日本公衆衛生雑誌
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57 巻 , 12 号
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原著
  • 圖師 誠, 山岡 和枝, 渡辺 満利子, 丹後 俊郎
    2010 年 57 巻 12 号 p. 1043-1053
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 メタボリックシンドロームは肥満,高血糖,高血圧,脂質異常などの代謝異常が複合した病態であり,動脈硬化性疾患のリスクを高める複合型リスク症候群としてその診断基準がいくつか公表されているが,国際的にも統一した基準として定まっていない。そこで,診断基準の相違や診断基準の要素の値が変化することによる,メタボリックシンドローム有病率の変化などその診断基準と有病率との関連を調査し,健康施策などに役立てるためのツールとして,メタボリックシンドローム・シミュレータを開発することを目的とした。
    方法 ①シミュレータ構築のための収集データ:実際の健康診断データ(「健診データベース」)を用いて,各診断基準の要素(腹囲,BMI,中性脂肪,HDLコレステロール,血圧,空腹時血糖,HbA1c)の特性を調査し,変数変換を検討した。次に,変換後の値を用いて分散共分散行列を算出した。
     ②シミュレータの構築:ユーザが入力する平均値と上記で算出した分散共分散行列を用いて,多変量正規乱数を発生した。次に,発生したデータに逆変換等の処置を行った上で,メタボリックシンドロームの 5 つの診断基準(NCEP–ATPIII, AHA/NHLBI, IDF,検討委員会,厚生労働省)の有病判定を行いメタボリックシンドロームの有病率を求めた。その過程を繰り返し,有病率の平均および分散を算出した。
    結果 都内人間ドックでの健康診断データを「健診データベース」として用いメタボリックシンドローム・シミュレータを構築し,その性能評価と感度分析を行った。次に,適用事例として,日本および欧米での文献(診断基準の一部が記載されていない)を取り上げ,本シミュレータで欠損項目の平均値を推定し有病率を推定した。さらに診断基準の要素の値を変化させたときの有病率の変化を検討した。以上の結果から,とくに検討委員会および IDF の基準が類似しているなど,診断基準の特徴の一端を明らかにすることができた。
    結論 メタボリックシンドロームの 5 つの診断基準について,シミュレータを開発し,シミュレート用データの発生から,メタボリックシンドローム有病率の推定が可能となった。診断基準の要素の一部を変化させたときの有病率のシミュレート結果は,健康施策などにも利用可能と考えた。
  • 竹田 徳則, 近藤 克則, 平井 寛
    2010 年 57 巻 12 号 p. 1054-1065
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 本研究の目的は,認知症を伴う要介護認定の心理社会的な危険因子や認知症予防につながる趣味の種類を明らかにすることである。
    方法 愛知老年学的評価研究(Aichi Gerontological Evaluation Study)プロジェクトの一環として,65歳以上で,要介護認定を受けていない高齢者を対象に自記式郵送調査を2003年に行った(回収率49.4%)。そのうち性別,年齢が明らかで ADL 全自立の9,720人,平均年齢72.8±6.0歳(男性4,614人,女性5,106人)を 3 年間追跡した。要介護と認定され二次判定で「認知症高齢者の日常生活自立度判定基準」ランクII以上による要介護認定をエンドポイントとした。説明変数には,健康行動,心理・認知的因子,趣味・社会的活動,老研式活動能力指標,社会階層を用いた。趣味活動は 8 種類(スポーツ・文化・音楽・創作・園芸・テレビやラジオ視聴・観光・投資やギャンブル)とした。Cox 比例ハザード回帰分析を用いて年齢調整した,ハザード比を男女別に求めた。次に有意差のみられた因子を説明変数としステップワイズ法を用い分析を行った。
    結果 3 年間に認知症を伴う要介護認定は330人(男性139人,女性191人),それ以外の者は9,390人で,その認定率は,11.3/1,000人・年だった。
