目的 少子高齢社会においては高齢者のボランティア活動が地域社会へもたらす多面的な波及効果が期待される。我々は平成16年 6 月より高齢者による児童への絵本の読み聞かせを通した世代間交流型介入研究(REPRINTS)を継続している。すでに,高齢者ボランティアと児童への互恵効果は示されてきたが,同一の保護者集団を経時的に観察し,波及効果を検証した研究は見当たらない。今回,ボランティアが活動する小学校の保護者のボランティアに対する評価の 2 年間の変化を報告する。
方法 A)保護者への調査:対象は川崎市 A 小学校の 1~6 年生の保護者368人。A 校では60歳以上の “REPRINTS” ボランティア(以降,ボランティア)6~10人が週 2 回訪問し,主に 1, 2 年生を対象に絵本の読み聞かせを通じた交流を継続している。6 か月毎に計 5 回,保護者を対象に無記名•自記式調査を行った。質問項目は保護者の年齢,ボランティアに対する認知度(以降,認知度)および活動への評価(読書推進,高齢者への親近感,学校への奉仕•協力に対する保護者の物理的•心理的負担感等)である。1, 2 年生児童の保護者(以降,低学年保護者),3, 4 年生児童の保護者(以降,中学年保護者)の回答の経時変化を二元配置分散分析により比較した。
B)児童への調査:1~4 年生の全330人を対象に記名•自記式調査を行った。読み聞かせ経験,学校内外でのあいさつの経験,ボランティアとの会話の経験を尋ね,中,低学年各々について,χ
2 検定により,経時変化を評価した。
結果 第一回調査では保護者の年齢のみ低,中,高学年保護者間に有意差がみられた。低および中学年保護者の回答の 2 年間の経時変化において,「児童の高齢者への親近感」の評価は低学年保護者では変化を認めなかったが,中学年保護者で有意に低下した。「保護者の物理的負担の軽減」は,低学年保護者の評価が中学年保護者に比べて有意に高く,かつ両群とも経時的に評価は向上した。「保護者の心理的負担の軽減」および「認知度」は,両群に有意差は無く,ともに経時的に評価は向上した。一方,中学年児童の「読み聞かせの経験」と「学校内外でのあいさつの経験」が減少した。
結論 2 年間のボランティア活動により,認知度とその活動の一部への評価は児童の学年を問わず高まった。児童を媒介として,高齢者と保護者世代にまたがる三世代の信頼感の構築に寄与する可能性が示唆された。
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