新しく開発された経口用セフェム系抗生物質cefprozil (CFPZ) の小児用製剤である細粒を種々の細菌感染症に投与し, 分離菌中起炎菌あるいは起炎菌と推定されたグラム陽性球菌の
Staphylococcus aureus2株,
Streptococcus pyogenes49株,
Streptococcus pneumoniae4株の55株, グラム陰性桿菌の
Haemophilus influenzae10株,
Escherichia coli18株,
Proteus mirabilis1株の29株, 計84株の接種菌量10
6CFU/mlに対しセフェム系抗生物質ではCFPZとCephalexin (CEX), Cefaclor (CCL) の3剤, ペニシリン系抗生物質ではAmpicillin (ABPC), Methicillin (DMPPC), Cloxacillin (MCIPC) の3剤, 計6薬剤を用いMICを測定した。体内動態については7歳1カ月から12歳3カ月の小児9例中各3例に本剤4.0, 7.5, 15.0mg/kgを食前30分に投与し, 血清中, 尿中濃度及び尿中回収率をBioassay法とHigh-performance liquid chromatography (HPLC) 法で測定, 5カ月から12歳5カ月児の咽頭炎34例, 扁桃炎5例, 急性気管支炎8例, 肺炎8例, 猩紅熱52例, 急性化膿性中耳炎4例, 尿路感染症47例, 化膿性リンパ節炎1例, 包皮炎1例, 計160症例に本剤の1回平均投与量8.6mg/kgを1日3回か4回 (3回は130例, 4回は30例) で, 平均7日間投与し, 臨床効果, 細菌学的効果をみると共に, 脱落症例を加えて副作用と臨床検査値異常について検討したところ, 次のような結果を得た。
1. CFPZの抗菌力はグラム陽性球菌中
S. aureus2株ではMIC0.78μg/mlか1.56μg/mlで, MCIPCのMICに次ぎ小を示した。
S. pyogenes49株では全株がMIC≤0.025μg/mlで, ABPCのMICと同じで, 他の4剤のMICより優れた。
S. pneumoniae4株ではMIC0.20~1.56μg/ml域を呈し, DMPPCとMCIPCのMICに類似か同じで, CEX, CCLのMICより優れたが, ABPCのMICより大を示した。グラム陰性桿菌中
H. influenzae10株ではすべての株がMIC1.56μg/mlか3.13μg/mlで, MIC
90は3.13μg/mlを呈し, CCL, DMPPCのMICに類似し, CEX, MCIPCのMICより優れたが, ABPCのMICより大の傾向を示した。
E. coli18株までのMICは全株が0.78~50μg/mlに分布し, MIC
90は12.5μg/mlで, CEXとCCLのMICに類似し, ABPC, DMPPC, MCIPCのMICより優れた。
P. mirabilis1株ではMIC1.56μg/mlで, CCL, ABPCのMICと同じで, CEX, DMPPC, MCIPCのMICより優れた。
2. 9例中各3例に本剤4.0, 7.5, 15.0mg/kgを投与しての血清中濃度をBioassay法で測定したところ, 各投与群の平均最高濃度は投与1時間後で, それぞれ3.18, 3.88, 8.43μg/mlを示し, 4.0, 75mg/kg投与群と15.0mg/kg投与群間にDose responseがみられ, 平均半減期は各々1.0, 1.2, 1.1時間で類似した。平均AUCはそれぞれ7.8, 9.9, 25.2μg・hr/mlで, 4.0, 7.5mg/kg投与群と15.0mg/kg投与群間にDose responseがみられ, HPLC法による各投与量群のパラメーターの平均はBioassay法に類似した。
3. 尿中濃度は血清中濃度を測定した同一症例で測定でき, 4.0, 7.5, 15.0mg/kg投与群をBioassay法でみると, その平均濃度は各投与量群共に投与後2~4時間が最高濃度を呈し, それぞれ237.0, 300.3, 1,458.3μg/mlで, 投与後6時間までの平均回収率は各々56.4, 49.8, 46.7%を示し, HPLC法による平均最高濃度, 平均回収率共にBioassay法と著しい違いはなかった。
4. 160症例に対する臨床効果は157例98.1%が有効以上で, 非常に高い有効率を呈した。
5. 細菌学的効果は114株について判定でき107株93.9%が陰性化し, 高い消失率を示した。
6. 脱落症例を加えた166例で, 全例副作用の出現はなかつた。
7. 臨床検査値では顆粒球減少が1例, 好酸球増多が3例, 血小板増多が1例に出現し, いずれも本剤との関係があるかもしれないとされた。
以上から, CFPZは小児科領域の種々の細菌感染症中起炎菌と重症度を考慮して選択すれば, 非常に有用な薬剤と言える。
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