外科治療が必要な小児循環器疾患の多くは先天性心疾患で, 術後患者を含めた患者数は全国で50万人程度と考えられ, 修復手術成績の進歩にともないさらに増加することが予測できる.
今後の研究開発課題として, 人工物や自己組織などの補填材料を用いた再建手技が複雑疾患の修復手術で広く応用されているので, 新たな異種組織の開発・導入, 同種組織確保のための組織バンクの拡大, さらには成長する可能性がある優れた補填材料や組織を組織工学的手法で作る技術の開発・導入などの新たな生体材料の開発研究が必要である.
さらに, 早期手術が良好な遠隔予後の確保に必要であることから手術時期の低年齢化が進んでおり, 小児用, 新生児用, 未熟児用の低充填量回路の人工心肺装置や限外濾過法の改良をさらに進めて手術侵襲の軽減を図る機器開発と, 重症循環不全に対する小児用補助循環装置の開発・導入が今後の大きな課題となっている.
また, 先天性心疾患診療には独特の専門性を有する医療従事者と施設が必要で, 患者を早期に発見し, しかるべき施設で正確な診断と手術を含めた適切な治療を行い, かつ生涯にわたって経過観察を行い, 必要に応じて適切な治療を追加できる診療体系の構築が必要である. 重症先天性心疾患に対するフォンタン型手術の治療成績も著明に改善したが, 循環形態が特殊であるため, 今後も長期的フォローアップが不可欠で, 患者登録制度などの全国的な系統的長期経過観察システムの構築が必要と考えられる. また, 全体に術後患者のQOLは向上し, 多くの患者で通常児と比べても遜色のない身体条件が期待できる見通しがあり, これらの術後患者が社会に貢献できる自立性を獲得できる社会基盤の構築も必要である.
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