日本公衆衛生雑誌
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65 巻, 11 号
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原著
  • 町田 夏雅子, 石川 ひろの, 岡田 昌史, 加藤 美生, 奥原 剛, 木内 貴弘
    2018 年 65 巻 11 号 p. 637-645
    発行日: 2018/11/15
    公開日: 2018/12/05
    ジャーナル フリー

    目的 東京五輪開催決定後,国内外で受動喫煙規制強化を求める声が増え厚生労働省が対策強化に取り組んでいる。本研究では受動喫煙規制に関する新聞報道の現状と傾向を内容分析により明らかにし,行政側の報告書との比較から課題を示すことを目的とした。

    方法 分析対象は全国普及率が上位の3紙(朝日・読売・毎日)の2013年9月7日から2017年3月31日までに発行された東京本社版の朝刊と夕刊で,キーワードとして「受動喫煙・全面禁煙・屋内喫煙・屋内禁煙・建物内禁煙・敷地内禁煙」を見出しか本文に含む記事のうち,投稿記事および受動喫煙規制に関係のない記事を除いた182記事である。規制に対する肯定的記載および否定的記載に分けた全37のコーディング項目を作成した。また行政側が発表した内容を記事が反映しているかを考察するため,平成28年8月に厚生労働省が改訂発表した喫煙の健康影響に関する検討会報告書(たばこ白書)より受動喫煙に関する記載を抜き出し,コーディング項目に組み入れた。

    結果 コーディングの結果,記事数の内訳はそれぞれ肯定的107,否定的7,両論併記50,その他18であった。両論併記のうち否定意見への反論を含むものが14記事(28%)であり,反論の内容は主に「屋内禁煙による経済的悪影響はない」,「分煙では受動喫煙防止の効果はない」という記載であり,いずれもたばこ白書に明示されている内容であった。

    結論 受動喫煙規制に関する新聞記事は,規制に肯定的な内容の一面提示が最も多く,最も読み手への説得力が高いとされる否定意見への反論を含む両論併記の記事は少数であったが,社説においては両論併記の記事が一定数認められた。もし新聞が受動喫煙規制に対して賛成なり反対なり何らかの立場を持つのであれば,記者の意見を述べる社説において,反対意見への反論を含む両論併記を行えば,社説の影響力が高まるかもしれない。また,報道が不十分と考えられるトピックも見られ,受動喫煙規制に関する新聞報道の課題が示唆された。

  • 足達 淑子, 澤 律子, 上田 真寿美, 島井 哲志
    2018 年 65 巻 11 号 p. 646-654
    発行日: 2018/11/15
    公開日: 2018/12/05
    ジャーナル フリー

    目的 産後1か月の褥婦における睡眠と主観的精神健康感の実態を観察し,初産婦と経産婦別にその関連を検討することであった。

    方法 対象はA病院で分娩し1か月健診で質問票に回答し,重回帰分析で用いた従属変数と独立変数の回答に欠損がなく,精神疾患既往のない457人の褥婦であった。属性,生活環境,睡眠状況,精神的・身体的健康を初産婦と経産婦で比較した後,VAS法による精神健康感の4指標(憂うつ感,不安感,意欲低下,焦燥感)を従属変数,睡眠満足度,睡眠時間,睡眠問題の有無,就床時刻の規則性と睡眠関連習慣5項目を独立変数とした一般化線形モデルによる重回帰分析を行った。

    結果 初産婦は睡眠時間が短く,就床時刻が遅く,「目覚めたらすぐ起きる」,「寝室でのテレビや仕事」という睡眠関連習慣2項目が不良であった。身体症状では「疲労感」と「耳鳴」が高率であった。経産婦では入眠潜時が長く夜間覚醒回数が多く精神的健康では「焦燥感」が強く,「頭痛」が高率であった。初産婦・経産婦ともに睡眠満足度が精神健康感4指標と,初産婦では「睡眠問題有り」が憂うつ感と不安感に,「就床時刻の不規則性」が不安感に,「目覚めたらすぐ起床」が焦燥感に,「昼寝は3時までに30分以内」が不安感と意欲低下に関連していた。経産婦では「就床時刻の不規則性」が不安感,意欲低下,焦燥感と負の関連にあり,「目覚めたらすぐ起床」が意欲低下に関連していた。

    結論 産直後の睡眠問題は見過ごされがちであるが精神健康感への関連が示唆されるため,妊娠中からの睡眠教育と産後健診での睡眠評価が必要である。

  • 秋山 理, 中村 正和, 田淵 貴大
    2018 年 65 巻 11 号 p. 655-665
    発行日: 2018/11/15
    公開日: 2018/12/05
    ジャーナル フリー

