日本公衆衛生雑誌
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54 巻, 1 号
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原著
  • 太田 晶子, 永井 正規, 仁科 基子, 柴﨑 智美, 石島 英樹, 泉田 美知子
    2007 年 54 巻 1 号 p. 3-14
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 特定疾患治療研究事業対象疾患について,その発病年齢分布を明らかにする。
    方法 電子入力された2003年度臨床調査個人票を用いた。臨床調査個人票に記載された発病年と生年から発病年齢を算出し,疾患別,性別に発病年齢の 5 歳階級別受給者数,パーセンタイル値,好発年齢を求めた。
    結果 特定疾患では,中高年に好発する疾患が比較的多かった。しかし,原発性免疫不全症候群,亜急性硬化性全脳炎,ライソゾーム病,表皮水疱症,神経線維腫症I型,神経線維腫症II型では好発年齢が20歳未満であった。好発年齢が20~40歳代にある疾患は,大動脈炎症候群,全身性エリテマトーデス,ベーチェット病,副腎白質ジストロフィー,多発性硬化症,潰瘍性大腸炎,クローン病であった。発病年齢分布が 2 峰性を示す疾患は,再生不良性貧血,特発性血小板減少性紫斑病,重症筋無力症,モヤモヤ病,サルコイドーシスであった。その他の疾患の多くでは好発年齢は40歳以上であった。
    結論 電子入力された2003年度臨床調査個人票を利用することにより,特定疾患治療研究事業対象疾患の好発年齢,発病年齢分布を系統的に明らかにすることができた。本研究結果は,各難病の自然史に関し貴重な情報を与えるものである。
公衆衛生活動報告
  • 原田 直子, 榊原 久孝
    2007 年 54 巻 1 号 p. 15-24
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 レジスタンストレーニングと有酸素運動および柔軟性運動とを組み合わせた総合的な運動様式である well-rounded training は,高齢者の体力向上に有効であることが示されている。本研究は,地域で試みた下肢筋力増強を主目的にした地域在住の前期高齢者女性を対象とした well-rounded training の効果について検討した。
    方法 研究対象者は,本研究の趣旨に同意の得られた岐阜県 E 市在住の前期高齢者の女性で,平成15年度と平成16年度に実施された地域 well-rounded training 教室のどちらかに参加した参加者24人と対照のレクリエーション教室の参加者15人であった。地域 well-rounded training 教室は,週 1 回ごとに12週間実施された。レクリエーション教室は,2 週間ごとに12週間実施された。各教室の開始時と 3 か月後の終了時に,質問紙調査,形態計測,体力測定などを実施した。
    結果 地域 well-rounded training 教室群では,質問紙調査において「現在の体力に自信がありますか(P<0.01)」,「楽に歩ける距離はどのくらいですか(P<0.05)」,「普段どれくらい外出しますか(P<0.05)」などの項目で有意な改善がみられた。対照群では,有意な変化はみられなかった。体力などの項目では,両群ともに10 m 歩行,全身反応時間,椅子立ち上がり運動において効果がみられた。さらに地域 well-rounded training 教室群では,柔軟性の指標である長座体前屈(P<0.01)や CT で測定した大腿部筋横断面積(P<0.05)において効果が認められた。
    結論 今回の地域における well-rounded training 教室の試みによって,well-rounded training が前期高齢者の下肢筋力の増強や柔軟性などの維持増進に寄与することが示唆された。急速な高齢化が進む中,高齢者を対象とした地域における well-rounded training program は益々重要になると考えられる。
資料
  • 武田 俊平
    2007 年 54 巻 1 号 p. 25-31
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 死亡数および介護保険における要介護等認定者数を基に,全国47都道府県における65歳の平均余命および要介護未認定期間を算出し,65歳以上の標準化死亡比(以下,SMR)等との関係を分析する。
    方法 平均余命は Chiang 法により,要介護未認定期間は Sullivan 法により算出し,平均余命−要介護未認定期間=要介護期間とした。SMR は,全国を 1 として算出した。各指標間の関係については,Spearman の順位相関係数を算出して分析した。
    結果 (1)2004年における全国47都道府県の65歳要介護未認定期間は,男では,最長が長野県の16.72年,最短が青森県の14.32年であり,女では,最長が山梨県の19.18年,最短が大阪府の16.47年だった。
     (2)要介護未認定期間に関しては,男女とも,平均余命と正に相関し,要介護期間と SMR と負に相関した。平均余命に関しては,男女とも,SMR と負に相関し,女では,その他,要介護期間と正に相関した。
    結論 (1)2004年における全国47都道府県の65歳要介護未認定期間は,男では,長野県が最長,青森県が最短であり,女では,山梨県が最長,大阪府が最短だった。
