日本公衆衛生雑誌
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60 巻, 11 号
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原著
  • 谷本 芳美, 渡辺 美鈴, 杉浦 裕美子, 林田 一志, 草開 俊之, 河野 公一
    2013 年 60 巻 11 号 p. 683-690
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/10
    ジャーナル フリー
    目的 本研究では高齢者の介護予防に向けた健康づくりを支援するために,わが国の地域高齢者を対象とし,筋肉量,筋力および歩行速度から判定したサルコペニアと関連する要因について明らかにすることを目的とした。
    方法 大都市近郊に在住する65歳以上の高齢者1,074人を対象にバイオインピーダンス法を使用した筋肉量測定と握力,通常歩行速度の測定を行った。また,自記式質問紙で,属性•慢性疾患の既往と過去 1 年間の入院歴,生活習慣に関する項目,心理状況,口腔の状況および食事の状況を調査した。サルコペニアの判定には筋肉量,握力,通常歩行速度を用いた。筋肉量は測定した四肢筋肉量を身長2 で除して補正四肢筋肉量(kg/m2)として扱い,若年成人における平均値から 2 標準偏差以上低い場合を低筋肉量とした。握力と通常歩行速度については対象者の 4 分位の最下位をそれぞれ低筋力および低身体機能とした。サルコペニアの分類は低筋肉量かつ低筋力または低身体機能の者をサルコペニア,低筋肉量でも低筋力でも低身体機能でもない者を正常,そしてサルコペニアでも正常でもない者を中間と分類した。
    結果 男性の13.7%,女性の15.5%がサルコペニアに該当した。男性のサルコペニアではかめない者,および食品摂取の多様性がない者が有意に多いことを示した。女性のサルコペニアでは独居者,運動習慣のない者,健康度自己評価において健康でないとする者,かめない者が有意に多いことを示した。さらに,単変量解析においてサルコペニアと関連する因子を説明変数としたロジスティク回帰分析では,男性においてサルコペニアと正常との比較では年齢(オッズ比1.24:95%信頼区間1.13–1.36)および食品摂取の多様性(オッズ比3.03:95%信頼区間1.17–7.86)がサルコペニアに有意に関連した。女性ではサルコペニアと正常との比較において年齢(オッズ比1.26:95%信頼区間1.19–1.33)と咀嚼(オッズ比3.22:95%信頼区間1.65–6.29)がサルコペニアに有意に関連し,中間と正常との比較においても,中間にはこれら 2 項目が関連した。
    結論 地域高齢者において,サルコペニアには,男性と女性での年齢,男性での食品摂取の多様性,女性での咀嚼が関連することが明らかとなった。このことから高齢期の健康づくりにおけるサルコペニアの予防には食品摂取や咀嚼といった栄養に関する要因に注意を払う重要性が示唆された。
研究ノート
  • 羽鳥 徹, 中村 多美子, 津久井 智
    2013 年 60 巻 11 号 p. 691-696
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/10
    ジャーナル フリー
    目的 性器クラミジア感染症の診断は,臨床的には直接病原体の検出によるが,保健所の性感染症相談•検査では血清を用いた抗体検査が用いられることが多い。今回,保健所性感染症相談•検査来所者を対象に血清クラミジア抗体と尿中のクラミジア病原体検査結果を比較し,保健所におけるクラミジア病原体検査の有用性を検討した。
    方法 保健所の性感染症相談•検査に来所した匿名の120人(男性64人,女性56人)を対象に実施した血清抗体検査と strand displacement amplification(SDA)法による尿中の病原体検査を比較した。女性の病原体検査の検体は,子宮頸管擦過物と同等の感度をもつと報告されている尿を用いた。血清抗体検査は ELISA 法を用い,IgA 抗体,IgG 抗体の少なくとも一方が陽性の場合に抗体陽性と判定した。
    結果 血清抗体陽性率は24.2%(男性14.1%,女性35.7%),SDA 法陽性率は7.5%(男性3.1%,女性12.5%)で,両検査の一致率は81.7%で,κ 統計量は0.35(95%CI:0.10–0.59)であった。SDA 法陽性者 9 人のうち IgA 陽性は 1 人,IgG 陽性は 6 人,両者ともに陽性 1 人で,1 人は抗体陰性であった。SDA 法陰性者111人のうち IgA 陽性は 8 人,IgG 陽性は 5 人,両者ともに陽性は 8 人であり,IgA 抗体とクラミジア病原体の有無に関連は認められなかった。クラミジア感染の既往歴のある者はない者に比較して抗体陽性率が高かったが(P<0.01),病原体陽性率に差はなかった。
    結論 保健所の性感染症相談•検査のクラミジア検査は,検体採取が容易な血清抗体検査が利用されることが多いが,病原体検査を積極的に導入するべきであることが示された。
