目的 地域医療を進める上で保健医療福祉の連携は不可欠である。日本の保健福祉活動は法律により行政主体で行われているが,市町村または国民健康保険連合会が開設する医療機関(以下,市町村医療機関)に勤務する医師は行政職員でもあり,保健福祉との連携を進めることを期待されている。市町村医療機関の保健事業への協力程度の市町村職員による総括評価と,その市町村の脳血管疾患死亡比との間に負の関連があることが報告されている。しかし,市町村医療機関に勤務する医師(以下,市町村医療機関勤務医師)がどういった保健福祉活動を行うと,保健福祉についての総括的な評価が高まるかを検討した報告は見当たらない。
そこで,市町村医療機関勤務医師の保健福祉活動への関与の程度と,それらに対する評価との関連を明らかにすることを目的に本研究を実施した。
方法 デザイン:自記式質問紙郵送法調査(横断研究)。
対象 全国3,152市町村の国民健康保険担当者(以下,市町村職員)から,3,059市町村(94%)の回答があり,このうち市町村医療機関があった1,315市町村(42%)を解析対象とした。期間:平成12年 7 月~9 月。調査項目:市町村医療機関勤務医師についての評価。13項目の保健福祉活動への関与の程度の評価と,保健福祉についての評価として,保健・福祉活動への参加および保健・福祉関係職員との人間関係への満足度。
成績 市町村医療機関勤務医師は常に参加していると市町村職員が評価した保健福祉活動の項目数と,医師の保健福祉活動に対する市町村職員の満足度に正の関連を認めた。各保健福祉活動について,多重ロジスティック回帰分析にて,関与の程度と満足度に,独立して正の関連を認めた活動は,在宅療養の連絡会,健康相談,健康教室,基本健診事後指導(以上,オッズ比 2 以上),学校医,予防接種,学校健診,基本健診(以上,オッズ比1.5以下)であった。自治体規模はこれらの関連に影響しなかった。
結論 市町村医療機関勤務医師が,より多くの保健福祉活動に,常に参加しているとの市町村職員による評価は,医師の保健福祉活動についての市町村職員の満足度と関連した。オッズ比 2 以上で関連した在宅療養の連絡会,健康相談,健康教室,基本健康事後指導は,市町村職員が特に医師の積極的な関与を希望している保健福祉活動と考えられた。こうした保健福祉活動の特徴として,活動の対象の個別性が高いこと,教育的であること,法律による実施義務がないこと,オッズ比1.5以下の関連を認めた保健福祉活動と比較して医師の関与の程度が低いことを考えた。関連が小さい活動である「学校医」,「予防接種」,「学校健診」,「基本健診」の特徴として,活動の対象が集団であること,診察・処置の要素が高いこと,オッズ比2.0以上の関連を認めた保健福祉活動と比較して医師の関与の程度が高いことを考えた。
抄録全体を表示