日本公衆衛生雑誌
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65 巻, 9 号
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原著
  • 櫻井 純子, 井上 まり子
    2018 年 65 巻 9 号 p. 525-533
    発行日: 2018/09/15
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    目的 飲酒に比較的寛容な離島で生活習慣病のリスクを高める量の飲酒(女性では1日平均エタノール摂取量が20 g以上,以下飲み過ぎとする)をする女性の社会的要因を把握することを目的とする。

    方法 調査対象は鹿児島県の離島である与論町在住の20-64歳の住民で,年齢階級と地区で層別化して無作為に抽出された812人に2016年7月に実施した。生活習慣全般に関するアンケートに回答した女性393人,男性419人を対象とした。分析は,目的変数を飲み過ぎの有無,説明変数を社会的要因,生活習慣,心身の健康状態とした多重ロジスティック回帰分析を行い,関連を検討した。最終的に年齢,子どもの有無,在住期間を調整して分析した。

    結果 分析対象となった309人の女性のうち,飲み過ぎの女性は46人(14.8%)であり,男性では86人(30.7%)であった。飲み過ぎに関連する要因として「飲食・観光」の従事者(オッズ比(OR)6.73, 95%信頼区間(95%CI)1.13-39.98),「喫煙」する者(OR 4.47, 95%CI 1.36-14.63),1か月以内に「レクリエーション活動」の参加がある者(OR 4.47, 95%CI 1.93-10.39),過去2週間以内に「気分の落ち込み」があった者(OR 2.47, 95%CI 1.08-5.68),1番多い飲酒場所が「自宅」(OR 16.52, 95%CI 6.77-40.29)の者が関連していた。

    結論 本研究では対象となる島が1つであり,解析率の制限という限界はあるものの,飲み過ぎの者の社会的要因としてレクリエーション活動に参加する者と関連があったことから,人のつながりがある者での飲酒行動を注視する必要がある。また,飲み過ぎと抑うつの関連の強さが女性のみに示唆された。健康に与える影響に鑑みれば飲酒文化に配慮しつつ,過度の飲酒は是正されるべきである。結果は健康増進計画(第二次)策定や地域連携に生かし,地域ぐるみの節酒支援を進めていく。

  • 滝 仁志, 平光 良充, 原田 裕子, 勝田 信行, 松原 史朗, 氏平 高敏
    2018 年 65 巻 9 号 p. 534-541
    発行日: 2018/09/15
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    目的 妊娠を契機に禁煙しても,産後に再喫煙する母親は多い。我々は母親の産後再喫煙の現状とその危険因子を明らかにすることを目的として,住民に対する縦断研究を行った。

    方法 2014年4月から2015年3月までの期間に名古屋市に妊娠を届出た妊婦にアンケート調査を実施した。調査項目は,妊娠届出時の喫煙行動,年齢,婚姻状況,出産経験,妊婦およびその夫(パートナー)の就業状態,不妊治療の有無,妊娠判明時の気持ち,里帰りの予定,困った時の援助者,夫(パートナー)や同居家族の同室喫煙,飲酒,2週間以上続く抑うつ症状である。また,児の3か月児健康診査および1歳6か月児健康診査受診時に喫煙行動を問診票より把握した。

     分析は全妊婦に加え,出産経験別にも行った。3か月時と1歳6か月時において,妊娠届の各項目と産後再喫煙についてカイ二乗検定もしくはFisherの正確確率検定を行い,全妊婦においてP<0.2であった項目を説明変数として強制投入しロジスティック回帰分析を行った。

    結果 24,413人が妊娠を届出ており,このうち3か月時,1歳6か月時の喫煙行動を把握できた者はそれぞれ18,041人,14,163人であった。

     3か月時まで追跡できた18,041人のうち妊娠を契機に禁煙した者は初産婦1,031人,経産婦695人であり,3か月時の再喫煙者は初産婦89人(8.6%),経産婦107人(15.4%)であった。1歳6か月時まで追跡できた14,163人のうち妊娠を契機に禁煙した者は初産婦789人,経産婦568人であり,1歳6か月時の再喫煙者は初産婦155人(19.6%),経産婦174人(30.6%)であった。

     ロジスティック回帰分析の結果,3か月時には「経産婦」,「24歳以下」,「未婚・離婚・死別(経産婦のみ)」,「里帰りの予定なし」,「家族の同室喫煙(初産婦のみ)」,「2週間以上続く抑うつ症状(全体,初産婦のみ)」が,1歳6か月時には「経産婦」,「未婚・離婚・死別(全体のみ)」,「援助者がいない(全体のみ)」,「家族の同室喫煙」が産後再喫煙のリスクであった。

