日本公衆衛生雑誌
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51 巻, 1 号
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原著
  • 北村 明彦, 山海 知子, 小西 正光, 佐藤 眞一, 今野 弘規, 大平 哲也, 内藤 義彦, 磯 博康, 谷川 武, 山岸 良匡, 齋藤 ...
    2004 年 51 巻 1 号 p. 3-12
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 わが国の今後の脳卒中対策に資するため,脳卒中予防対策を長期間実施した地域における,1964年の対策開始当初から最近までの脳卒中発生者の発生時症状と 1 年後の予後を検討し,脳卒中の重症度の推移について明らかにする。
    方法 対象集団は,秋田県井川町(2000年人口6,116人)である。1964-69年(I期),1970-79年(II期),1980-89年(III期),1990-98年(IV期)の期間に分けて,30~69歳,70歳以上の年齢層別に,①脳卒中の発生数・発生率,②発生時の意識障害・運動麻痺の有無,③発生 1 年後までの生命予後,④症状と死亡期間を組み合わせた重症度分類(A:発生から 1 日以内の死亡,B:2~7 日目の死亡,C:8 日以上の生存かつ完全片麻痺,D:8 日以上の生存かつ不全片麻痺または麻痺無し),⑤発生 1 年後の日常生活活動能力について検討した。
    成績 I期からIV期にかけて,30~69歳では,脳卒中発生数は41%減少し,脳卒中発生率は66%減少した。70歳以上では,この間の人口増加率が+271%であったのに対し,脳卒中発生数の増加率は100%にとどまり,脳卒中発生率は64%減少した。脳卒中発生時に運動麻痺を認めない者の割合は,30~69歳,70歳以上ともに,I期からIV期にかけて増加傾向を認めた。脳卒中発生時の重症度分類の推移は,いずれの年齢層でも,重症である A, B 区分の割合がI期からIV期にかけて減少し,軽症の D 区分の割合がIII期からIV期にかけて増加した。脳卒中発生から 1 年以上生存した者の割合は,30~69歳ではI期71%からIV期86%へ,70歳以上ではI期36%からIV期61%へと増加傾向を認めた。脳卒中発生後 1 年後の日常生活活動能力についてみると,寝たきりの数は,30~69歳では,I期からII期にかけて,5 人から11人へと増加したものの,II期以降は,この間の人口増加にもかかわらず,III期,IV期ともに 5 人と減少した。70歳以上でも,寝たきりの数は,I期の 3 人から,II期 8 人,III期11人へと増加したものの,III期からIV期にかけては11人から 9 人へと,この間の人口増加にもかかわらず,増加は頭打ちとなった。
    結論 脳卒中予防対策を長期間,実施した地域において,脳卒中発生率や発生数の減少に加え,発生時の症状の軽減ならびに 1 年後の予後の改善が認められ,脳卒中発作自体が軽症化したことが示された。
公衆衛生活動報告
  • 鈴木 由美, 岡崎 史子, 小林 淳子, 鈴木 修治
    2004 年 51 巻 1 号 p. 13-19
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 高齢化の問題が集約されている仙台市 T 地区の高齢者の健康づくり事業計画を立案する上で地区診断を行った。平成11年度は,これまでの事業を踏まえて統計的な既存の資料や調査を分析し,「人間関係の構築と交流の場づくり」を重要な課題として抽出した。平成12年度は,この課題が住民のニーズと一致しているか確認した上で,住民のニーズを「高齢者の生活の質を向上させる」ための事業に反映させることを目的にインタビュー調査を行った。
    方法 エスノグラフィー(民族誌学的方法)に準じた手続きにより,高齢者の実情を把握している主要な情報提供者22人と,仙台市 T 地区居住の一般の情報提供者 6 人を対象者として,インタビュー調査を行った。分析方法は,作業部会を設置して,グループ KJ 法を用いた。