  • 金山 敦宏, 加來 浩器
    2013 年 60 巻 11 号 p. 697-704
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/10
    ジャーナル フリー
    目的 近年,国民の食生活の多様化に伴い,海外からの輸入食品を喫食する機会が増えている。海外における主な食中毒事例の原因食品は,国内発生事例の原因食品と必ずしも一致するとは限らず,潜在的に輸入食品が国内で食中毒を発生させる原因となりうる。本研究では,2011–2012年の 2 年間に海外で発生し公表•報道された食中毒のうち,原因食品の特定された主な事例を分析し,輸入食品のリスクを調査した。
    方法 本研究において「食中毒事例」は,食品衛生法第58条に従って,「食品,添加物,器具若しくは容器包装に起因した中毒事例(疑い例を含む)」と定義した。海外の食中毒事例に関する情報は,国際感染症学会の公式プログラムである ProMED-mail(the Program for Monitoring Emerging Diseases; http://www.promedmail.org,以下 ProMED)に2011–2012年の 2 年間に掲載されたものを使用した。国内の食中毒事例との比較には,食品安全委員会の公表している統計や国立感染症研究所の病原微生物検出情報の資料などを参照した。
    結果 2011–2012年に ProMED に掲載された感染症関連事例のうち,続報などを除いた主な海外の食中毒事例は113件で,原因病原体として細菌が98件(86.7%)と大多数を占めた(表 1)。このうちサルモネラ属菌が39件(39.8%)と最も多く,ボツリヌス菌20件(20.4%)と合わせると約 6 割を占めた。サルモネラ食中毒事例の特徴は,原因食品として国内では想定しにくい果実類(6 件)や豆類•種実類(3 件)があること,野菜類や魚介類の割合が多いことであった。また,野菜等の缶詰等がボツリヌス中毒の原因としてリスクの高いことが分かった。さらに,メロンの喫食からリステリア症を発症した事例や,イチゴからノロウイルスのアウトブレイクが発生するなど国内では稀な事例が存在した。
    結論 海外における食中毒事例では,国内の常識が当てはまらない事例が数多く報告されていることが明らかとなった。これらの食品が輸入され国内流通した場合には食中毒発生リスクのあることが示された。
  • 塩川 幸子, 北村 久美子, 藤井 智子, 上田 敏彦
    2013 年 60 巻 11 号 p. 705-714
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/10
    ジャーナル フリー
    目的 本研究は,青年期にある広汎性発達障害を持つ本人・家族の生活面の困難さに対する保健師の支援プロセスを明らかにすることを目的とした。
    方法 対象は,保健師経験年数10年以上で,青年期の広汎性発達障害を持つ本人・家族の継続支援に携わる保健所保健師とした。保健師の支援事例は青年期にあり,ICD–10 の F84 広汎性発達障害と精神科医に診断された事例(疑い含む)とした。半構成的面接を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M–GTA)を用いて分析した。
    結果 対象者は女性10人で保健師経験年数10~28年であり,保健師の支援事例は10事例,年齢22~37歳であった。分析の結果,38概念と14カテゴリーが生成された。青年期の広汎性発達障害を持つ本人・家族への保健師の支援プロセスは【困っていることに沿って一緒に考える】ことから始まっていた。【信用を生み出す】なかで,【生活面の困難さと本人の持つ特徴の影響を照らし合わせる】と同時に【本人の特徴理解】,【見立ての難しさと向き合う】ことを繰り返し【ふみこむタイミングや介入の判断】を行っていた。また,保健師は【地域の中でその人らしく生活できることを目指す】という目標に向かい,【わかりやすいコミュニケーションの工夫による対話の促進】を行いながら,【本人の特徴理解】をさらに深め,アセスメントと支援を連動していた。さらに,【自己理解の促し】から【自己決定・対処行動のサポート】へとつなげ,【地域資源の活用・開発】や【困っていることに沿った連携・調整】により支援を展開するとともに,【生活しやすい地域づくり】を目指し,継続支援を行っていた。
    結論 保健師は,支援プロセスにおいて,広汎性発達障害を持つ人の特徴を見極め,信頼関係を重視しながら,わかりやすいコミュニケーションを工夫した生活支援や,関係者と連携して生活しやすい地域づくりを継続的に行っていた。保健師の役割として,生活面の多様な問題に対し,その人の特徴に合わせた対応策を共に考えて工夫するとともに,ライフステージに応じた本人・家族を支えるネットワークや地域全体の支援体制づくりを推進するプロセス全体を動かしていくことの必要性が示唆された。
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