1992年8月~1993年2月において, 当所で検出した主として外来患者由来臨床分離株を対象としSultamicillin (SBTPC) の抗菌活性を知ることを目的に, 他のβ-ラクタム系経口薬剤などを加えて最小発育阻止濃度 (MIC) を測定して, 以下の結果を得た。
1.
Staphylococcus aureusのPenicillinase (PCase) 産生株の割合は96.0%, Methicillin-resistant
S. aureus (MRSA) のそれは12.0%だつたが, MRSAを含む
S. aureusに対するSBTPCの MIC90は6.25μg/mlであり, SBTPC耐性
S. aureusの経年的増加は認められなかつた。
2.
Streptococcus pyogenesと
Enterococcus faecalisのSBTPCを含むペニシリン系薬剤耐性株はなかつたが,
Streptococcus pneumnoniaeのペニシリン系及びセフェム系薬剤低感受性もしくは耐性株が22.0%に認められた。
3.
Escherichia coli, Proteus mirabilisのβ-ラクタマーゼ産生株は各々が100%,
Haemophilus influenzae, Neisseria gonorrhoeaeのそれは前者が12.0%, 後者が16.0%であり, SBTPCは大部分のβ-ラクタマーゼ産生株に強い抗菌活性を示していた。しかし, 複数の基質と試験法によるβ-ラクタマーゼ産生性の検討では,
E. coliの一部に“Extended broad-spectrum β-lactamase”産生を示唆する株が認められており, そうした株に対するSBTPCとセフェム系薬剤のMICは高い方に分布していた。
4. SBTPC及びセフェム系薬剤に共通な耐性株の経年的な増加が示唆されたのは
S. pneumoniae であるが,
E. coliの一部にも両者に共通な耐性株が認められたことから, 今後においては, こうした耐性菌の動向に注目することが大切である。
5. 今回示した臨床分離株に対するSBTPCの抗菌活性には上記の問題点が残る。しかし, SBTPCは日常診療で関与し得る大部分のβ-ラクタマーゼ産生株には, 依然として強い抗菌活性を示すことも合せて確認された。そして, 近年に報告されている常在菌が産生するβ-ラクタマーゼによる「間接的病原性」にもSBTPCが強い性質を加味するならば, SBTPCは1990年代を迎えた今日においても, 市中感染症における有用性の高いβ-ラクタム系薬剤の一つである。
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