日本公衆衛生雑誌
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55 巻, 4 号
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原著
  • 杉本 昌子, 横山 美江, 和田 左江子, 松原 美代子, 齊藤 美由紀, 薗 潤
    2008 年 55 巻 4 号 p. 213-220
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
    目的 本研究では,3 歳以下の多胎児をもつ母親の不安状態を単胎児の母親との比較から分析し,それらに関連する要因について検討した。
    方法 調査期間は,2005年 2 月から2006年 4 月である。対象者は,A 市の 4 か月児健康診査を受診し,調査時点で 3 歳以下の多胎児をもつ母親224人に自記式質問紙を郵送し,130人から回答を得た(回収率58.0%)。なお,比較対照群として,同健診を受診した単胎児の母親から無作為抽出した3,000人に自記式質問紙を郵送し,1,656人から回答を得た(回収率55.2%)。このうち,調査時点で 3 歳以下の児をもつ母親860人を本研究の比較対照群とした。母親の不安の程度は日本版 STAI の状態不安および特性不安を用いて測定した。分析に使用したデータは,主観的不安の程度として,妊娠中の不安,今後の育児に対する不安を用い,育児背景要因として,妊娠中の育児に対するイメージ,母親の体調,睡眠状態,ストレス解消法の有無,育児サークルの参加状況,育児協力者の有無等のデータを用いた。
    結果 多胎児の母親では,STAI の状態不安において「高不安」と判定された者の比率が単胎児の母親に比べ有意に高かった。一方,特性不安は単胎児の母親と多胎児の母親では有意な差異は認められなかった。また,多胎児の母親は単胎児の母親に比べ,妊娠中不安を感じた者,ならびにストレス解消法がない者の比率が有意に高かった。ロジスティック回帰分析の結果,状態不安の「高不安」には多胎児であること自体は関連しておらず,妊娠中不安を感じたこと,今後の育児に対して不安があること,母親の体調不良ならびに睡眠不足を強く感じていること,ストレス解消法がないこと,同胞がいることが関連していた。
    結論 多胎児の母親は単胎児の母親に比べ,不安を抱きやすい状況であることが示された。また,多胎児であること自体が母親の不安を増強させるのではなく,母親を取巻く育児環境に問題があることが明らかとなった。3 歳以下の多胎児をもつ母親の不安を軽減するためには,妊娠中からのサポート体制を整備し,ストレス解消法の提示をはじめ,母親の身体的な負担を軽減するための具体的なサービスの提供の必要性が示唆された。
  • 吉田 祐子, 岩佐 一, 權 珍嬉, 古名 丈人, 金 憲経, 吉田 英世, 鈴木 隆雄
    2008 年 55 巻 4 号 p. 221-227
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
    目的 地域高齢者を対象に実施された介護予防健診への継続参加者と不参加者の特性を比較し,不参加の関連要因を検討した。また,老年症候群の改善介入教室の参加状況が健診への継続参加へ及ぼす影響について検討した。
    対象と方法 2002年に東京都I区で実施された介護予防を目的とした健診(「お達者健診」)の参加者(1,712人)を対象とした。2 年後の2004年に実施した健診に参加した者を「参加者」,参加しなかった者を「不参加者」の二群に分類し両群間における特性を比較した。また,健診への不参加の関連要因を明らかにするため,多重ロジスティック回帰分析を実施した。