    目的 喫煙は様々な健康被害をもたらすため,健康増進のためには禁煙が重要である。喫煙者が喫煙の自身への有害性を認識していることは禁煙を試みることに寄与することが知られている。一方,これまで受動喫煙の他者危害性についての認識と禁煙との関連はよく調べられていない。そこで本研究では,日本の一般住民を対象としたインターネット調査にて,現在喫煙者における受動喫煙の他者危害性の認識と禁煙への関心との関連を検討した。

    方法 2017年1月27日から3月13日にかけて日本の一般住民を対象としたインターネット横断調査を実施した。回答者のうち,現在習慣的な喫煙を行っている15-71歳の男女1,586人(男性1,128人,女性458人)について,喫煙の自身への有害性の認識および受動喫煙の他者危害性の認識と禁煙への関心との関連について,多変量調整ロジスティック回帰分析を行った。

    結果 現在喫煙者のうち,男性では81.6%,女性では88.2%が受動喫煙の他者危害性を認識していた。現在喫煙者のうち,男性では52.7%,女性では64.6%が禁煙への関心があると回答した。多変量調整ロジスティック回帰にて検討した結果,喫煙の自身への有害性の認識もしくは受動喫煙の他者危害性の認識のいずれかを説明変数としてモデルに投入した場合のオッズ比はそれぞれ2.53, 2.92であった。喫煙の自身への有害性の認識と,受動喫煙の他者危害性の認識との両方を説明変数としてモデルに投入した場合で,両者とも有意に禁煙への関心と正の関連があることが示された。

    結論 現在喫煙者のうち,受動喫煙の他者危害性を認識している者は,認識していない者に比べて禁煙への関心が高かった。喫煙の自身への有害性の認識と,受動喫煙の他者危害性の認識とはそれぞれ独立に禁煙への関心と正の関連を認めた。本研究は,横断研究であり因果関係を調べたものではないが,受動喫煙の他者危害性の認識を高めることが禁煙への関心を持つことに繋がる可能性を示唆しており,今後のタバコ対策を推進するための基礎資料となる。

資料
  • 中村 孝裕, 丸山 絢, 三﨑 貴子, 岡部 信彦, 眞明 圭太, 橋爪 真弘, 村上 義孝, 西脇 祐司
    2018 年 65 巻 11 号 p. 666-676
    発行日: 2018/11/15
    公開日: 2018/12/05
    ジャーナル フリー

    目的 川崎市では感染症発生動向調査に加えて2014年3月からインフルエンザに対するリアルタイムサーベイランス(以下,川崎市リアルタイムサーベイランス)を開始した。今後の基礎資料として川崎市リアルタイムサーベイランスの特徴と両サーベイランスシステムの相違比較および週単位感染症報告数の相関について検討した。

    方法 2014年3月3日(第10週)から2017年10月1日(第39週)までの全187週間のインフルエンザデータを川崎市感染症情報発信システムから収集した。感染症発生動向調査に対し,川崎市リアルタイムサーベイランスは市内1,032施設中691施設(67.0%)登録施設(2017年9月時点)の随時入力であり報告医療機関数が変動する。まずサーベイランスシステムの比較を行った。リアルタイムサーベイランスについては月別,曜日別の医療機関数および日別・ウイルス型別の報告数も比較検討した。疫学週に基づく週別報告数に換算し医療機関数と報告状況を比較した。両サーベイランスの相関は,ピアソン相関係数と95%信頼区間を算出するとともに診療条件が異なる最終週と第1週を削除後の相関係数と95%信頼区間も算出し比較した。

    結果 感染症発生動向調査の報告医療機関数が平均56.0(SD ±4.2)施設であるのに対し,リアルタイムサーベイランスでは,日,月,曜日,さらにウイルス型ごとに変動がみられた。週別報告数は172週(92.0%)で,リアルタイムサーベイランスの方が感染症発生動向調査を上回った。同一週での報告数の相関分析では,相関係数は0.975(95%CI; 0.967-0.981)であり,最終週と第1週を除外後の相関係数は0.989(95%CI; 0.986-0.992)であった。

    結論 両サーベイランスにはシステム上相違があるものの,報告数に強い相関を認め,リアルタイムサーベイランスデータの信頼性が確認できた。3シーズンではいずれもA型の流行がB型に先行したが,報告数の増加時期やピークは異なった。リアルタイムサーベイランスは報告がリアルタイムかつウイルスの型別が判明していることから,早期検知や詳細な分析疫学的検討にも利用できると考えられた。報告医療機関数の変動が及ぼす影響についての検討は今後の課題である。これらを理解したうえで両サーベイランスを相補的に利用することが有用であると考えられた。

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