日本公衆衛生雑誌
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62 巻, 8 号
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原著
  • 新井 清美, 榊原 久孝
    2015 年 62 巻 8 号 p. 379-389
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/27
    ジャーナル フリー
    目的 都市公営住宅における高齢者の低栄養と社会的孤立状態との関連を明らかにすることを目的とした。
    方法 名古屋市営 A 住宅の65歳以上の高齢者442人を対象に,無記名自記式質問紙を使用し調査を行った。調査内容は,基本属性,社会的孤立状態や栄養状態などについて質問した。低栄養の指標については,Mini Nutritional Assessment®-Short Form (MNA®) を使用して評価した。「栄養状態良好」,「低栄養のおそれあり」,「低栄養」の 3 区分のうち「低栄養のおそれあり」と「低栄養」を,「低栄養のおそれ群」の一群として,「栄養状態良好群」との 2 群で比較した。社会的孤立については,社会的孤立を関係的孤立としてとらえ,日本語版 Lubben Social Network Scale の短縮版(LSNS–6)を使用して評価し,非社会的孤立(12点以上),社会的孤立(12点未満)の 2 群とした。分析では,従属変数を栄養状態とし,年齢,性別,同居の有無,主観的経済状況,社会的孤立,外出頻度,孤独感,要介護認定の有無,老研式活動能力指標を,独立変数(説明変数)としてロジスティック解析を行った。
    結果 調査は343人から回答を得て(回収率77.6%),有効回答数は288(有効回答率65.2%)であった。分析対象者288人は,65歳から98歳(平均年齢±標準偏差:74.7±6.1歳)で,男性121人,女性167人であった。孤立を示す12点未満は44.1%であった。MNA® については,「栄養状態良好」171人(59.4%),「低栄養のおそれあり」108人(37.5%),「低栄養」9 人(3.1%)であり,「低栄養のおそれ群」は40.6%に認められた。「低栄養のおそれ群」と関連する要因は,多重ロジスティック解析で,社会的孤立状態(オッズ比(OR)=2.52,95%信頼区間(CI)1.44–4.41)および経済状況(OR=1.98,95%CI 1.15–3.41)であった。交互作用の分析結果から75歳以上の一人暮らしも低栄養のおそれと関連することが明らかになった。
    結論 「低栄養のおそれ群」には,社会的孤立状態および経済状況が関連要因として示され,75歳以上の一人暮らしも要注意であることが明らかになった。今回調査したような公営住宅では高齢者の低栄養や社会的孤立が潜在化している可能性があり,高齢者の介護予防や健康増進への対策には,高齢者への栄養支援とともに社会的孤立への取組の必要性が示唆された。
研究ノート
  • 桝本 妙子, 山田 陽介, 山田 実, 中谷 友樹, 三宅 基子, 渡邊 裕也, 吉田 司, 横山 慶一, 山縣 恵美, 伊達 平和, 南里 ...
    2015 年 62 巻 8 号 p. 390-401
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/27
    ジャーナル フリー
    目的 地域在住自立高齢者の転倒リスクとその関連要因および性差を検討した。
    方法 京都府亀岡市の65歳以上の全高齢者の中で要介護 3 以上を除く18,231人に対して2011年 7~8 月に行った自記式留め置き式質問紙調査への回答者13,159人のうち(回収率72.2%),要支援・要介護認定者を除く「自立高齢者」12,054人について分析した。調査票は個別に配布し郵送で回収した。調査内容には,基本属性,鳥羽らによる転倒リスク簡易評価指標 5 項目,日常生活圏域ニーズ調査基本チェックリスト25項目,老研式活動能力指標13項目を用い,高齢者の諸機能や生活機能の低下の有無を示す 9 つの指標(①運動機能,②低栄養,③口腔機能,④閉じこもり,⑤物忘れ,⑥うつ傾向,⑦ IADL,⑧知的能動性,⑨社会的役割)で調査した。分析は,性,年齢別の転倒リスクとその関連要因および性差をカイ二乗検定とロジスティック回帰分析により把握し,9 つの評価指標を独立変数,年齢と教育年数を共変量,転倒リスクを従属変数とするロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を行って各要因による転倒リスクへの独立した影響を性別ごとに分析した。
    結果 本調査回答者の過去 1 年間の転倒率は20.8%で,転倒リスク高群は26.6%であった。転倒リスクは,男女とも加齢とともに高くなり,女性はすべての年齢層において男性よりも高かった。また,男女とも,すべての評価指標と転倒リスクとの関連がみられ,それぞれの要因を調整した結果では,男性は運動機能,低栄養,口腔機能,物忘れ,うつ傾向,IADL に,女性は運動機能,口腔機能,物忘れ,うつ傾向,IADL に有意な関連がみられ,運動機能低下は男女とも最も強い要因であった。性差では,低栄養,口腔機能は男性の方に,IADL,知的能動性は女性の方に転倒リスクとの関連が強かった。
