日本公衆衛生雑誌
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58 巻, 10 号
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原著
  • 村山 洋史, 渋井 優, 河島 貴子, 可野 倫子, 虎谷 彰子, 立花 鈴子, 澁田 景子, 福田 吉治, 村嶋 幸代
    2011 年 58 巻 10 号 p. 851-866
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 都市部高齢者を対象に,身体的要因,心理的要因,社会的要因,生活空間要因を加味したタイプ別閉じこもりへの関連要因を検討する。
    方法 東京都世田谷区に2009年 4 月 1 日時点で在住し,年齢が65歳以上の高齢者149,991人を対象に,郵送による自記式質問紙調査を2009年 7 月~9 月の期間に実施した。調査項目は,閉じこもりに関する変数(外出頻度等),基本属性,身体的要因(疾患,麻痺等),心理的要因(うつ,認知機能等),社会的要因(地域活動参加状況等),そして生活空間要因(住環境,空間利用)であった。分析は,閉じこもりをタイプ 1(移動能力が低く閉じこもっている状態),およびタイプ 2(移動能力が高いにも関わらず閉じこもっている状態)に分類した上で,これらを従属変数とし,各要因を独立変数に投入したロジスティック回帰分析を行った。
    結果 配布した149,991票のうち,109,889票が回収され,このうち103,684票を有効回答とした(有効回答率69.1%)。タイプ 1 は分析対象者全体の3.7%,タイプ 2 は4.5%であり,両タイプとも男女ともに年齢が高い群ほど,閉じこもり高齢者の割合が高かった。タイプ別閉じこもりへの関連要因を検討したところ,全体の傾向として,タイプ 1 には主に身体的要因と社会的要因とが関連し,タイプ 2 には身体的,心理的,社会的要因が包括的に関連していた。また,生活空間要因では,住居形態等を含む住環境がタイプ 2 に関連し,日中主に過ごす場所,最近 1 か月に行った最も遠い場所を含む空間利用が両タイプの閉じこもりに関連していた。
    結論 高齢者の閉じこもり予防•改善施策には,閉じこもりのタイプを考慮した上で身体的,心理的,社会的要因に対してアプローチすることに加え,現在の住環境をアセスメントし,日常生活空間を十分に活用できるようにすることが糸口となる可能性がある。住宅政策や交通政策等を組み合わせた今後の介護予防施策が望まれる。
  • 逢見 憲一, 丸井 英二
    2011 年 58 巻 10 号 p. 867-878
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 わが国におけるインフルエンザによる健康被害を定量的に把握し,超過死亡と予防接種制度との関連を考察する。
    方法 人口動態統計を用い,1952~74年および1975~2009年の総死亡率の季節変動から,インフルエンザによる超過死亡率と死亡数を推計した。
    結果 1952–53年から2008–09年の超過死亡数の合計は687,279人,年平均12,058人であった。
     アジアかぜ,香港かぜ,ソ連かぜを合わせたパンデミック期 6 期分の超過死亡数は95,904人,それ以外の非パンデミック期51期分は591,376人とパンデミック期の約 6 倍であった。超過死亡年あたりの平均超過死亡数は,パンデミック期が23,976人,非パンデミック期が23,655人とほぼ同規模であった。
     アジアかぜ,香港かぜパンデミック開始時には,超過死亡に占める65歳未満の割合が増大していた。
     わが国の予防接種制度に関する時期別のインフルエンザ年平均年齢調整死亡率(10万人あたり)は,1952–53~61–62年(勧奨接種前)42.47,1962–63~75–76年(勧奨接種期)19.97であったが,1976–77~86–87年(強制接種期)には6.17に低下し,1987–88~93–94年(意向配慮期)は3.10であったが,1994–95~2000–01年(任意接種期)には9.42に急上昇し,2001–02年以降(高齢者接種期)には2.04に急低下していた。5~14歳の学童では,任意接種期の超過死亡率は強制接種期の15倍以上となっていた。また,65歳未満の年齢階層では,強制接種期の方が高齢者接種期よりも超過死亡率が低かった。
    結論 インフルエンザによる超過死亡は,パンデミックの有無によらず継続的にみられていた。また,インフルエンザとは診断されない超過死亡がインフルエンザ超過死亡全体の 8~9 割を占めていた。
     わが国において,1970~80年代の学童への予防接種,および2000年代の高齢者への予防接種がインフルエンザ超過死亡を抑制していたこと,また,学童強制接種による超過死亡抑制の効果が大きかったことが示唆された。