    結論 3か月時以前よりも3か月時以降に再喫煙する者が多かった。3か月時と1歳6か月時で産後再喫煙の危険因子が異なっており,個々の母親に対し妊娠期から子育て期にかけて適切な時期に禁煙継続支援を行うことが必要である。

公衆衛生活動報告
  • 土屋 久幸, 桑原 由美子, 浅井 澄代, 岸本 剛, 中島 守
    2018 年 65 巻 9 号 p. 542-552
    発行日: 2018/09/15
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    目的 2017年8月,熊谷市と深谷市内で腸管出血性大腸菌O157(以下「O157」という。)による食中毒事例が発生した。これに対して,熊谷保健所は埼玉県の担当部署と協力して対策を講じた。本経験は公衆衛生活動として公衆衛生関係者に共有すべき貴重な事例であると考え,報告する。

    方法 8月14日から24日の間に感染症法の発生届のあった患者に対し保健所職員が患者宅を訪問し,「患者に対する調査」と「患者および家族の喫食・行動等調査」を行った。さらに,総菜販売店に立ち入り,原因食品等の製造・調理・加工の工程,施設の衛生管理状況,従業員の衛生管理の調査を実施した。

    活動内容 O157の患者は13人(7家族)だった。患者の発症月日の調査では8月11日が最多5人で,1峰性を示した。O157が検出された患者便のベロ毒素は2型,遺伝子型はすべて完全に一致した。保健所の疫学調査にて熊谷市内の総菜販売店で加工販売されたポテトサラダが原因食品であると判断した。そこで,保健所は販売店に対する行政処分(営業停止3日間),施設の消毒の指導,調理従事者の衛生教育,県庁を通じて報道発表を行った。

     さらに,ポテトサラダが汚染された原因として,その材料である「ポテトサラダの素」の汚染の可能性が否定できなかった。野菜を原因とする食中毒調査は野菜の保存期間が短く細菌調査が困難である。しかし,丹念な疫学調査により原因食品の推定は可能である。本事例では保健所と衛生研究所・県庁が探知の早期から原因調査事業に基づき連携して対応したことで,疫学調査,菌の遺伝子型分析,更にそれを統合した情報解析が効果的に作用した。

     なお,本事例は平成29年7月から関東地方を中心に発生したO157(ベロ毒素2型,遺伝子型は同一)の広域的な集団感染の一部であることが判明した。

    結論 今回,熊谷保健所管内で発生したO157食中毒事例で丹念な疫学調査により原因食品が推定できたことは成果であった。当該事例と同時期に自治体を跨ぐ広域的な集団感染が発生したが,共通の原因は明らかにならなかった。このような事例では早期から国と都道府県間で情報の共有や連携した対策が必要であると考えられた。

資料
  • 島井 哲志, 山宮 裕子, 福田 早苗
    2018 年 65 巻 9 号 p. 553-562
    発行日: 2018/09/15
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    目的 日本人成人の主観的幸福感の現状を明らかにし,今後の研究の基礎資料を提供する。また,性別,年齢,配偶の有無などの個人属性にともなう分布を明らかにし,主観的幸福感に関わる要因を考察する。

    方法 対象は,20歳以上の成人男女各1,000人合計2,000人であり,インターネット調査会社を通じて,20代から70代までほぼ均等に人数を割り付けた無記名自己回答式の横断調査を実施した。本研究では,主観的幸福感尺度SHSを指標として主観的幸福感を評価し,性・年齢などの基本属性との関連,1項目の幸福感,生活満足感,ストレス反応(K6)との関係を検討した。

    結果 SHS得点は1項目の幸福感や生活満足感と高い正の相関を示し,ストレス得点とは負の相関を示し,先行研究の尺度の妥当性が再確認された。男女の比較では,女性が男性よりもSHS得点が高く,また,中年に向けて,いったん低下したSHS得点が50代を過ぎると高くなっていくというU字型の現象が見られた。年齢分布にも男女で違いがあり,とくに青年や成人前期では男女差が顕著であった。加齢による上昇傾向は1年後の再確認のための調査でも確認された。また有配偶集団のSHS得点は,未婚集団のそれよりも高い値を示した。最終学歴が中学校の集団は他の集団に比べ低く,独居集団の値も低かったが,サンプリングバイアスも考慮するべきであると考えられた。

    結論 SHS得点は,主観的幸福感の国際的に標準的な指標のひとつとなっており,4項目と少数で,公衆衛生研究や実践にも応用しやすい。本研究では,性別,年代別の参照点となる基礎資料を提供した。今回の報告では,高齢者の上昇傾向と,有配偶集団および女性の値が高いことが示された。国際的には男女差がない報告も少なくないので,国際比較研究が待たれるところである。ウェルビーイングの指標の選択肢の一つとして,SHS尺度を用いた公衆衛生研究や実践例が発展することが期待される。

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