Aminothiazolylmethoxyiminoacetamido cephalosporin (ATOIC) の一つであるCefpirome (HR810, CPR) について基礎的・臨床的検討を行い以下の成績を得た。
1.血漿中濃度, 尿中排泄
小児での体内動態をOne shot静注, 30分間, 1時間点滴静注において, 1回量10mg/kg, 20mg/kg, 40mg/kgについて検討したが, 成人とほぼ同様の成績を得た。すなわちOne shot静注での30分後の平均血漿中濃度は10, 20, 40mg/kgで, それぞれ26.1, 47.8, 82.8μg/mlの値を示し, 血漿中半減期はそれぞれ1.13, 1.43, 1.26時間であった。30分間点滴静注では, 点滴静注終了時の平均血漿中濃度は10, 20, 40mg/kg投与で, それぞれ43.2, 106.9, 163.0μg/mlであり, 血漿中半減期は順に1.15, 1.09, 1.15時間であった。又, 1時間点滴静注での点滴静注終了時の平均血漿中濃度は10mg/kgで27.1μg/ml, 20mg/kgで475μg/ml, 血漿中半減期はそれぞれ1.09, 1.40時間で, いずれの投与方法でも各投与量間には明確なDose responseが認められた。投与後8時間までの平均尿中排泄率はOne shot静注10~40mg/kg投与で60.6~71.1%であり, 点滴静注では点滴静注終了6時間あるいは7時間後に, 10~40mg/kg投与で50.2~83.8%であった。
2.髄液中濃度
髄液への移行は2例での検討であつたが, 50mg/kg投与で0.28~5.19μg/mlの濃度を示し, 従来検討した第5群のCephem系抗生物質 (CEPs) と比べ中等度の移行を認めた。
3.臨床成績
各種細菌感染症に対する本剤の臨床効果の判定は, 3例の対象外疾患を除き56例で行った。その内訳は髄膜炎3例, 敗血症1例, 気管支肺炎25例, 扁桃炎, 外耳道炎各1例, 狸紅熱, 蜂窩織炎各2例, リンパ節炎, 尿路感染症各8例, ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群5例であり, 有効以上の成績を得たものが54例, その有効率は96.4%であつた。混合感染は6例 (
Haemophilusinfluenzae+
Staphylococcus aureus2例,
H. influenzae+
Streptococcus pyogenes,
H. influenzae+
Branhamella catarrhalis各1例,
H.influenzae+
Streptococcus pneumoniae 2例), 単独感染は37例で, Gram-positive cocciが22例 (
S. aureus 12例,
S. pyogenes4例,
S. pneumoniae6例), Gram-negativebacilliが15例 (B. catarrhalis,
Proteus mirabilis,
Haemophilus parainfluenzae,
Pseudomonas fluorescens各1例,
H. influenzae6例,
Escherichia coli 5例) であり, 56例中43例に検出菌が確認され, 経過中に菌の消失を認めたものは単独菌感染のS. aureus, S. pneumoniae, P. fluorescens各1例の判定不能を除く40例で確認され, 消失率は100%を示した。又, 検出菌別臨床効果は
S. pneuzoniaeによる肺炎例を除きすべて有効であり, 43例中42例, 97.7%の有効率であった。
4.副作用及び臨床検査成績
安全性に関する検討は, 除外例のマイコプラズマ肺炎3例を含め59例で行った。副作用としてはDrug fever, 下痢が各1例であり, 少ないものであった。臨床検査値では, GOT, GPT上昇, 好酸球増多が他の第5群CEPsと同程度に, 又, 極めて少数例に白血球減少, 血小板数増多等の異常値が認められた。
以上の成績から, 本剤はCEPs第5群のその優れた抗菌特性を有し, 更に
Enterococcus faecalisに対する実用性が増し,
S.aureusに関しても旧型のCephem系薬剤と匹敵する抗菌力を有している点から考え, 複数菌感染及び前薬無効時の変更薬として評価し得る薬剤と考える。
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