     公衆衛生政策上,非パンデミックの時期にも一般的なインフルエンザ対策を継続することが重要である。学童への集団予防接種も含め,“社会防衛”の理念を再評価すべきである。
研究ノート
  • 服部 早紀, 高橋 美保子
    2011 年 58 巻 10 号 p. 879-894
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 病院勤務看護師の季節性インフルエンザ感染予防行動と発症時の対処行動の現状を明らかにする。
    方法 2007年10月,1 市内の病院 2 施設の看護師全員444人を対象に無記名自記式の質問紙調査を実施した。属性(性,年齢,所属部門,同居家族),および昨シーズン中の予防行動(手洗い,うがい,マスク,ワクチン接種,自宅の加湿•換気,免疫力を高める行動)と発症時の対処行動(対処方法,対処行動までの経過時間,休職日数,他者にうつした可能性)を確認した。
    結果 有効回答423(95.3%)を得た。手洗いは,業務開始時,診察•処置後など多くの場面でほとんどの者が石けんや消毒剤を用いて行っていた。しかし,鼻をかんだ後は71%,髪を触れた後は53%と少なく,また流水のみでの実施者が多かった。うがいは,帰宅時が58%と最も多かった。業務中は,リネン取扱後を除き,どの場面も10%未満と少なかった。業務開始時や診察•処置前は,業務終了時や診察•処置後より,手洗い,うがいの実施者が約10~25%(割合差)少なかった。業務開始時の手洗いは同居家族あり,同居子(小~大学•専門学校生)ありで有意に少なかった(性年齢調整オッズ比[95%信頼区間]:0.32[0.12–0.84])(0.49[0.24–0.995])。診察•処置後,帰宅時のうがい,自宅の加湿,換気は,各々,同居子(乳幼児)ありで有意に多かった(2.36[1.07–5.21])(1.87[1.07–3.27])(2.29[1.32–3.97])(2.46[1.39–4.36])。 業務中のマスク着用者55%,ワクチン接種率82%であった。発症者51人中67%が発症後24時間以内に対処行動をとっていた。発症者の25%が受診せず,市販薬を服用あるいは自宅で休養した。発症者の28%が休職しなかった。その理由は,「人員不足等で休めない」が多かった。発症者の22%が他者にうつした可能性を感じていた。病院 A は発症後の医療機関受診者が有意に少なく,病院 B は配膳前の手洗い,リネン取扱後のうがいの実施者が有意に少なかった。
    結論 看護師自身の感染予防の意識と比べて患者への二次感染予防の意識が低かったと考えられた。現在の看護師の季節性インフルエンザ感染予防行動は同居家族の構成や勤務施設と関連していることが示唆された。今後,咳エチケットの普及,患者と接する前の手洗いの見直し,帰宅時•業務中のうがい推奨,そして感染が疑われた際に早急に受診できる体制づくりなどの対策が必要と考えられた。
資料
  • 須藤 紀子, 澤口 眞規子, 吉池 信男
    2011 年 58 巻 10 号 p. 895-902
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/06/06
    ジャーナル フリー
    目的 災害発生時に第一線で住民支援をおこなうのは市町村である。そこで,地域防災計画のなかでの栄養•食生活支援の位置づけや,水や食料備蓄の現状,災害時要援護者の平常時からの把握と災害への備えに対する指導や助言,市町村としての対応マニュアルの作成状況,保健所からの情報提供の現状等を把握した。
    方法 平成22年11月から平成23年 1 月にかけて,全国の1,727市町村の栄養業務担当者を対象に,質問紙を郵送し,同封の返信用封筒にて返送を求めた。
    結果 1,303市町村から回答が得られた(回収率75.4%)。回答者の約 7 割が栄養士であったため,地域防災計画の内容について「わからない」と回答した者が 1 割前後みられた。地域防災計画に被災者に対する保健指導や栄養•食生活支援活動の進め方が示されていると回答した市町村は 4 割に過ぎなかった。水や食料の備蓄が地域防災計画に示す品目•量を「満たしている」のは全体の20.4%(264市町村)であり,十分な備蓄ができていない理由は,自治体の種類により異なっていた。保健所に求める技術的支援は,「マニュアル•ガイドラインの提供」77.6%が最も多く,次いで「情報の提供」75.2%,「研修会の開催」65.9%,「備蓄整備に関する相談•助言」53.4%の順であった。しかし,実際に保健所から支援を受けていた市町村は 3 割未満であった。
    結論 災害時の対応のように,部局を横断する問題に対しては,部局間連携調整がカギであり,日頃からの連携が必要である。災害時の食生活支援のためには,地域防災計画に加えて,支援活動のための具体的な対応を示したマニュアルの整備等が望まれ,それに対する保健所からの支援が期待されているが,必要な支援がなされていないのが現状であった。
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