    結果 主要な情報提供者のインタビューから,「地域の交流の場は重要」「サービスづくりと周知の工夫」「住民,民間,行政の相互理解と連携が必要(ネットワークづくり)」の 3 つのカテゴリーにまとめた。一般の情報提供者のインタビューからは,「高齢者にとって交流が必要」「積極的な高齢者の様子とそのとらえ方」という 2 つのカテゴリーに整理された。
     当センターが住民にとって最優先の課題と考えていた「人間関係の構築と交流の場づくり」について,インタビュー調査の結果から住民側においても必要かつ重要であることを確認出来た。さらに,「サービスに関する周知」や「住民や民間,行政との連携(ネットワークづくり)」の必要性についても確認することができた。
    結語 このインタビュー調査の結果を住民に説明した上で,住民参加の下に T 地区の健康づくりについて検討した。その後平成13年度仙台市 T 地区高齢者健康づくり支援事業計画を立案し,「高齢者のための情報誌作成」や「高齢者のためのサポーター養成講座」などを事業化することができた。
資料
  • 角田 正史, 上野 文彌, 竹島 正, 南 龍一, 高岡 道雄, 石下 恭子, 大井 照, 佐々木 昭子
    2004 年 51 巻 1 号 p. 20-29
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 平成14年 4 月から精神保健福祉法改正により,保健所から精神保健福祉業務の一部が市町村へ委譲された。平成13年10月時点での市町村の業務委譲の現状を調査し,保健所の市町村への支援のあり方の資料とした。
    方法 全国3229市町村の内,指定都市,政令市,中核市,東京都特別区を除いた3155市町村から人口10万人未満の500市町村を人口区分より抽出し,精神保健福祉業務の委譲に関するアンケート調査票を送付,回収した。
    成績 359市町村から回答を得た(回収率71.8%)。市町村が予算を伴った精神保健福祉業務を実施している頻度は58.5%となった。担当者は保健師と事務職員が多く精神保健の専門職は少なかった。業務委譲の進行状況は64.0%の市町村が担当部門を決めていたが,担当者数まで決めていたのは16.4%であった。社会復帰施設への支援は66.9%の市町村が行っていた。法で平成14年度からの実施の居宅支援サービスに24.2%の市町村がすでに関わりを持っていた。ケアマネジメント従事者研修には59.6%で受講者があり,精神障害者保健福祉手帳交付および通院公費負担事務に専門職を確保しているのが16.2%,プライバシー保護のためのスペース確保が24.2%の市町村であった。業務委譲への住民の反響は22.3%の市町村が反響ありとした。業務委譲の問題として98.6%の市町村が専門職の不足,相談体制等をあげた。保健所への要望については専門的情報の提供,関係機関との連携調整が多かった。
    結論 精神保健福祉業務の市町村での実施率は半数を越えているが,担当者に専門家は少数であった。また法に先んじて行われた居宅サービス支援のように市町村が必要に迫られ業務を実施した場合も示唆された。問題に専門職の不足,要望に専門的情報の提供があげられているように,保健所の精神保健に関する専門性を生かした支援が効果的と考える。
  • 藤原 真治, 岡山 雅信, 高屋敷 明由美, 梶井 英治
    2004 年 51 巻 1 号 p. 30-39
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 地域医療を進める上で保健医療福祉の連携は不可欠である。日本の保健福祉活動は法律により行政主体で行われているが,市町村または国民健康保険連合会が開設する医療機関(以下,市町村医療機関)に勤務する医師は行政職員でもあり,保健福祉との連携を進めることを期待されている。市町村医療機関の保健事業への協力程度の市町村職員による総括評価と,その市町村の脳血管疾患死亡比との間に負の関連があることが報告されている。しかし,市町村医療機関に勤務する医師(以下,市町村医療機関勤務医師)がどういった保健福祉活動を行うと,保健福祉についての総括的な評価が高まるかを検討した報告は見当たらない。
