日本公衆衛生雑誌
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65 巻, 7 号
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原著
  • 小林 江里香, 野中 久美子, 倉岡 正高, 松永 博子, 村山 幸子, 田中 元基, 根本 裕太, 村山 洋史, 渡辺 修一郎, 稲葉 陽 ...
    2018 年 65 巻 7 号 p. 321-333
    発行日: 2018/07/15
    公開日: 2018/07/31
    ジャーナル フリー

    目的 中高年向けに開発された「地域の子育て支援行動尺度」について,1)多世代での尺度の信頼性・妥当性の確認を行い,世代別の2)支援行動の実施状況と内容,3)支援行動の関連要因における特徴を,性差とともに明らかにする。

    方法 東京都内と近郊の2地域において無作為抽出された25-84歳の住民を対象に郵送調査を実施し,8,918人(回収率33%)より有効回答を得た。対象者は65-84歳(高年層),50-64歳(中年層),25-49歳(若年層)の3年齢層と性別で分け,1)子育て支援尺度の信頼性係数の算出と確認的因子分析,2)尺度の総合点,および下位尺度別(子どもの安全・健全な成長,親への手段的/情緒的サポート)得点を従属変数とする分散分析,3)子育て支援総合点を目的変数,様々な個人特性を説明変数とする重回帰分析を実施した。

    結果 7項目での信頼性係数はどの年齢層も0.85以上と高く,因子分析のモデルの適合度も基準を満たしていた。高年層は中・若年層に比べて「子どもの安全・健全な成長」のための支援を行い,「親への情緒的サポート」も若年層と同程度(女性)かそれ以上に(男性)実施しており,総合点は3年齢層の中で最も高かった。子どもを預かるなどの「親への手段的サポート」得点は,若年層の女性が他集団より高いものの,全体的に低かった。12歳以下の子・孫をもつことと世代性(generativity)は,どの年齢層でも子育て支援得点を高めていたが,若年層では子どもの有無,高齢になるほど世代性との関連が強かった。また,町会やボランティア団体の参加者,高校卒業以下の学歴の人ほど支援している傾向は3年齢層で共通していた一方,若年層のみで賃貸の集合住宅居住者が支援していない傾向がみられた。

    結論 「地域の子育て支援行動尺度」は多世代での使用が可能であることと,地域の子育て支援における高齢者の役割の重要性が示された。子育て支援の関連要因には,世代間で共通点・相違点があった。

  • 山﨑 さやか, 篠原 亮次, 秋山 有佳, 市川 香織, 尾島 俊之, 玉腰 浩司, 松浦 賢長, 山崎 嘉久, 山縣 然太朗
    2018 年 65 巻 7 号 p. 334-346
    発行日: 2018/07/15
    公開日: 2018/07/31
    ジャーナル フリー

    目的 健やか親子21の最終評価における全都道府県の調査データを使用し,母親の育児不安と母親の日常の育児相談相手との関連を明らかにすることを目的とした。

    方法 対象は,2013年4月から8月の間に乳幼児健診を受診した児の保護者で調査票に回答した75,622人(3~4か月健診:20,729人,1歳6か月健診:27,922人,3歳児健診:26,971人)である。児の年齢で層化し,育児不安(「育児に自信が持てない」と「虐待しているのではないかと思う」の2項目)を目的変数,育児相談相手および育児相談相手の種類数を説明変数,属性等を調整変数とした多重ロジスティック回帰分析を実施した。

    結果 育児に自信が持てない母親の割合と,虐待しているのではないかと思う母親の割合は,児の年齢が上がるにつれて増加した。すべての年齢の児の母親に共通して,相談相手の該当割合は「夫」が最も多く,相談相手の種類数は「3」が最も多かった。また,「夫」,「祖母または祖父」を相談相手として選んだ母親は,選ばなかった母親と比べてオッズ比が有意に低かった。一方,「保育士や幼稚園の先生」,「インターネット」を相談相手として選んだ母親は,選ばなかった母親と比べてオッズ比が有意に高かった。育児不安と相談相手の種類数との関連については,すべての年齢の児の母親に共通した有意な関連はみられなかった。一方,児の年齢別にみると,1歳6か月児と3歳児の母親において,相談相手が誰もいないと感じている母親は,相談相手の種類数が「1」の母親と比べてオッズ比が有意に高く,「虐待しているのではないかと思う」の項目では,相談相手の種類数が「1」の母親と比べると,相談相手の種類数が「3」,「4」,「5」の母親はオッズ比が有意に低かった。

    結論 相談相手の質的要因では,すべての年齢の児の母親に共通して有意な関連がみられた相談相手は,夫または祖父母の存在は育児不安の低さと,保育士や幼稚園教諭,インターネットの存在は育児不安の高さとの有意な関連が示された。相談相手の量的要因(相談相手の種類数)では,幼児期の児を持つ母親においては,相談相手の種類数の多さが育児不安を低減させる可能性が示唆された。

