日本公衆衛生雑誌
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63 巻, 9 号
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原著
  • 井原 正裕, 高宮 朋子, 大谷 由美子, 小田切 優子, 福島 教照, 林 俊夫, 菊池 宏幸, 佐藤 弘樹, 下光 輝一, 井上 茂
    2016 年 63 巻 9 号 p. 549-559
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/04
    ジャーナル フリー

    目的 近年の身体活動支援環境に関する研究成果より,地方よりも都市部の住民の身体活動レベルが高いと予想されるが,これを実証するデータは乏しい。そこで,国民健康・栄養調査のデータを用い,都市規模による 1 日の歩数の違いを比較検討した。

    方法 2006-2010年の国民健康・栄養調査における歩数計を用いた 1 日歩数調査に協力した20歳以上の男性15,763人,女性18,479人を対象とした。5 年分のデータを統合し,男女別に,歩数を都市規模間で(以下,市郡番号 1;12大都市・23特別区,2;人口15万人以上の市,3;人口 5 万人以上15万人未満の市,4;人口 5 万人未満の市,5;町・村)年齢調整の上,共分散分析および多重比較検定を行い,さらに傾向性検定を行った。年齢区分あるいは仕事の有無による層別解析も行った。統計法に基づき本データを入手し,研究実施に当たり,東京医科大学の医学倫理委員会の承認を得た。

    結果 年齢調整した 1 日当たりの歩数は,男性は市郡番号 1 では7,494±4,429歩(平均±標準偏差),市郡番号 2 では7,407±4,428歩,市郡番号 3 では7,206±4,428歩,市郡番号 4 では6,911±4,428歩,市郡番号 5 では6,715±4,429歩で,都市規模により有意に異なった(P<0.001)。女性は,都市規模が大きい順に,6,767±3,648歩,6,386±3,647歩,6,062±3,646歩,6,069±3,649歩,6,070±3,649歩で,男性と同様に都市規模により有意に異なった(P<0.001)。傾向性検定の結果,男女とも都市規模が大きいほど平均歩数が多かった(P for trend <0.001)。層別解析の結果,男女ともに年齢区分,仕事の有無によらず平均歩数は都市規模により有意に異なった。多重比較検定では,仕事のない男性,65歳以上の男性および女性では都市規模が小さい市群番号 3, 4, 5 の居住者間で平均歩数に差は認められず,仕事のある男性における,都市規模が小さくなるに従って歩数が減少するパターンとは異なっていた。

    結論 男女ともに,年齢調整後も都市規模により歩数は異なり,人口が多い都市の住民ほど人口が少ない都市の住民より歩数が多かった。また,都市人口の規模と歩数の関係は性別,年齢層や仕事の有無といった対象者の特性により異なった。

  • 佐藤 慎一郎, 根本 裕太, 高橋 将記, 武田 典子, 松下 宗洋, 北畠 義典, 荒尾 孝
    2016 年 63 巻 9 号 p. 560-568
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/04
    ジャーナル フリー

    目的 本研究は地域在住の自立高齢者を対象に,膝痛の包括的な関連要因を男女別に明らかにすることを目的とした。

    方法 山梨県都留市下谷地区在住の65歳以上の要介護認定を受けていないすべての高齢者1,133人を対象に,健康状態,生活習慣に関する調査を行った。調査内容は基本属性,健康状態,生活習慣,膝痛,身体活動であった。膝痛は,過去 2 週間の平地を歩く際の痛みの有無について調査した。身体活動は,国際身体活動質問紙短縮版の日本語版を用い,週あたりの総身体活動量と 1 日あたりの座位時間を算出した。世界保健機関による健康のための身体活動に関する国際勧告に基づき,週あたりの歩行および中等度強度以上の総身体活動量が150分以上を身体活動量充足群,150分未満を身体活動量非充足群の 2 群とした。座位時間は中央値を基準値とし,5 時間以上を長時間群,5 時間未満を短時間群の 2 群とした。基本属性は,年齢,性別,最終学歴,婚姻状態,健康状態は体格指数(Body mass index:BMI),現症歴,生活習慣は食生活,飲酒状況,喫煙状況を調査しそれぞれ 2 値に分類した。解析は,男女別に行い,膝痛の有無を従属変数とし,身体活動量,座位時間,食生活,飲酒状況,喫煙状況,BMI を独立変数とした。また,不可変変数である年齢,最終学歴,婚姻状態,現症歴を調整変数として一括投入した多重ロジスティック回帰分析を行った。

    結果 有効回答数は801人(有効回答率70.7%)であった。解析対象者801人のうち,男性は365人(74.9±6.9歳),女性は436人(74.9±6.9歳)であった。膝痛の関連要因を性別にて検討した結果,男性においては,身体活動量(P=0.035)のみが有意な関連要因であった。身体活動量非充足群に対する身体活動量充足群の膝痛のオッズ比は0.605,95%信頼区間は0.380-0.964であった。女性においては,BMI(P=0.023)と食生活(P=0.004)が有意な関連要因であった。BMI では25 kg/m2 以上群に対する25 kg/m2 未満群の膝痛のオッズ比は0.595,95%信頼区間は0.380-0.931であった。食生活は,食生活不良群に対する食生活良好群の膝痛のオッズ比は0.547,95%信頼区間は0.364-0.823であった。

