胆道感染症は食欲不振, 嘔気, 嘔吐など消化器症状をすでに伴なつていることが殆どであり, 治療を目的とした薬剤といえども, 患者は経口摂取を避ける傾向にある。したがつて, 抗生物質も勢い注射剤として投与されることになり, 肝・腎毒性の比較的少ないCephem系薬剤の開発に努力が注がれている。
しかしながら, 胆石症に伴なう中等度の胆嚢炎や胆管炎症例が胆道疾患の大部分を占める第一線病院においては, 手軽に, かつ安心して投与し得る経口用抗生物質を投与しながら, 検査や鑑別診断をおこなうための経過観察と治療をおこなうのが常である。
一方, 胆道感染症の起炎菌の過半数は,
Escheri chi acoli, Klebsiella, Enterobacterなどのグラム陰性桿菌であり, そのさいに使用される経口用化学療法剤としては, 現在, Cephalexin (CEX), Minocycli Doxycyclime (DOXY), Ampicillin (ABPC), Nalidixicacid (NA), Piromidic acid (PA) などが使用されているが, その抗菌スペクトルの狭さと胆汁中移行率の低さ, さらには副作用としての消化器症状の随伴, 増強など, その効果と制約から, 新らしい経口投与可能な化学療法剤の開発が期待されていた。
Miloxacin (MLX。フルダジン (R), 250mg, フィルムコート錠) は, 住友化学工業株式会社で合成されたグラム陰性桿菌とグラム陽性菌の一部にも抗菌力をもつ広い抗菌スペクトルの新らしい経口用合成抗菌剤であり, その化学構造式は, NAやPAに類似し, 5, 8-Dihydro-5-methoxy-8-oxo-2H-1, 3-dioxolo [acidである (Fig. 1)。体内にて複雑な代謝経路をもつが, 腸管からの吸収と胆汁排泄に優れ, 同糸のNAやPAにくらべ, その抗菌力は強く, しかも殺菌的であることなどが特徴とされている。その尿路感染症, 呼吸器感染症に関する臨床的評価は, 1977年第24回日本化学療法学会東日本支部総会新薬シンポジウムにてその有用性と安全性が確認されているが, 胆道感染症に対しては, いまだ評価は確立されていない。
今回, われわれは, 胆道感染症におけるMiloxacinの臨床的意義を明確にするため, CEXやNAとのCross-over法による胆汁中濃度の比較検討, Miloxacinとその代謝体であるM-1, M-2およびそれぞれのグルクロン酸抱合に関する胆汁中動態, さらにMiloxacinによる胆道感染症の臨床的効果を検討した。
抄録全体を表示