     そこで,市町村医療機関勤務医師の保健福祉活動への関与の程度と,それらに対する評価との関連を明らかにすることを目的に本研究を実施した。
    方法 デザイン:自記式質問紙郵送法調査(横断研究)。
    対象 全国3,152市町村の国民健康保険担当者(以下,市町村職員)から,3,059市町村(94%)の回答があり,このうち市町村医療機関があった1,315市町村(42%)を解析対象とした。期間:平成12年 7 月~9 月。調査項目:市町村医療機関勤務医師についての評価。13項目の保健福祉活動への関与の程度の評価と,保健福祉についての評価として,保健・福祉活動への参加および保健・福祉関係職員との人間関係への満足度。
    成績 市町村医療機関勤務医師は常に参加していると市町村職員が評価した保健福祉活動の項目数と,医師の保健福祉活動に対する市町村職員の満足度に正の関連を認めた。各保健福祉活動について,多重ロジスティック回帰分析にて,関与の程度と満足度に,独立して正の関連を認めた活動は,在宅療養の連絡会,健康相談,健康教室,基本健診事後指導(以上,オッズ比 2 以上),学校医,予防接種,学校健診,基本健診(以上,オッズ比1.5以下)であった。自治体規模はこれらの関連に影響しなかった。
    結論 市町村医療機関勤務医師が,より多くの保健福祉活動に,常に参加しているとの市町村職員による評価は,医師の保健福祉活動についての市町村職員の満足度と関連した。オッズ比 2 以上で関連した在宅療養の連絡会,健康相談,健康教室,基本健康事後指導は,市町村職員が特に医師の積極的な関与を希望している保健福祉活動と考えられた。こうした保健福祉活動の特徴として,活動の対象の個別性が高いこと,教育的であること,法律による実施義務がないこと,オッズ比1.5以下の関連を認めた保健福祉活動と比較して医師の関与の程度が低いことを考えた。関連が小さい活動である「学校医」,「予防接種」,「学校健診」,「基本健診」の特徴として,活動の対象が集団であること,診察・処置の要素が高いこと,オッズ比2.0以上の関連を認めた保健福祉活動と比較して医師の関与の程度が高いことを考えた。
  • 鈴木 順一郎, 片岡 隆策, 杉本 章二, 森尾 眞介
    2004 年 51 巻 1 号 p. 40-47
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/08/29
    ジャーナル フリー
    目的 高知県東部,中央部,および西部の 5 保健所において,地域住民を母集団と想定する非定型抗酸菌陽性の肺結核登録症例の記述的疫学研究を行う。
    方法 研究対象は1990~2001年の12年間に高知県の 5 保健所に届出された非定型抗酸菌陽性の肺結核登録症例とした。研究対象は 5 保健所の結核発生動向調査保健所システムのマスター・ファイルより抽出した。その数は151人であった。それらをマスター・ファイルに入力されている疫学的特性によって解析した。
    成績 (1)患者の届出時の平均年齢は68.00±11.59歳,男女比は1.60であった。(2)非定型抗酸菌陽性例の肺結核登録患者に占める構成割合は,上記 3 地域間で統計学的な差はみられなかった。1996~2001年のこの構成割合は13.6パーセントであった。(3)住民検診で発見されたこれら症例の肺病巣は,医療機関で診断された患者に比べその広がりが小さかった。(4)治療期間は 3 地域間で統計学的な差がみられ,県中央部のそれが最短であった。登録期間も治療期間と同様な傾向がみられた。
    結論 (1)今後,人口の高齢化に伴い,老人保健施設等の高齢者入所施設で非定型抗酸菌陽性の肺結核または非定型抗酸菌症の増加がみられるだろう。(2)これら疾患および結核の早期発見・早期治療のため,高齢者入所施設での胸部 X 線検診の定期的な実施が望ましい。(3)治療効果を上げるため,非定型抗酸菌陽性の肺結核に対する治療は,結核予防法の適用方法も含め広い視野から今後検討することが望ましい。
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