日本公衆衛生雑誌
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54 巻, 3 号
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原著
  • 仲野 裕美, 住野 公昭
    2007 年 54 巻 3 号 p. 145-155
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 アレルギー疾患を有する学生における脂肪酸(FA)栄養の指導上有用な科学的知見を得ることを目的とした。
    方法 19~20歳の女子学生128人を対象に,食物摂取状況調査,血液検査,身体計測を行った。さらに,血清および赤血球膜のガスクロマトグラフィによる脂肪酸分析を行った。また,アレルギー疾患についてアンケート調査を行い,「正常群」59人,「既往群」45人,「アレルギー群」24人の 3 群に分けた。食事 FA が血清 FA および赤血球膜 FA 構成に及ぼす影響について,統計解析を行い,3 群間で比較検討した。
    結果 1. 全対象者において,食事 FA の中で食事 n-3(g)のみが,食事摂取基準の目標量(2.2 g 以上)を充たしていなかったが,身体計測値,血液検査値にアレルギー疾患の影響は認められなかった。一方,食事 n-3(g)は,赤血球膜 n-3(%)と負の相関を示し,食事 n-3(%)は好酸球数(%)と正の相関を示した。また,血清 n-3(%)は食事 S(飽和脂肪酸)(%)と正の相関を示した。
     2. アレルギー群において,反映比赤血球膜 M(一価不飽和脂肪酸)(%)〔赤血球膜 M (%)/食事 M (%)〕は高値であった。また,アレルギー体質群(アレルギー群+既往群)の赤血球膜 M (%)は食事 S (%)と負の相関を示した。
    結論 全対象者は食事 n-3(g)は不足していたが,食事 n-3(g)を増加すると赤血球膜 n-3(%)は低値となり,また,食事 n-3(%)を増加すると好酸球数(%)を増加させる可能性がある。栄養指導時には,食事 S (%)の増加に留意すると,血清 n-3(%)が高値になり,特に,アレルギー体質群は,赤血球膜 M (%)が低値になる可能性が示唆された。
  • 吉田 裕人, 藤原 佳典, 天野 秀紀, 熊谷 修, 渡辺 直紀, 李 相侖, 森 節子, 新開 省二
    2007 年 54 巻 3 号 p. 156-167
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 在宅高齢者を対象とした介護予防事業の効果を経済的側面から評価することを目的とした。
    方法 新潟県与板町において平成12年11月に実施された高齢者総合健康調査(対象は同町65歳以上の全住民1,673人)には1,544人が応答した(応答率92.3%)。この結果を受けて,同町では交流サロン,転倒予防教室,認知症予防教室などの介護予防事業を立ち上げながら,「住民参加」を理念とした介護予防活動を推進してきた。
     平成16年 3 月の時点で同町在住が確認できた70歳以上で高齢者総合健康調査に応答し,平成13年から平成15年の 3 年間に介護予防事業に参加した146人を介護予防事業参加群,同じく70歳以上で高齢者総合健康調査のデータを有しているが,介護予防事業に参加したことがない846人を介護予防事業非参加群と定義した。その上で,2 群間における平成12年度から15年度までの老人医療費(国民健康保険または被用者保険からの給付+自己負担分)および介護費用(介護保険からの給付+自己負担分)の推移を観察し,介護予防事業による費用抑制効果を算出した。また,一般線形モデルにより,性,ベースライン時の年齢,総費用(医療費+介護費用)もしくは健康度(老研式活動能力指標得点,総合的移動能力尺度)を調整した総費用を算出し,事業参加による独立した影響を評価した。
    結果 月 1 人あたり平均医療費は参加群では減少した(平成12年度51,606円/月→平成15年度47,539円/月)が,非参加群では増加した(同41,888円/月→同51,558円/月)。月 1 人あたり平均介護費用は両群とも増加したが,増加の程度は参加群ではわずかであった(参加群,平成12年度507円/月→平成15年度5,186円/月,非参加群,同8,127円/月→同27,072円/月)。非参加群に比べた参加群の総費用の増加抑制の総額は 3 年間では約4,900万円と算出された。
     また,交絡要因調整後の総費用の増加抑制の総額は最も大きな場合,年平均で約1,200万円/年,同じく介護予防事業の純便益は約1,000万円/年であった。これは介護予防事業の独立した効果と考えられた。
    結論 新潟県与板町において平成12年度から展開されてきた介護予防事業は,参加者のその後の医療費や介護費用の伸びを大きく抑制し,費用対効果の極めて優れた保健事業であることが示唆された。
