日本公衆衛生雑誌
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56 巻, 4 号
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原著
  • 浦山 晶美, 西村 真実子
    2009 年 56 巻 4 号 p. 223-231
    発行日: 2009年
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    目的 わが子を虐待する母親の要因には愛着関係の障害が一因であるとの見方が一般的になってきた。愛着型にはそれぞれ個人差があり,その人のこれまで経験した関係の質に応じて自己と他者に関する内的ワーキングモデル(Internal Working Model:IWM と略す)が形成される。そこで本研究は虐待防止策の方向性を考えるため,養育歴を反映する IWM と虐待的な養育態度および,サポートとの関連性を明らかにすることを研究目的とした。
    方法 石川県内の 1 歳 6 か月児健診と 3 歳児健診に訪れている母親534人に直接質問紙票を手渡し,調査は無記名とし回収は郵送で行った。
    結果 IWM の両価性が高い母親ほど,他の IWM 型の母親よりも虐待的な養育態度が多くみられ,育児サポートが得られていてもその傾向は変わらなかった。一方,IWM の安定性が低い母親ほど他の IWM 型の母親よりも虐待的な養育態度の重複が多くみられたが,サポートを受けている場合には虐待的な養育態度は減少する傾向がみられた。
    結論 IWM は虐待的な養育態度と関連性があると言え,また安定性が低い母親には育児サポートが虐待的な養育態度の発生を緩和する働きがあることが示唆された。
公衆衛生活動報告
  • 麻生 保子, 鳩野 洋子
    2009 年 56 巻 4 号 p. 232-241
    発行日: 2009年
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    目的 本研究の目的は①脳血管疾患後遺症障害者の靴への不満の実態を明らかにし,その結果にもとづき片麻痺障害者の外出時や冠婚葬祭用の靴を試作し,評価をすること。②本研究結果と活動内容の報告を通し,片麻痺障害者がはく靴の開発促進と販売方法の改善に寄与することである。
    方法 東京都港区区報および,港区立障害保健福祉センター利用者への呼びかけに応じた脳血管疾患後遺症障害者45人を対象に,靴への満足度や靴選択の制限等に関して,質問紙を用いて調査し,次に質問紙調査対象者のうち,協力が得られた20人に靴への不満の内容,履きたい靴の条件,望ましい靴店に関するグループインタビューを行った。
     質問紙調査とグループインタビュー結果をもとに片麻痺障害者が冠婚葬祭等の外出時に履く靴を試作し,9 人の装具装着者の協力を得て,試作靴の評価を行った。評価は対象者の感想および,普段はいている靴と中敷調整後の試作靴での静止時や歩行時の姿勢,平均歩行速度や平均歩数の比較により実施した。評価結果の概要を港区議会および港区内に住所のある全靴製造メーカーへ報告し,片麻痺障害者が履く靴の開発を提案した。
    結果 質問紙調査には43人の有効回答を得た。回答者のうち,靴への不満が強かった人は「靴のサイズに左右差がある人」,「装具使用ありの人」,「靴購入時の困った経験がある人」であった。グループインタビューから抽出された不満の内容は「素材」,「デザイン」,「販売方法」であり,履きたい靴の条件には「強度と耐水性のある素材」と「冠婚葬祭や外出時に履けるデザイン」等があげられ,障害者用シューズを取り扱う望ましい靴店には,「試し履きができる対面販売」等があげられた。
     試作靴の評価結果は,フィッティングと中敷調整後に継続して履き続けることができた 5 人全員の歩行姿勢が良くなり,内 4 人の平均歩行速度,平均歩数が改善した。一方,継続着用が不可能であった 4 人からは「甲・幅が狭い」と言う意見が得られた。
    結論 今回調査の脳血管疾患後遺症障害者の靴への不満の内容はさまざまであり,特に素材とデザインおよび販売方法に改善の余地があることが明らかとなった。
