目的 本研究の目的は①脳血管疾患後遺症障害者の靴への不満の実態を明らかにし,その結果にもとづき片麻痺障害者の外出時や冠婚葬祭用の靴を試作し,評価をすること。②本研究結果と活動内容の報告を通し,片麻痺障害者がはく靴の開発促進と販売方法の改善に寄与することである。
方法 東京都港区区報および,港区立障害保健福祉センター利用者への呼びかけに応じた脳血管疾患後遺症障害者45人を対象に,靴への満足度や靴選択の制限等に関して,質問紙を用いて調査し,次に質問紙調査対象者のうち,協力が得られた20人に靴への不満の内容,履きたい靴の条件,望ましい靴店に関するグループインタビューを行った。
質問紙調査とグループインタビュー結果をもとに片麻痺障害者が冠婚葬祭等の外出時に履く靴を試作し,9 人の装具装着者の協力を得て,試作靴の評価を行った。評価は対象者の感想および,普段はいている靴と中敷調整後の試作靴での静止時や歩行時の姿勢,平均歩行速度や平均歩数の比較により実施した。評価結果の概要を港区議会および港区内に住所のある全靴製造メーカーへ報告し,片麻痺障害者が履く靴の開発を提案した。
結果 質問紙調査には43人の有効回答を得た。回答者のうち,靴への不満が強かった人は「靴のサイズに左右差がある人」,「装具使用ありの人」,「靴購入時の困った経験がある人」であった。グループインタビューから抽出された不満の内容は「素材」,「デザイン」,「販売方法」であり,履きたい靴の条件には「強度と耐水性のある素材」と「冠婚葬祭や外出時に履けるデザイン」等があげられ,障害者用シューズを取り扱う望ましい靴店には,「試し履きができる対面販売」等があげられた。
試作靴の評価結果は,フィッティングと中敷調整後に継続して履き続けることができた 5 人全員の歩行姿勢が良くなり,内 4 人の平均歩行速度,平均歩数が改善した。一方,継続着用が不可能であった 4 人からは「甲・幅が狭い」と言う意見が得られた。
結論 今回調査の脳血管疾患後遺症障害者の靴への不満の内容はさまざまであり,特に素材とデザインおよび販売方法に改善の余地があることが明らかとなった。
作成した試作靴は甲幅の調整が効くデザインの改良によって,より多くの片麻痺障害者が着用可能になる可能性があるとともに,装具装着者にとって,正確なサイズ計測と中敷等の調整を行うことのできる対面での靴の販売が望まれる。
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