     (2)男女とも,要介護未認定期間が平均余命と正に,SMR と負に相関したことは,要介護未認定期間の延伸にとって,死亡率の低下が重要と考えられる。また,男女とも,要介護未認定期間が要介護期間と負に相関したことは,要介護未認定期間の延伸にとって,要介護有病率の低下が重要と考えられる。さらに,女では,平均余命が要介護期間と正に相関したことは,平均余命が長いと要介護期間も長いと考えられる。これは,女では,要介護の原因が脳卒中のような致死的な疾患だけでなく,痴呆や骨関節疾患などの非致死的な疾患も多いためであろう。
  • 太田 晶子, 永井 正規, 仁科 基子, 柴﨑 智美, 石島 英樹, 泉田 美知子
    2007 年 54 巻 1 号 p. 32-42
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 2002年度特定疾患医療受給者の疾患別の性,年齢分布およびその時間的変化など,基本的記述疫学的特徴を明らかにすることを目的とする。
    方法 2002年度地域保健・老人保健事業報告を用い,疾患別に受給者数,性・年齢別受給者数を集計した。受給者数の年次比較には,1984, 1988, 1992, 1997年度の受給者全国調査結果を用い,疾患別に性・年齢別受給者数(人口10万対)の推移を記述した。
    結果 2002年度の全受給者数は,527,047(男213,198,女313,849)であり,受給者数は調査年度を追う毎に増加していた。男女ともに50歳代以上の受給者が多く,受給者数は特に高齢者で増加がみられた。ほとんどの疾患で受給者数は増加しているが,増加の程度は年齢によって異なり,一部の年齢では減少している疾患もあった。全身性エリテマトーデス(SLE),大動脈炎症候群では,女の30~50歳代の受給者が増加しており,受給者数が最大となる年齢が年次を追うに従い30歳代から40歳代,50歳代に移動していた。潰瘍性大腸炎,クローン病では,若年者の増加が大きかった。また受給者数が最大となる年齢が年次を追うに従い20歳代から30歳代に移動していた。パーキンソン病,筋萎縮性側索硬化症,脊髄小脳変性症,後縦靭帯骨化症などでは,高齢者の増加が大きく,とくに1992~1997年度にかけて,70歳以上の受給者の増加が大きかった。特発性血小板減少性紫斑病,ウィリス動脈輪閉塞症では,中高齢者が増加しているが若年者では減少していた。その他,サルコイドーシスでは,女は中高齢者で,男は若年者で増加が目立つなど,疾患によって異なった変化が観察された。
    結論 2002年度の特定疾患医療受給者の疾患別の性,年齢分布およびその時間的変化など,基本的記述疫学的特徴を明らかにした。受給者数は年度を追う毎に増加していた。疾患ごとに,性・年齢別受給者数の変化の特徴が異なっていたが,受給者数に影響を及ぼす要因も疾患によって異なると考えられた。難病の疫学像は今後も変化していくものと考えられ,受給者数を継続的に把握していく必要があると考える。
  • 金 憲経, 鈴木 隆雄, 吉田 英世, 吉田 祐子, 杉浦 美穂, 岩佐 一, 権 珍嬉, 古名 丈人
    2007 年 54 巻 1 号 p. 43-52
    発行日: 2007年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    目的 都市部在住地域高齢女性における老年症候群の複数徴候保持者の出現頻度,諸特徴,関連要因を総合的に把握する。
    方法 2004年度11月に,板橋区内 5 か所において70歳以上の男女を対象に行ったお達者健診に参加し,同意を得た高齢女性669人中,欠損値がない668人の聞き取り調査と体力のデータを分析した。老年症候群の判定基準は,(1)高次生活機能低下:老研式活動能力指標13項目中 3 項目以上で「いいえ」と答えた場合。(2)転倒:この 1 年間に 1 回以上「転んだことがある」と答えた場合。(3)尿失禁:日常生活の中で,尿が漏れる回数が「1 か月に 1~3 回」以上あると答えた場合。老年症候群の徴候を 2 つ以上持っている者を複数徴候保持者と定義した。健常者,1 つ徴候保持者,複数徴候保持者間の聞き取り調査と体力を比較した。老年症候群の複数徴候と関連する要因を抽出するために多重ロジスティック回帰分析を施した。
    成績 老年症候群の複数徴候保持者の割合は15.3%(102/668)であり,「高次活機能低下+転倒」2.2%(15/668),「高次生活機能低下+尿失禁」6.0%(40/668),「転倒+尿失禁」5.1%(34/668),「高次生活機能低下+転倒+尿失禁」2.0%(13/668)であった。複数徴候保持群は,健康度自己評価は低かったが,3 種類以上の薬を飲んでいる者,転倒恐怖感を持っている者,脳卒中や泌尿器病の既往がある者の割合は有意に(P<0.05)高かった。さらに,複数徴候保持群は年齢が高く,握力,通常速度歩行,最大速度歩行,ファンクショナルリーチ,膝伸展力,開眼片足立ちの成績は有意に(P<0.05)低かった。複数徴候保持群の中でも「高次生活機能低下+転倒」群の体力レベルが最も低かった。老年症候群の複数徴候の有(1),無(0)と関連する要因は,転倒恐怖感(オッズ比=1.59,95%CI=1.02-2.53,P=0.045),通常歩行速度(オッズ比=0.28,95%CI=0.11-0.71,P=0.007)の 2 項目が有意であった。老年症候群の複数徴候有症率は通常歩行速度が最も遅い群(46.2%)が最も速い群(12.5%)より高かった。
    結論 老年症候群の複数徴候保持者は健常者に比べて,体力水準が有意に低く,中でも「高次生活機能低下+転倒」群が最も低かったことや老年症候群の複数徴候と関連する要因は転倒恐怖感や歩行速度であるとの結果は,今後の介入の方向性を示唆するものである。
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