    結果 健診の参加率は,男性66.3%,女性67.3%であった。多重ロジスティック回帰分析の結果,男性では,認知機能が低い(Odds ratio (OR)=2.19, 95% Confidence Intervals (CI) 1.07−4.49),教育歴が低い(OR=1.58, 95% CI 1.22−2.22),老年症候群がある(OR=1.82, 95% CI 1.27−2.59)が,女性では,認知機能が低い(OR=2.01, 95% CI 1.13−3.59),喫煙習慣がある(OR=2.05, 95% CI 1.13−3.72),趣味習慣が無い(OR=0.68, 95% CI 0.50−0.92)ことが健診への不参加に関連した。ついで,老年症候群の保有者のみを対象に不参加の関連要因を検討したところ,男女に共通して老年症候群の改善介入教室へ不参加である(男性 OR=5.90, 95% CI 2.08−16.7,女性 OR=2.64, 95% CI 1.57−4.45)ことが健診への不参加に関連した。
    結論 健診に参加しない者は,男性では認知機能が低く,教育歴が低く,老年症候群の保有者であり,女性では,認知機能が低く,喫煙習慣があり,趣味習慣が乏しいという特徴が認められた。また,男女共に老年症候群の保有者であっても,介入教室に参加した者はその後の健診にも参加しやすいことが明らかとなった。
    提言 健診への参加率を向上させるためには,個々の背景やニーズに合わせた周知法や健診内容の提示が必要である。
  • 種田 行男, 諸角 一記, 中村 信義, 北畠 義典, 塩澤 伸一郎, 佐藤 慎一郎, 三浦 久実子, 西 朗夫, 板倉 正弥
    2008 年 55 巻 4 号 p. 228-237
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
    目的 変形性膝関節症(膝 OA)を有する高齢者を対象に,地域保健の現場で介護予防事業として実施できる運動介入プログラムを考案し,その効果を無作為化比較試験によって検討した。
    方法 対象者は東京都武蔵野市保健推進課が開催した体操教室に自主的に参加した在宅自立高齢者88人(男性12人:平均年齢77.8歳±標準偏差5.4歳,女性76人:年齢73.2歳±5.3歳)であった。これらの対象者は介入群(44人)と対照群(44人)に無作為に割り付けた。介入群には 3 か月間を介入期間として,1 回あたり約90分間の運動教室を合計 8 回開催した。運動の内容は柔軟性運動(膝や足関節のストレッチ),筋力運動(大腿四頭筋の自発性収縮,ゴムバンドを用いた膝関節の伸展・屈曲),および動作訓練(寝返り,起居,歩行)であった。これらの運動を自宅で毎日実施するように指示した。Western Ontario and McMaster Universities OA Index (WOMAC 調査)による膝痛スコア,膝関節伸展および屈曲時のピークトルク,膝関節可動範囲(ROM),および生活体力(起居・歩行能力)が介入前後に測定された。
    結果 介入前において,女性対照群の膝関節伸展時ピークトルク,起居能力,および歩行能力に有意差が認められた。反復測定分散分析を用いて時点と群の交互作用を検討した。その結果,膝痛スコア(P=0.031),膝関節伸展(P=0.016)・屈曲時(P=0.000)のピークトルク,ROM(P=0.037),起居能力(P=0.000)および歩行能力(P=0.000)に有意性が認められた。これらの効果量(effect size)は膝痛スコア0.44,膝関節伸展時ピークトルク0.23,膝関節屈曲時ピークトルク0.64, ROM 0.32,起居能力0.81,および歩行能力1.13であった。
    結論 我々が考案した地域保健プログラムは,膝痛を有する高齢者の疼痛の軽減および運動機能の改善に有用であることが明らかになった。
資料
  • 横田 いつ子, 鶴崎 健一, 杉原 成美
    2008 年 55 巻 4 号 p. 238-246
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
    目的 保育所および幼稚園児の保護者を対象としたアンケート調査により,タバコの誤飲事故の実態を把握し,保護者の喫煙に対する意識と行動に起因した誤飲事故発生の要因について考察した。
    方法 2006年 6 月~10月にかけて,広島県東部にある A 市および B 市の保育所および幼稚園の保護者を対象として,無記名による自記式調査を実施し,保護者417人から有効回答を得た(回収率80.5%)。子どもの総数は796人(男子429人,女子366人,性別不明 1 人)で,6 歳未満の未就学児童数は575人(男子312人,女子263人)であり,全体の72.2%を占めた。