    結論 地域在住自立高齢者の 5 人に 1 人は過去 1 年間に転倒を経験し,4 人に 1 人は転倒リスクを有していた。転倒リスクと 9 つすべての評価指標との間に有意な関連がみられ,とくに男女とも運動機能低下が最も大きかった。また,転倒リスクに影響する要因に性差がみられ,性別を考慮した支援策が必要と示唆された。
  • 辻 久子, 塩島 一朗
    2015 年 62 巻 8 号 p. 402-411
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/27
    ジャーナル フリー
    目的 2008年に始まった特定健診・保健指導の長期的効果を,国民健康保険加入者で保健指導対象者となった例において,保健指導の受講者が未受講者に対し,その後のメタボリック・シンドローム指標に差があったか,4 年間にわたり評価することを目的とした。
    方法 対象は2008年から2011年の間に,特定保健指導の対象となった3,742人のうち,指導対象となって以後のいずれかの年に少なくとも 1 回健診を受け,その後の状態が把握できた2,993例である。メタボリック・シンドローム指標のうち,body mass index(BMI),腹囲,収縮期血圧,拡張期血圧,HDL コレステロール,ヘモグロビン(Hb)A1c を評価した。保健指導の対象となった年,基準該当していた項目が評価年に無投薬で非該当となった場合を「改善」,非該当であった項目が評価年に該当となった場合と投薬を受けていた場合を「悪化」とした。各指標の改善と悪化の有無について,保健指導受講の有無との関係を受診時の年齢,性別,BMI 値,収縮期血圧値,HDL コレステロール値,HbA1c 値を調整因子として,多変量ロジスティック回帰分析で検討した。
    結果 1 年後の評価が可能であった例は2,690例,2 年後1,894例,3 年後1,330例,4 年後779例であった。多変量解析の結果,特定保健指導の受講者で未受講者に対して有意な改善が認められたのは,1 年後 BMI(odds ratio(OR)=1.66, 95%信頼区間(CI)=1.17-2.37),1 年後腹囲(OR=1.77, 95%CI=1.35-2.31),1 年後 HbA1c(OR=1.82, 95%CI=1.05-3.13),2 年後 BMI(OR=1.51, 95%CI=1.01-2.26),2 年後腹囲(OR=1.61, 95%CI=1.18-2.20),3 年後腹囲(OR=1.67, 95%CI=1.12-2.48)のみで,4 年後の HbA1c(OR=2.49, 95%CI=1.18-5.24)は受講者で有意な悪化が認められた。
    結論 国民健康保険加入者を対象とした特定保健指導の受講によって,1 年後の HbA1c および 1 年後,2 年後,3 年後の肥満に関わる指標の改善を認めたが,4 年後評価ではメタボリック・シンドローム指標の有意な改善は認められなかった。
資料
  • 杉井 たつ子
    2015 年 62 巻 8 号 p. 412-421
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/27
    ジャーナル フリー
    目的 介護を要する高齢者が,住み慣れた地域での生活が可能かを検証するため,介護を要する高齢者が転出した事例から転出に至った経過と転出後の経過を分析する。
    方法 少子高齢化が先行する過疎地域を選定した。調査対象者は,介護認定を受けた高齢者で,2008年 4 月から 5 年間に転出した者とした。転出した高齢者の基本属性や要介護度,介護サービスの利用状況,転出先について情報を把握した。また,居宅介護支援所への聞き取り調査を行い,転出前の介護者や介護の状況,転出先,転出に至った経過に関する情報を把握し,転出の理由について分析した。
    さらに,2013年 8 月末現在で,居住場所と利用している介護サービスを把握し,転出後の経過を分析した。
    結果 5 年間で転出した要支援・要介護認定者は,74人であった。後期高齢者が89.2%を占め,性別では女性が70.3%を占めた。世帯は,単独世帯が47.3%と最も多く,2 人以下の世帯が 7 割以上を占めた。
    転出前の主たる介護者は,同居家族・親族(35.1%),ヘルパーや通所介護施設等の介護職員(33.8%),別居の家族・親族(10.8%)等であった。転出前に通所や訪問による介護サービスを利用していた者は79.7%を占めた。利用したサービスは,通所介護(64.9%)と訪問介護(31.1%)が多かった。
    転出者の73.0%は,町外の介護施設に入所していた。2013年 8 月末現在で,転出後の経過を確認した結果,転出者の58.1%は町外の特別養護老人ホームに入所していた。
    結論 転出者の 7 割以上は 2 人以下の世帯であり,79.7%は通所・訪問サービスを利用して生活をしていたことから,介護力の限界が背景にあると考える。
    転出者の転出先は,75.7%が介護施設であった。また,介護施設に入所した高齢者は,町外の特別養護老人ホームに移行しており,入所を機会に A 町から離れたままになっていた。
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