日本公衆衛生雑誌
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59 巻, 11 号
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原著
  • 浜崎 優子, 森河 裕子, 中村 幸志, 森本 茂人, 中川 秀昭
    2012 年 59 巻 11 号 p. 801-809
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/04/24
    ジャーナル フリー
    目的 本研究は,介護予防事業の対象者選定過程の生活機能検査への参加状況を明らかにし,その参加状況と心身状況との関連を検討するとともに,参加状況と要介護状態の発生との関連を追跡調査によって明らかにすることを目的とした。
    方法 石川県の一町に在住する65歳以上の要介護認定に至っていない全自立高齢者4,050人のうち,介護予防事業対象者選定の一次スクリーニング調査に回答した3,243人(80.1%)を追跡した。2 年間の追跡期間中の死亡者•転出者を除外した3,150人を解析対象者とした。対象者を,一次スクリーニング調査結果に基づいて,生活機能検査の受検が望ましい虚弱高齢者群(以下,虚弱群)と非虚弱高齢者群(以下,非虚弱群)に分け,さらに虚弱群を生活機能検査への参加群(以下,参加群)と同検査への不参加群(以下,不参加群)に分けた。これら 3 群間で要介護状態発生のリスクを比較した。
    結果 対象集団の中で,非虚弱群は72.7%(2,289人),虚弱群は27.3%(861人)であった。虚弱群の中の不参加者数(582人)は参加者数(279人)の2.1倍であった。参加者と比べると,不参加者では閉じこもり傾向と手段的日常生活動作関連能力低下を有する者の割合が有意に高かった。追跡期間中,168人に要介護状態の発生があり,非虚弱群,参加群および不参加群の発生率(人口千対)は,それぞれ24.0,93.2,149.5であった.Cox 比例ハザードモデルを用いて,性,年齢等を調整して計算した,非虚弱群に対する参加群と不参加群の要介護状態発生のハザード比(95%信頼区間)はそれぞれ2.55(1.59–4.10),4.46(3.15–6.32)であり,非虚弱群に対する不参加群での発生リスクは参加群よりも高かった。さらに基本チェックリスト全分野の合計点を調整したハザード比は,参加群で0.75(0.41–1.37),不参加群で1.09(0.65–1.82)であり,参加群と不参加群の間の発生リスクの違いは減弱されたものの,非虚弱群に比べて不参加群で高い傾向であった。
    結論 要介護の認定に至っていない高齢者集団において,生活機能検査の対象となる虚弱高齢者は,非虚弱高齢者に比べて要介護状態の発生リスクが高かった。しかも,虚弱高齢者の多くを占める生活機能検査不参加者の同リスクは参加者よりも高かった。
研究ノート
  • 築島 恵理, 高橋 恭子, 矢野 公一, 森 満
    2012 年 59 巻 11 号 p. 810-821
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/04/24
    ジャーナル フリー
    目的 札幌市の国民健康保険(以下「国保」)が行った市民アンケート調査で得られたデータを用いて,特定健康診査(以下「特定健診」)の受診行動と関連する要因について,市民税非課税層•課税層別に交絡要因を考慮して分析することにより,低所得化が顕著になっている国保における特定健診事業の運営改善のための資料とすることを目的とした。
    方法 札幌市国保で実施された無記名自記式アンケート調査の回答を数値として入力したデータベースの二次分析を行った。アンケートは平成21年(2009年)7 月 2 日から 8 月 3 日に行われ,平成20年度に40歳以上となった札幌市国保被保険者で,市民税非課税•課税および特定健診受診の有無により 4 群に分け,各群ごとに無作為抽出した計3,000人のうち調査に同意した人から回答を得た。調査項目は,年齢,性別等の基本属性,非受診の理由(受診なし群のみ),健診•生活習慣病等に関する認識から構成されていた。今回の分析には,受診なし群で他の健診を受けたと回答した人を除き有効回答が得られた1,656人のデータについて,課税状況別に特定健診受診との関連を多重ロジスティック回帰分析により分析した。
    結果 受診に関連する要因のうち周知内容に関する認知度については,非課税層,課税層とも,「受診場所」認知の性•年齢調整オッズ比(95%信頼区間)が,検討した 4 項目のうちで最も高かった(非課税層8.31(4.83–14.28),課税層6.51(4.23–10.03))。健診等に関する認識では,非課税層,課税層に共通して「健診受診歴」,「次の健診受診意向」,「家族等の受診経験」が受診に有意な関連を示してモデルに残り,非課税層では「適当な自己負担額は無料と認識」,課税層では「健診は時間に余裕のある人が受けるものと思わない」が有意だった。受診歴と受診意向の 2 項目を除いたモデルでは,非課税層で「検査への関心」,「現在喫煙なし」,「健診は無症状の人にも必要」,課税層では「健康情報への関心」が新たに抽出された。
    結論 受診場所の認知が受診ととくに強く関連していたため周知方法に配慮する必要がある。非課税層,課税層とも健診受診の習慣化が重要であり,非課税層では自己負担軽減策の有効性が示唆されるほか,検査への関心,意義の認識等が受診行動と関連し,課税層では健康情報と関連付けた意義や効果の理解が重要と考えられた。
