日本公衆衛生雑誌
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64 巻 , 3 号
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総説
  • 湯浅 資之
    2017 年 64 巻 3 号 p. 123-132
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/30
    ジャーナル フリー

    目的 1945年第二次世界大戦に敗戦した日本では,終戦直後から1960年代半ばまでの20年間に,乳児死亡の激減や平均寿命の延伸など特筆すべき健康改善がみられた。まだ経済的に貧困状況にあった日本とりわけ郡部では,なぜ短期間の内に国民の健康水準を劇的に高めることに成功したのであろうか。その理由としてこれまで政府主導の公衆衛生政策の寄与が強調されてきたが,その他の政策介入による検討は極めて限られてきた。そこで本稿では,地域保健医療政策に加え,非保健医療領域の政策介入が健康改善に寄与したと考えられる仮説を文献考証により検討した。

    仮説の検討 戦後日本の劇的健康改善は,さまざまな省庁による多様な政策が相乗的に広範な健康決定要因に介入した結果によってもたらされたと考えられる。厚生省は地域保健医療事業を実施し,母子死亡や結核死亡の低減に直結する保健医療サービスを提供した。農林省は生活改善普及事業を実施して個人や家族のライフスタイルの変容,生活・住環境の改善,社会連帯の強化を促した。また農業改良普及事業により農家の安定経営を促進し,健康的な生活の保障に必要な家計の確保を図った。文部省は社会教育事業を実施して民主主義や合理的精神の普及に努め,人々の迷信や前近代的風習を打破して健康的生活を促すヘルスリテラシーの醸成に寄与した。

    結論 公衆衛生政策だけではなく,生活,経済や教育など広範囲な健康決定要因を網羅した各種政策が実践されたことではじめて,戦後日本の健康改善が短期間に達成できたと考えられた。この過程をより詳細に検討することは,まだ貧困にあえぐ開発途上国支援の方策を検討することに寄与し,また財源縮小に直面する今日の日本においても人口減少・高齢化対策に対して社会保障の充実以外の選択肢を検討するうえで貴重な示唆を提供してくれると思われる。

  • 高岡 宣子, 長尾 匡則, 梅澤 光政, 西連地 利己, 春山 康夫, 小橋 元
    2017 年 64 巻 3 号 p. 133-142
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/30
    ジャーナル フリー

    目的 わが国においては再生産年齢非妊婦および妊婦の血中ビタミン D 濃度の分布はまだ明らかにされておらず,周産期と次世代の影響に配慮した妊婦および再生産年齢女性におけるビタミン D 不足の基準値はまだ設定されていない。そこで,本研究では,再生産年齢女性の血中ビタミン D 基準値設定に向けた研究の基礎資料を得ることを目的として,日本人の再生産年齢女性の血中ビタミン D 濃度の分布に関する研究文献の系統的にレビューを行った。

    方法 対象文献の収載期間は1963年から2015年までとした。医中誌 Web および PubMed でキーワード「日本」,「ビタミン D」,「女」,「妊婦」を含む対象文献の抽出を行った。対象文献に対して年齢,性別,日本人,データの有無,重複の有無の精査を行った結果,18件が採用された。続いて再生産年齢の非妊婦(13件22グループ)と妊産褥婦(6 件 8 グループ)に分け,年齢,測定時期および測定方法により血中ビタミン D の平均値の分布を検討した。

    結果 日本人再生産年齢の非妊婦に関する13件22グループのうち,10グループ(45.5%)の血中25(OH)D 濃度の平均値は20 ng/ml 未満,21グループ(95.5%)は30 ng/ml 未満であった。一方,非妊婦に比べて妊産褥婦の血中25(OH)D 濃度が低く,妊産褥婦においては妊娠初期(5-10週)の 1 グループ以外はすべて血中25(OH)D の平均値が20 ng/ml を下回っていた。

    結論 再生産年齢の日本人女性の血中25(OH)D 濃度が,特に妊産褥婦において低値である可能性が示唆された。再生産年齢女性の血中25(OH)D 濃度についてはまだ研究が少なく,更なる研究が必要である。