    結論  本研究結果から,男性では身体活動量,女性では BMI と食生活がそれぞれ膝痛の関連要因であることが示唆された。

資料
  • 高橋 希, 祓川 摩有, 新美 志帆, 衞藤 久美, 石川 みどり, 加藤 則子, 横山 徹爾, 山崎 嘉久
    2016 年 63 巻 9 号 p. 569-577
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/04
    ジャーナル フリー

    目的 市町村母子保健事業の栄養担当者の視点による,妊娠期・乳児期・幼児期の母子に多い心配事の特徴を明らかにする。

    方法 全国1,742市区町村の母子保健事業の栄養担当者を対象とし,平成25年 1 月~3 月にインターネットによる調査を実施した。栄養担当者が心配事と捉えた母子の心配事について,妊娠期・乳児期・幼児期ごとに自由記述による回答を,妊娠期630,乳児期延べ889幼児期延べ1,034市区町村から得た。分析は,ウェブ上のフォームに入力されたテクストを,分析単位ごとに Microsoft Excel®のセルに一つずつ入力し,一つの心配事のケースに複数の意味のテクストが入っている場合は,それらを分割し別々のセルに入力した。次に,健康日本21(第一次)の栄養・食生活分野の目標設定の枠組みを参考とした 4 つのカテゴリ(「QOL」,「栄養状態・栄養素(食物)摂取」,「知識・態度・行動」,「環境」)に分類し,分類できないテクストは「その他」に分類した。分類後,各カテゴリ内において,意味の類似するテクストをまとめて下位サブカテゴリを生成し,類似する下位サブカテゴリをまとめ,上位サブカテゴリとした。なお分析は,妊娠期・乳児期・幼児期ごとに行い,すべての作業は妥当性を高めるため,複数の専門職により行った。

    結果 上位サブカテゴリを【 】,下位サブカテゴリを〈 〉,テクスト数を( )で示す。各時期でテクスト数が多かったサブカテゴリは,妊娠期では【体重増加量】における〈体重増加過多〉(170),【健康状態】における〈貧血への対応・予防〉(148),〈つわりへの対応〉(105),乳児期では【離乳食の進め方】における〈進め方が分からない〉(297),【離乳食の食べ方】における〈食べない〉(186),幼児期では【食べ方】における〈偏食・好き嫌い〉(419),〈小食〉(212),〈むら食い〉(178),〈遊び食べ〉(127),〈よく噛まない〉(154),【食事・間食のリズム】における〈間食の与え方〉(147)であった。

    結論 栄養担当者の視点による各時期における心配事の内容および特徴として,妊娠期では母体の変化に伴う【健康状態および体重増加量】,乳児期では個々に応じた食生活支援が求められる【離乳食の進め方と食べ方】,幼児期では子どもの発育・発達により個人差が生じる【食べ方】および家庭により対応が異なる〈間食の与え方〉が把握された。

公衆衛生活動報告
  • 山谷 麻由美, 近藤 克則, 近藤 尚己, 荒木 典子, 藤原 晴美
    2016 年 63 巻 9 号 p. 578-585
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/04
    ジャーナル フリー

    目的 JAGES(日本老年学的評価研究)プロジェクトの地域診断支援ツール(介護予防 Web アトラス・地域診断書)を活用して高齢者サロンを展開した過程を記述し,同ツールの役割や有用性を検討する。

    方法 2012年~2015年に地域診断支援ツールを活用し,サロンを展開した経過を松浦市地域包括支援センター保健師に聞き取り調査した。2013年 6 月に実施した A 地区説明会参加者(民生児童委員・地区長他)25人にアンケートで地域診断支援ツールへの評価を尋ねた。A 地区サロン参加高齢者 8 人(男性 2 人・女性 6 人)と住民サポーター 8 人(女性)に2014年11月にグループインタビューでサロンの意義などを尋ねた。

    結果 保健師は,地域診断支援ツールを,所管課や地域包括支援センター内での課題と目標の共有,市内 7 地区の市民や地域ケア会議,介護予防・地域支え合いサポーター養成講座参加者への情報提供・意見交換に活用した。市民は地域診断結果の「見える化」で地区の健康・生活課題を知り関心を持つことができていた。A 地区サロンの展開では,地区の健康・生活課題から必要な支援内容と必要な協力者(組織)を住民サポーターと保健師がともに考え,「住民主体の通いの場」の開設と運用につなげていた。

    結論 地域診断支援ツールの役割と有用性は,①保健師の経験知をエビデンスとして「見える化」でき,保健師の地域診断実施の動機づけになる,②高齢者の健康と生活の関連と課題を「見える化」して把握できる,③住民・関係者・市町村保健師の協働につながる情報共有・検討を促進する,④健康・生活課題解決のための支援内容と必要な協力者(組織)の検討を促進する,⑤比較により活動評価ができる可能性があるであった。

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