     ステップワイズ法で認知症を伴う要介護認定を予測する因子(ハザード比:HR)として,男女共通に有意であったのは,物忘れの自覚「あり」(男性 HR:1.69,女性 HR:2.59),手段的自立 4 点以下(HR:1.80, HR:2.23),男性では,独居(HR:2.39),主観的健康感「よくない」(HR:2.04),仕事「なし」(HR:1.80),知的能動性 3 点以下(HR:2.13),園芸的活動「なし」(HR:1.99),女性では,スポーツ的活動「なし」(HR:1.92)であった。
    結論 心理社会的状態や生活機能が良好な者,趣味の種類では男性で園芸的活動,女性でスポーツ的活動を行っている者で認知症を伴う要介護認定が少なかった。認知症の介護予防政策では,健康行動以上にこれらの因子に着目する重要性が示唆された。
  • 駒田 陽子, 塩見 利明, 三島 和夫, 井上 雄一
    2010 年 57 巻 12 号 p. 1066-1074
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 本研究の目的は,運転免許保有者の中で睡眠時無呼吸症候群(Sleep apnea syndrome: SAS)に罹患している者の実態,居眠り運転や居眠り運転事故に関連する要因,運転免許更新時等における申告制度等の認識度を明らかにすることである。
    方法 警視庁府中運転免許試験場において,運転免許証の更新者5,235人に対し,回答は無記名,任意とした上で,運転中の眠気や居眠り運転,SAS の自覚もしくは診断を受けたことがあるか等に関するアンケート調査を実施した(回収3,235人,回収率61.8%)。
    結果 運転中に眠くなることがあると答えた者は1,306人(40.4%),居眠り運転をしたことがある者は658人(20.3%),居眠り運転により事故を起こしそうになったこと,または実際に事故を起こしたことがある者は336人(10.4%)であった。ロジスティック回帰分析の結果,居眠り運転に関連する要因として,男性であること,免許保有期間が長いこと,週あたりの走行距離が多いこと,運転開始後短い時間で眠気を感じること,SAS の自覚もしくは診断を受けていることが抽出された。また,居眠り運転事故等に関しては,男性であること,免許保有期間が長いこと,運転開始後短い時間で眠気を感じること,SAS の自覚もしくは診断を受けていることが関連要因であった。運転免許保有者のうち SAS に罹患している者の実態を検討したところ,調査対象者のうち7.5%が「自分が SAS ではないかと思う」と回答し,また,1.1%が「SAS と診断されたことがある」と回答した。
    結論 SAS ではないかと自覚している者の割合に対して,実際に受診して SAS の診断を受けている者の割合はかなり低いことから,SAS に対する診断と治療の重要性をより強く啓発していくことが,居眠り運転や居眠り運転事故等を防止するために重要であると考えられた。また,運転への慣れ,長時間運転による疲労が居眠り運転や居眠り運転事故に強く関連していることを広く周知すべきである。道路交通法では「重度の眠気の症状を呈する睡眠障害」は免許停止・取り消しの要件の一つで,免許試験の受験や更新申請の際,症状を申告しなければならない。しかし,「申告制度を知っている」と答えたのは,罹患の可能性がある人の22.2%であった。SAS に罹患した運転免許保有者が症状を自覚し治療することにより,安全な運転パフォーマンスを保持できるよう,これらの制度について広報啓発を行う必要があると思われた。
公衆衛生活動報告
  • 柳堀 朗子, 千葉県基本健康診査データ収集システム確立事業担当グループ
    2010 年 57 巻 12 号 p. 1075-1083
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 市町村が実施している基本健康診査の個人データを健康指標として有効に活用するためには,検査値,判定基準等の標準化が必要である。そこで,市町村の基本健康診査結果を,連結可能匿名化 ID を付与し個人情報を削除した電子データで収集し,同一の標準物質を用いた外部精度管理による検査値の標準化,同一判定基準による判定を行うシステム構築を事業化し,5 年間のデータ収集を行った。特定健診により事業の当初目的はほぼ達成されたが,事業から得られた知見を特定健診に活かす視点で検討する。