    結果 調査対象の喫煙率は,父親は54.4%,母親は12.2%であり,同居している祖父母等による喫煙を含めると喫煙者がいる家庭は64.3%であった。喫煙家庭の15.7%で,タバコの誤飲事故が実際に発生しており,未遂を含めると28.7%に達した。誤飲事故を起こす年齢は 1 歳児までが78.8%を占めた。灰皿やタバコの置き場所に関して,喫煙家庭の36.2%は子どもの手の届く所におくことがあり,7.5%は置き場所を気にしたことがないと回答した。提示されたタバコ誤飲事故の発生状況の中で,タバコの葉や吸殻に比べタバコの浸出液の誤飲が危険であると回答した保護者は半数しかいなかった。子どもの成長や健康への受動喫煙の影響は喫煙家庭の保護者においても多くが認識しており,84.0%が子どもの前で喫煙すべきでないと回答した。しかし,日常生活の中で実際に子どもの前で吸わないようにしていると回答した保護者は25.0%にとどまった。
    結論 調査対象の未就学児の家庭の64.3%が喫煙家庭であり,その15.7%でタバコの誤飲事故が実際に発生していた。諸外国に比べてタバコ誤飲事故が多発する要因として,①タバコや灰皿の管理が喫煙家庭で適切に行われていない,さらに②受動喫煙による子どもの成長や健康への認識はあるものの,認識と実際の行動との間にずれがあり,子どもの前で喫煙が行われている,等が挙げられる。
  • 豊田 泰弘, 中山 厚子, 藤原 秀一, 真 和弘, 松尾 吉郎, 田中 博之, 高鳥毛 敏雄, 磯 博康
    2008 年 55 巻 4 号 p. 247-253
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/07/01
    ジャーナル フリー
    目的 地域の救急活動記録を元に自殺企図者(自殺未遂者・自殺死亡者)の特徴を分析し,今後の自殺対策に資することを目的とした。
    方法 2004年 4 月から2006年 3 月までの岸和田市消防本部の救急活動記録より,246例(延べ人数)・196人(実人数)の自殺企図者(自殺未遂者・自殺死亡者)を把握した。これらにつき,性,年齢,調査期間内の自殺企図回数,企図手段,月,曜日,救急覚知時刻(救急隊に連絡のあった時刻)について集計解析した。
    結果 196人の自殺企図者のうち,自殺死亡者は52人(男性32人,女性20人),自殺未遂者は144人(男性32人,女性112人)であり,2 回以上にわたって自殺企図を繰り返した実人数は29人(男性 3 人,女性26人)であった。
     男性の自殺死亡者は40歳代から70歳代の中高年に多く,女性の自殺死亡者は40歳代に多かった。男性の自殺未遂者には30歳代になだらかなピークがあり,女性の自殺未遂者は20歳代から40歳代の比較的若年者に急峻なピークがあった。
     自殺死亡者の主たる手段は男性では縊頸,ガス,女性では縊頸,飛び降り・飛び込みであった。自殺未遂者の主たる手段は男女ともに服薬,四肢切創であった。
     月については,男性の自殺死亡者は 4 月から 6 月に多く,女性の自殺死亡者は11月に多かった。男性の自殺未遂者は 7 月,8 月,9 月に多く,女性の自殺未遂者は 1 月,8 月,9 月に多かった。
     曜日については,男性の自殺死亡者は月曜,水曜が多く,女性の自殺死亡者は日曜が多かった。男性の自殺未遂者は金曜が多く,女性の自殺未遂者は月曜と火曜に著明なピークがあった。
     覚知時刻については,自殺死亡者は男女とも夕方から夜半に少なく,未明から日中に多かった。男性の自殺未遂者は午前日中と夕方に多かった。女性の自殺未遂者は午前日中にきわだって少なかった。
    結論 救急車が出動する自殺企図者の大部分は女性の自殺未遂者であった。女性の自殺未遂者は男性に比べて若年者に多く,自殺企図を頻回に繰り返すという特徴があり,これらを考慮した対策がのぞまれる。
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