  • 村上 義孝, 橋本 修二, 川戸 美由紀, 多田 有希, 重松 美加, 谷口 清州, 泉田 美知子, 永井 正規
    2007 年 54 巻 3 号 p. 168-177
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 感染症発生動向調査に基づいた警報・注意報法における,警報・注意報の基準値変更にともなう影響について,5 類感染症の定点報告疾患を対象に検討した。
    方法 感染症発生動向調査に実装された現行の方法と同様に,感染症流行の警報発生は,定点あたり報告数が警報の基準値を超えた場合とし,注意報は警報非発生時に注意報の基準値を超えた場合とした。現行の感染症流行の警報・注意報の基準値の他に,警報の開始基準値を上げた/下げた場合,終息基準値を上げた/下げた場合の 5 種類について,警報発生延べ週数,全延べ週数に占める割合,現行の発生週数を 1 としたときの比の 3 つを算出した。また注意報の対象疾患で注意報延べ週数,割合および比を算出した。データは1999-2003年度 5 年間の感染症発生動向調査の保健所別定点あたり報告数とした。
    成績 警報発生数の推移をみると,警報基準値を下げた場合,警報増加の開始週が早まるとともに警報収束の週が遅れる傾向が観察され,逆に基準値を上げた場合,警報開始週が遅れるとともに収束する週も早まる傾向があった。警報発生の延べ週数は警報基準値を上げると減少,下げると増加する傾向にあり,適度な範囲で基準値を変化させると,警報発生の延べ週数は多くの疾患で0.5倍から 2 倍程度の変動を示した。注意報でも同様の傾向を示し,基準値の変化によりインフルエンザ,水痘は0.4倍から 2 倍程度,麻疹,流行性耳下腺炎では0.3倍から 3 倍程度の変動であった。百日咳,風疹で警報の発生頻度が少ないのを除き,他疾患では全観察週の 5%前後の警報週が観察された。
    結論 感染症発生動向調査に基づいた警報・注意報システムにおいて,警報・注意報の基準値変更にともなう警報・注意報の推移と頻度を検討し,基準値を下げることによる警報・注意報の増加,および上げることによるそれらの減少を観察された。百日咳,風疹で警報の発生頻度が少ないのを除き,各疾患の警報基準値に大きな問題がないことが確認された。
  • 岩井 雅恵, 吉田 弘, 松浦 久美子
    2007 年 54 巻 3 号 p. 178-189
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 河川のウイルス汚染の経年変化を把握し,水系感染症の流行予測,および予防に役立てることを目的に,富山県内 3 河川のウイルス調査を長期にわたり実施した。
    方法 富山県内の 3 河川「いたち川」,「千保川」,「小矢部川」の定点から河川水を採取し,濃縮処理後培養細胞に接種してウイルスを分離した。「いたち川」では 4 回の調査(第 1 回:1979~1981年,第 2 回:1983~1985年,第 3 回:1993~1995年,第 4 回:2002~2003年),「千保川」と「小矢部川」では 2 回の調査(「いたち川」の第 3, 4 回と同時期)を行った。
    結果 1) 「いたち川」の 4 回にわたる調査で,ポリオウイルス,ヒトエンテロウイルス B 群(HEV-B),レオウイルス等,多種類の腸管系ウイルスが分離された。ポリオウイルスは,乳幼児への生ワクチン投与時期に検出されたため,ワクチン由来株であると推測された。第 3, 4 回調査で分離された株の VP3-VP1 領域480塩基あるいは474塩基は,ワクチン株と 0~2 塩基のみの違いであった。ポリオウイルスの検出頻度(全調査回数中,ウイルスが検出された調査回数の割合)は,第 1 回33.3%,第 2 回41.7%,第 3 回2.1%,第 4 回 0%であり,第 3 回以降,有意に低下した(P<0.001)。これは,乳幼児の紙おむつ使用量が上昇した時期と一致した。HEV-B は,年ごとに様々な型が検出され,その時期のヒトの臨床分離株と一致する株が多数存在した。レオウイルスは,第 1, 2 回では年間を通して頻繁に検出されたが,第 3, 4 回では春期から夏期の検出頻度が低下した。
     2) 「千保川」と「小矢部川」から検出されたウイルスの種類や頻度は,「いたち川」と類似していた。
    結論 2002年から2003年の河川水のポリオウイルスおよびレオウイルスの汚染度は1979年から1981年の汚染度よりも低くなっていた。これは,下水道の整備や,乳幼児の紙おむつ使用率の上昇等,生活様式が変化したことによると推測される。HEV-B の検出頻度に大きな変化が認められず,種類が年ごとに様々であったのは,地域の HEV-B 流行状況を反映するためと考えられた。このように,河川のウイルス汚染度は総じて低くなった。しかしながら,いまだ河川は多種類のウイルスに汚染されているため,水系感染症の発生要因となる可能性がある。
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