    方法 千葉県下の市町村より連結可能匿名化された基本健康診査の個人測定値を収集する事業を平成15年度に開始し,平成14年度から18年度の健診データを市町村の協力状況に応じて収集した。データは市町村において,県が開発した ID 付与プログラムを用いて連結可能匿名化をしてデータに付与し,個人情報を削除したものの提出を受けた。検診検査機関の測定値は標準物質チリトロール2000(千臨技検査値統一委員会認証精度管理試料)による標準化を図った。検査結果の判定は厚生労働省循環器判定基準に準拠した。
    結果 平成14年度は16市町村より53,838件,18年度は22市町村より88,167件(男26,414件,女61,753件)の提供を受けた。作成した連結可能匿名化 ID は同一市町村内では重複がなかったが,全市町村の中では明らかに異なる個人に重複した ID が作成されていた。標準物質により検診機関の測定値を標準化した結果,測定値に補正が必要な測定項目はなかったが,値のバラツキが大きい項目がみられた。標準化した判定結果と基本健康診査結果の判定区分の構成割合の違いを市町村別にみると,血圧の判定は両者の違いは小さかったが,総コレステロールは同一基準で判定したほうが男女とも異常認めずの該当が少なく,女性では要医療の該当が高かった。血糖は同一基準の方が男女とも異常認めずの該当が多く,男性では要医療の該当が高かった。継続受診の状況をみると,約 7 割が 2 年間継続して受診し,5 年間継続受診したのは平成14年度受診者の45%であった。
    結論 連結可能匿名化 ID 付与プログラムには不備があったが,本システムの運用により市町村から連結可能匿名化 ID を付与したデータを入手し,標準化された測定値,判定基準による地域の健康度評価は可能であると考えられた。しかし,測定値の経年比較においては,施設間の値のブレが大きい項目があるため,測定施設を考慮する必要があると考えられた。2 年間の継続受診率は約 7 割,5 年間では半数以下であり,特定健診の受診率確保においては継続受診の働きかけが重要であることが示唆された。
研究ノート
  • 永田 智子, 田口 敦子, 成瀬 昂, 桑原 雄樹, 村嶋 幸代
    2010 年 57 巻 12 号 p. 1084-1093
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 居宅介護支援事業所利用者における,介護支援専門員によって判断された訪問看護の必要者の特徴を明らかにするとともに,訪問看護必要者における訪問看護の利用実態と,利用者・未利用者の特徴を探索し,訪問看護の適切な利用を促進するための基礎資料とすることを目的とした。
    方法 2005年11月~2006年 2 月に,A 県の B 保健所管内の 4 市にある全居宅介護支援事業所57か所の介護支援専門員全数に対して調査を実施した。介護支援専門員が担当する要介護 2 以上の利用者について調査票の記入を依頼した。調査項目は,利用者の年齢,性別,要介護度,障害高齢者の日常生活自立度,認知症高齢者の日常生活自立度,介護力,介護支援専門員が判断した訪問看護の必要性,訪問看護の利用状況などである。訪問看護の必要性,および,必要ありとされた者の中での訪問看護の利用の 2 つを従属変数として,単変量解析およびロジスティック回帰分析を行った。
    結果 回答のあった居宅介護支援事業所は40か所(回収率70.2%),回収件数は1,288人であり,うち1,224人を最終的な分析対象者とした。介護支援専門員が訪問看護を必要と判断したのは537人,実際に訪問看護を利用していたのは328人であった。訪問看護の必要性ありと判断された対象者は,必要なしの対象者に比して,年齢が若く,神経難病が多く,医療処置を有する患者が多く,要介護度が高く,障害高齢者の日常生活自立度が重く,最近半年の入院が多く,同居家族が無く,介護力が無く,主介護者が75歳以上の者が多かった。一方,訪問看護必要ありのうち実際に利用していたのは59.0%にとどまり,医療処置を有する患者が多く,認知症高齢者の日常生活自立度が自立・Iの者が多かった。
    結論 介護支援専門員が訪問看護を必要と判断したケースのうち,実際に利用しているのは59.0%にとどまっていた。訪問看護必要性の判断には,医療の必要性以外に家族状況など多様な変数が関連していた。一方,必要者の中では,日常生活自立度が低い者・医療処置がある者で利用が多く,認知症がII以上の者で利用が少なかった。必要性があるのに利用していない理由としては,利用者の知識や認識の不足,他サービスとの競合などが考えられ,訪問看護の利用を促進するにはこれらへの対策が必要であることが示唆された。
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