     作成した試作靴は甲幅の調整が効くデザインの改良によって,より多くの片麻痺障害者が着用可能になる可能性があるとともに,装具装着者にとって,正確なサイズ計測と中敷等の調整を行うことのできる対面での靴の販売が望まれる。
資料
  • 佐伯 和子, 大野 昌美, 大倉 美佳, 和泉 比佐子, 宇座 美代子, 横溝 輝美, 大柳 俊夫
    2009 年 56 巻 4 号 p. 242-250
    発行日: 2009年
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    目的 地域保健の分野において現任教育体制の整備が課題となり,厚生労働省で報告書が出された。しかし,なお,体制整備は困難な状況にある。本研究は,保健所および市町村の保健師と大学が協働で新任保健師育成の現任教育を実施した結果について,地域保健分野における保健師育成のための OJT に対する指導者の意識と組織体制の視点から分析し,OJT の定着に向けての検討を行った。
    方法 アクションリサーチの方法を活用し,大学と保健所とが市の新任者および指導者育成の現任教育を協働で実施し,その評価を行った。データは半構成面接,会議記録,研修会時の状況記録と参加観察記録を用いた。面接の対象は,現任教育の担当者と現任教育の推進に責任を持つ者計10人で,1 回または 2 回の面接を行った。分析は,特に OJT に関する部分を抽出してコーディングを行い,コードを比較検討しながらカテゴリー化を行った。
    結果 指導者は OJT での新任者指導の目的および方法に関して,新任者を現任教育の対象として理解すること,新任者のレベルに合わせた指導を意識し,新任者教育プログラムの標準化を期待していた。職場風土と体制に関しては,指導役割と時間を確保した指導体制の整備,OJT で育成するという人材育成の職場風土の形成,指導を通して相互啓発できる職場内のコミュニケーションが OJT の進展に関連した。さらに外部支援体制があることが有効であった。
    結論 OJT の定着を推進するためには,指導者の指導力の育成と教育プログラムの標準化,OJT を実施できる職場の風土づくりと外部支援体制が重要である。
  • 金泉 志保美, 柴田 眞理子, 宮崎 有紀子, 中下 富子, 佐光 恵子, 星野 泰栄, 一戸 真子, 大野 絢子, 真鍋 重夫
    2009 年 56 巻 4 号 p. 251-259
    発行日: 2009年
    公開日: 2014/06/13
    ジャーナル フリー
    目的 本研究は,群馬県における家庭での乳幼児の不慮の事故実態および事故予防策実施状況を年齢毎に把握し,具体的な事故予防対策への示唆を得ることを目的とした。
    方法 対象は,群馬県内の市町村のうち調査への協力の得られた14市町村が実施する乳児健康診査・1 歳 6 か月児健康診査・3 歳児健康診査対象児の保護者計551人であった。過去 1 年間に自宅で子どもに生じた事故や大きな怪我の有無とその種類・原因・対応,および家庭での予防策実施の有無に関する自記式質問紙調査を行い,分析した。
    結果 乳児では,過去 1 年間に経験した者の割合が最も高かった事故は「転落」で30.8%,次いで「誤飲」22.7%,「窒息」11.5%であり,1 歳半児では「転落」が41.0%,「熱傷」20.3%,「誤飲」19.3%,3 歳児においては「熱傷」が32.3%,「転落」31.0%,「窒息」14.5%の順であった。事故の種類と対象児の年齢の関連をみると,χ2 検定の結果,「熱傷」,「誤飲」,「溺水」の 3 項目において,年齢によって経験した者の割合に有意な差がみられた。「熱傷」は乳児よりも 1 歳半児,1 歳半児よりも 3 歳児で経験率が高く,逆に「誤飲」は,3 歳児よりも 1 歳半児,1 歳半児よりも乳児のほうが経験率が高かった。また,「溺水」については,乳児よりも 1 歳半児および 3 歳児のほうが経験率が高かった。家庭での事故予防策については,事故の種類毎に各項目間の実施率の関連を検定した結果,ある予防項目を実施している者の方が,他の項目も実施している割合が有意に高い傾向にあった。
    結論 小児の年齢により生じやすい事故に特徴があることや,事故予防策の実施状況には養育者の予防意識が関連していることなどが明らかとなった。
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