの運動支援についての重要性に関する定量的指標が得られた意義は大きいと思われる。
  • 永井 邦芳, 堀 容子, 星野 純子, 浜本 律子, 鈴木 洋子, 杉山 晃子, 新實 夕香理, 近藤 高明, 玉腰 浩二, 榊原 久孝
    2011 年 58 巻 8 号 p. 606-616
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 要介護者人口の増加と社会構造の変化により,介護の役割を担う男性は年々増加傾向にあり,これからの家族介護者の支援については性差を踏まえた上での検討が大切だと思われる。本研究は,男性の非介護者との比較から,男性家族介護者の心身の健康についての特性を明らかにすることを目的としている。
    方法 対象は,在宅で要介護 3 相当以上もしくは要介護 3 未満でも認知症の者を介護している男性家族介護者52人(介護者群)で,平均年齢と標準偏差は69.3±10.9歳であった。調査は,家族介護者の自宅を 2 人の調査員が訪問して行った。対照群は,対象の性と10歳階級ごとの年齢を 1:1 対応でマッチングさせた K 市の一般住民健診を受診した52人で,平均年齢は,69.2±11.1歳であった。調査期間は,2005年12月から2007年 4 月であった。使用した質問項目は,QOL,心理的ストレス関連項目,コーピング,生活習慣等を自記式質問紙にて調査した。
    結果 要介護者平均年齢は75.7±9.5歳であった。居住世帯は,要介護者との 2 人暮らしが28人(53.8%)と半数以上を占め,老老介護の実態が示唆された。健康関連 QOL(SF–8)からは身体的健康領域では,「全体的健康感」と「体の痛み」で介護者群の得点が有意に低く,介護者群は「体の痛み」を自覚しながら生活している傾向があることが明らかとなった。また,精神的健康領域では「心の健康」及び精神的健康サマリースコアの得点が有意に低かった。さらにストレス関連項目においても,介護者群は対照群に比べストレス知覚者が多く精神的心理的に問題を抱えていることが伺われた。生活習慣においては睡眠の量,質ともに対象群に比べ介護者群の方が良くないことが示され,コーピングは「回避的思考」と「気晴らし」の 2 項目で介護者群の得点が有意に低く,回避型のコーピングをとらない傾向が示された。
    結論 男性介護者は心身の健康に対して主観的な健康感が低く,睡眠やストレス知覚についても問題を抱えながら介護のある生活を送っていることがわかった。また,回避型のコーピングをとらない傾向にあることが示され,包括的な支援の必要性が示唆された。
  • 小山 歌子, 村山 伸子
    2011 年 58 巻 8 号 p. 617-627
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 本研究では,地区組織活動の重要な担い手である健康推進員を対象として,質的研究および量的研究を基に健康推進員のエンパワメント評価尺度を作成することを目的とする。
    方法 N 県 S 保健所管内の類似した A 市および B 市の健康推進員 4 グループに,フォーカス•グループ•インタビュー(以下「FGI」とする)を実施し,当事者からみたエンパワメント項目を抽出し,32項目からなる尺度原案を作成した。尺度原案について,郵送による質問紙調査を実施した。調査対象は,FGI を実施した 2 市の平成21年度健康推進員全員660人とした。調査票の回答者数(率)は,401人(60.8%),有効回答者数(率)は356人(53.9%)であり,これらを解析に用いた。
    結果 ①項目分析として,項目—全体相関(I–T 相関),各項目を除外した場合のクロンバック α 係数,上位—下位分析(G–P 分析)より,尺度の内的一貫性が確認された。項目間の相関分析の結果,32項目中,相関が0.7以上であった 4 項目を削除し,28項目が選択された。
     ②28項目についての因子分析の結果,「健康なまちづくり活動」(10項目),「地域の健康課題解決への志向性」(10項目),「民主的な組織活動」(4 項目),「健康推進員の個人としての成長」(4 項目)の 4 つの下位尺度からなる28項目の「健康推進員のエンパワメント評価尺度」が作成された。
     ③「健康推進員のエンパワメント評価尺度」と 4 つの下位尺度のクロンバックの α 係数は,それぞれ0.93,0.88,0.89,0.84,0.79であった。各項目と尺度全体の I–T 相関係数は0.33~0.69の範囲であり,内的一貫性が示された。
     ④「健康推進員のエンパワメント評価尺度」は,健康推進員以外の地域活動をしている人は,していない人より,尺度全体と全ての下位尺度の得点が有意に高かった。60歳以上,活動歴が長い,主婦は,因子 4「健康推進員の個人としての成長」の得点が有意に高かった。
    結論 4 因子28項目からなる評価尺度が得られた。各因子および評価尺度全体において,信頼性•妥当性が確認された。本研究で得られた評価尺度は,今後,健康推進員および彼らを支援する保健師が健康推進員のエンパワメント評価尺度として利用可能である。
研究ノート
  • 田辺 里枝子, 曽我部 夏子, 祓川 摩有, 森 ひろ子, 五関-曽根 正江
    2011 年 58 巻 8 号 p. 628-633
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 出産後 3, 4 か月および 3 年後の女性の踵骨骨量の変化と生活習慣および食習慣との関連について検討することを目的とした。
    方法 東京都 T 区 I 保健所において,3, 4 か月児健康診査および 3 歳児健康診査において骨量測定を行った母親331人を対象とし,身体状況,生活習慣,食習慣等についてのアンケート調査を行った。
    結果 対象者の 3, 4 か月児健康診査に超音波踵骨測定装置で求められた Stiffness から,中央値以上の対象者を骨量高値群,中央値未満の骨量低値群の 2 群に分けた。その結果,「牛乳•乳製品は毎日摂っていますか」の質問に,「はい」と答えた者が骨量高値群で76.2%(128人),骨量低値群で65.6%(107人)であり,群間に有意な差がみられた(P=0.035)。さらに 3 歳児健康診査測定の Stiffness の変化率を算出し,増加群,無変化群,減少群の 3 群に群分けを行ったところ,骨量高値群における増加群は28.6%(48人),無変化群は18.5%(31人),減少群は53.0%(89人)であり,骨量低値群における増加群は56.4%(92人),無変化群は15.3%(25人),減少群は28.2%(46人)であった。「牛乳•乳製品は毎日摂っていますか」の質問について,骨量高値群では群間に有意な差はみられなかったが,骨量低値群では増加群で62.0%(57人),無変化群で48.0%(12人),減少群で39.1%(18人)が「はい」と回答し,3 群間に有意な差が認められた(P=0.036)。一方,「10代に部活などで激しい運動をされていましたか」および「現在運動不足だと思いますか」の運動に関する質問については,骨量高値群•骨量低値群ともに,増加群•無変化群•減少群間に有意な差はそれぞれ認められなかった。
    結論 出産後 3, 4 か月から 3 年までの間に,骨量高値群における骨量が減少した者は53.0%と過半数を占め,骨量低値群においても,28.2%で減少が認められた。出産後 3, 4 か月において骨量が低値であった者では,牛乳•乳製品の積極的な摂取が骨量増加に効果的であることが示唆された。
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