公衆衛生活動報告
  • 岡辺 有紀, 關 明日香, 三宅 裕子, 熊谷 修
    2018 年 65 巻 7 号 p. 347-355
    発行日: 2018/07/15
    公開日: 2018/07/31
    ジャーナル フリー

    目的 高齢者において食品摂取の多様性を促進することがたんぱく質栄養の改善に有効なことは確認されている。一方,高次生活機能との関連については複数報告があるが,食品摂取の多様性を向上させる介入施策が高次生活機能の変化に及ぼす影響を長期に渡って検討した例は未だない。本研究の目的は地域在宅高齢者を対象とした食品摂取の多様性を改善するプログラムの継続が高次生活機能の変化に及ぼす影響を評価することにある。

    方法 対象は東京都北区在住の自立高齢者,男性44人女性112人,計156人である。12食品群の摂取の有無をチェックするシート「しっかり食べチェックシート12」(以下,チェックシート)を用いた食品摂取の多様性を促進する介入活動は,2013年から2015年の2年間行い,その1年後である2016年に継続実施の有無を追跡調査した。高次生活機能の自立度の変化は老研式活動能力指標にて測定した。食品摂取の多様性は食品摂取多様性得点で評価した。チェックシートの継続有無による老研式活動能力指標と食品摂取多様性得点の変化とその差は,反復測定による一般線形モデルで解析した。食品摂取の多様性を改善するプログラム継続の影響における独立性の検証は,3年後の老研式活動能力指標総合得点が10点以下か否かを目的変数とした,多重ロジスティック回帰分析によった。

    結果 活動開始時の対象者の平均年齢は71.76±5.78歳,老研式活動能力指標総合得点は12.48±0.82点,食品摂取多様性得点は4.10±2.36点であった。2016年にチェックシート継続実施が確認できた者は67人(継続群),中断した者は78人(中断群)であった。食品摂取の多様性得点は両群で有意な増加が認められた。一般線形モデルでの解析の結果,継続群では老研式活動能力指標総合得点の有意な低下はみられなかったのに対し中断群では有意に低下し,両群間の変化が異なる傾向が認められた(P=0.087)。さらに,多重ロジスティック回帰の結果,チェックシートの継続は,老研式活動能力指標総合得点が10点以下になることに対して,抑制的に影響する傾向が確認された。(P=0.064,95%CI=0.04-1.09)。

    結論 高齢者を対象とした栄養改善のためのチェックシートの継続実施は食品摂取の多様性の改善することに加え高次生活機能の自立度の低下を予防する効果もあるのかもしれない。

資料
  • 岩佐 一, 吉田 祐子
    2018 年 65 巻 7 号 p. 356-363
    発行日: 2018/07/15
    公開日: 2018/07/31
    ジャーナル フリー

    目的 本研究は,日本全国に居住する中高年者を対象とした標本調査を行い,「ビッグファイブ理論」(神経症傾向,外向性,開放性,協調性,勤勉性)に基づく簡易性格検査である「日本語版Ten-Item Personality Inventory」(TIPI-J)の中高年者における粗集計表の作成,標準値の報告,性差・年齢差の検討を行った。

    方法 日本全国に在住する中高年者(60~84歳)1,200人を無作為抽出して郵送調査を行い,849人から回答を得た(参加割合70.8%)。このうち,TIPI-Jに欠損のない者776人(男性368人,女性408人)を分析の対象とした。TIPI-J(10項目,7件法)のほか,居住形態(独居),教育歴(義務教育),経済状態自己評価,有償労働,健康度自己評価,主観的幸福感(WHO-5-J;5項目,6件法),高次生活機能(老研式活動能力指標;13項目,2件法)生活習慣病(脳卒中,心臓病,糖尿病,がん),総合移動能力,飲酒,喫煙の習慣を測定した。TIPI-Jの,①粗集計表の作成,②標準値(平均値,99%信頼区間,標準偏差)の報告,③性差ならびに年齢差の検討を行った。

    結果 TIPI-Jにおけるいずれの因子も概ね正規分布に近い形状を示した。神経症傾向では女性の方が男性よりも平均値が大きかった。開放性では男性の方が女性よりも平均値が大きかった。いずれの因子にも年齢差は認められなかった。

    結論 本研究は,一定程度の代表性が担保されたデータを用いて,TIPI-Jにおける,粗集計表の作成,標準値の報告,性差・年齢差の検討を行った。今後は,健康アウトカムを外的基準としてTIPI-Jの関連要因,予測妥当性の検証を行い,地域疫学調査等での有用性を確認することが課題である。

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