  • 古村 美津代, 石竹 達也
    2012 年 59 巻 11 号 p. 822-832
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/04/24
    ジャーナル フリー
    目的 この研究の目的は,認知症高齢者グループホーム(以下,GH)のケアスタッフのバーンアウトと個人特性•職場環境•ストレスコーピングの関連を明らかにする。
    方法 福岡県の47か所の GH に勤務するケアスタッフ600人に無記名自記式質問紙調査を実施した。回答の得られた333人を分析対象とした。質問紙は,バーンアウト,個人特性,職場環境,ストレスコーピングの項目で構成された。マスラックのバーンアウト尺度(MBI)の日本語版を使用した。
    結果 ケアスタッフの平均年齢は42.5歳だった。彼らの雇用形態は正規職員75.4%,非正規職員は22.8%だった。年収が200万円未満は,178人(53.5%)だった。彼らの80%は,仕事に対して将来の不安を感じていた。MBI の 3 つの下位尺度の得点は,情緒的消耗感14.3,脱人格化11.2,個人的達成感16.1であった。個人特性と職場環境要因で調整後,ケアスタッフのバーンアウトはケアスタッフの抱える「認知症高齢者との葛藤」,「職場のサポート体制」,「スタッフ同士の葛藤」,「負担感」の 4 つの困難と有意に関連していた。積極的認知•行動は,バーンアウトの低減につながり,情緒的消耗感,脱人格化は,回避的認知•行動に関連していた。
    結論 GH のケアスタッフのバーンアウトは,ケアスタッフが抱える困難と関連していた。この研究結果は,職場環境の改善に加えて日々の業務に伴う困難の取扱いを支援する必要性が示唆された。
  • 田嶋 久美子, 小澤 邦壽, 鈴木 智之, 曽根 智史
    2012 年 59 巻 11 号 p. 833-837
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/04/24
    ジャーナル フリー
    目的 レプトスピラ症は人畜共通感染症で,齧歯類が腎臓に保菌している本菌が尿を介して水や土壌を汚染し,経皮的または経口的に感染が成立する。平成21年11月,群馬県内で初めてのレプトスピラ症の届け出があった。県内のレプトスピラ症の地域流行の実態を明らかにし,住民や医療従事者に啓発を行うことが重要である。そのため,今回我々は,患者宅周辺の住民のレプトスピラ症の感染状況を調査した。
    方法 対象者:平成22年 4 月23日および26日,群馬県伊勢崎市の40歳から64歳の国民健康保険の加入者を対象とした特定健診(集団健診)を受けた住民を対象とした。標本数:健診を受けた住民を,無作為に100人抽出し,レプトスピラ症の抗体価を測定した。検査方法:レプトスピラ症の抗体価の測定は,国立感染症研究所に委託した。本州で広く分布しているレプトスピラ 6 血清型生菌を用いた顕微鏡下凝集試験を行った。
    結果 2 日間の検診受診者は180人,同意者は174人だった。100人の血清抗体価を測定し,結果はすべて陰性だった。
    考察 レプトスピラ症は診断されれば,治療可能の疾患であり,早期の診断•治療が大切である。軽症の症例は見逃されている可能性もある。県内の医療従事者には,レプトスピラ症の認知度は低い。レプトスピラ症は稀少感染症であるが,診断のため県内医師会に周知し,研修会等を行うことが大切と思われる。
資料
  • 嶋津 多恵子, 岩瀬 真澄
    2012 年 59 巻 11 号 p. 838-844
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/04/24
    ジャーナル フリー
    目的 さいたま市内の救急医療機関における自殺企図患者の実態と精神科受診につなげる機能の実態を明らかにして再発予防に役立てることを目的とする。
    方法 さいたま市内の全救急医療機関(25施設)を対象に平成21年 9 月 1 日~11月30日の全救急外来患者について質問紙調査を実施した。質問項目は,自殺未遂者に関する自殺企図の方法と,精神疾患の合併および救命後の精神科受診状況について,救急医療機関が精神的ケア体制充実のために必要とする内容等である。
    結果 自殺未遂者の自殺企図の方法別割合は,薬物によるもの72.3%,切創•刺創によるもの20.7%であった。精神疾患を合併している患者の割合は81.7%であった。救命後,精神科受診の指示があったものの割合は71.4%であった。しかし,救命後精神科に通院したものの割合は34.3%であり,入院中に精神科を受診したものの割合は15.5%であった。精神的ケア体制充実のために救急医療機関の75.0%が「救急医療機関と精神科医療機関のネットワークの構築」を必要としていた。
    結論 さいたま市内の救急医療機関に搬送された自殺企図患者の実態について調査した。その結果,休日•夜間における精神科医の当直体制がないさいたま市では,自殺未遂者の再度の自殺を防ぐために,救急医療機関と精神科医療機関のネットワーク構築や,体制整備および自殺企図患者支援のための相談援助活動のより一層の充実が求められていることが明らかとなった。
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