原著
  • 上野 祐可子, 佐伯 和子, 良村 貞子
    2017 年 64 巻 3 号 p. 143-149
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/30
    ジャーナル フリー

    目的 幼児が咀嚼力を獲得するためには,児の口腔形態の変化や機能の発達に見合った硬さの食物を,適切な時期に摂取することが重要である。しかし,1 歳半児の養育者は,児に硬い物を与える必要があるという意識は高いが,児の発達段階より硬すぎるものを目安とする傾向にあった。そこで,1 歳半児の養育者が児の口腔発達に合った食物を与えているかを検討するため,日頃児に与えている食物の硬さの実態を把握し,歯の萌出状況との関連を明らかにすることを目的とした。

    方法 1 歳半健診を受診した 1 歳半児の養育者を対象に,児の口腔発達の指標として歯の萌出状況を,養育者が児に与える食物の硬さの指標として15品目の食物摂取状況を質問紙により調査した。調査票は無記名で,同意を得られた者のみに研究者もしくは保健師が直接配布し,郵送法により回収した。分析には χ2 検定,Fisher の直接確率検定を用いた。調査は,所属大学の倫理委員会の承認を得て実施した。

    結果 調査票配布501部,回収210部(回収率40.9%)中,有効回答は202部(有効回答率40.3%)であった。歯の萌出に関しては,切歯が 8 本未萌出である児が17人(8.4%),臼歯が 1 本も萌出していない児は30人(14.9%),上下同じ位置に萌出している臼歯の噛み合わせが2組未満の児が56人(27.7%)であった。歯の萌出と食物の硬さの関連は,「ステーキ・ソテー 1 切れ」を臼歯の噛み合わせが 2 組未満の児の方が,2 組以上ある児より有意に食べていた(P=0.001)。

    結論 1 割程度の児は,歯の萌出が一般的な発達の目安よりも遅かった。また,臼歯の萌出に適した硬さよりも硬い食事が提供され,十分な咀嚼ができないまま嚥下をしていることが示唆された。特に生野菜や肉類を児に与える時は,調理法にも注意を払うよう促し,乳臼歯の萌出状況に合わせた硬さの食物を提供する必要があると考える。

  • 小林 道
    2017 年 64 巻 3 号 p. 150-155
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/03/30
    ジャーナル フリー

    目的 本研究は,青年期男性における首尾一貫感覚(Sense of Coherence:SOC)が自衛隊入職後の抑うつ症状に与える影響を明らかにすることを目的とした。

    方法 2013年 4 月に陸上自衛隊にて新規採用された18~24歳男性の自衛官候補生のうち,ベースライン時で抑うつ症状が認められなかった者を研究対象者として,自記式質問紙調査を実施した。調査内容は,年齢等の基本属性および生活習慣に関する項目,高校時代の所属した部活動,抑うつ症状,SOC とした。SOC は,得点が高いほどストレス対処能力が高いとされる。抑うつ症状は,うつ病自己評価尺度(center for epidemiologic studies depression scale:CES-D)を用いて,16点以上を「抑うつ症状あり」とした。SOC は日本語版13項目 7 件法を用いて,59点をカットオフ値とした。追跡調査は,2 か月後の2013年 6 月に実施した。ベースライン時の SOC と 2 か月後の抑うつ症状の関連は,多変量ロジスティック回帰分析を用いて検討した。

    結果 最終的な解析対象者は,389人であった。多変量ロジスティック回帰分析の結果,SOC 得点が59点未満を参照群とした場合のオッズ比(95%信頼区間)は,SOC 得点59点以上の群で OR:0.59(95%CI:0.35-0.98)であった。

    結論 青年期男性の SOC は,自衛隊入職後の抑うつ症状の緩衝要因となることが明らかになった。職場において SOC を高める方策や処置を講じることは,新規採用者の精神的健康の向上に役立つ可能性がある。

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