日本公衆衛生雑誌
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60 巻, 7 号
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原著
  • 矢次 佐和, 鈴鴨 よしみ, 出江 紳一
    2013 年 60 巻 7 号 p. 387-395
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    目的 近年,重症心身障害者(以下,重症児と略する)の在宅期間は長期化していく傾向にあり,介護する母親は長期にわたって介護負担というストレスに曝される。介護負担感などの否定的心理状態は主観的健康状態に影響を与える。肯定的心理状態につながる生産的社会活動に関して,高齢者を対象とした報告はあるものの,重症児を介護する母親を対象とした研究はない。そこで,本研究では,重症児を介護する母親の生産的社会活動が介護負担感と主観的健康状態との関連に与える影響を明らかにすることを目的とした。
    方法 重症児を介護する母親270人に対して,郵送法にて質問紙調査を行った。調査票には,介護する母親の介護負担感(Zarit 介護負担感尺度),主観的健康状態,生産的社会活動(生きがいやはりがあると感じている活動),介護時間や睡眠時間といった介護負担や個人的背景などが含まれた。介護負担の程度や生産的社会活動の有無で主観的健康状態得点に差があるかを t 検定で検討した。また,生産的社会活動が主観的健康状態と介護負担感との関係に与える影響について検討するために,分散分析と多重比較(Bonferroni 法)を用いて検討した。
    結果 270人中120人から回答が得られた(回収率44.4%)。生産的社会活動有群は無群に比べて主観的健康状態が良い傾向がみられたが,有意ではなかった(t=3.3, P=0.07)。分散分析の結果,生産的社会活動有群では介護負担感の軽負担群と重負担群間で主観的健康状態に差がないのに対して(3.4 vs. 3.12, F=1.3, P=0.253),生産的社会活動無群では,重負担群が軽負担群に比べて有意に低い健康状態を示した(3.4 vs. 2.7, F=5.6, P=0.017)。
    結論 重症児を介護する母親において,介護負担感が重い群の方が軽い群よりも主観的健康状態は低かった。しかし,生産的社会活動を行っている群においては,介護負担感の軽重によって主観的健康状態は異ならず,生産的社会活動が介護負担感と主観的健康状態との関係を修飾する可能性が示唆された。
公衆衛生活動報告
  • 菅原 彰一, 松田 徹
    2013 年 60 巻 7 号 p. 396-402
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    目的 本研究は,働く世代のがん検診未受診者を受診行動へと導引することに,①がん検診の受診を阻害する要因を除くための対策や工夫,②無料化が与える影響を明らかにすることを目的として,町と協力して検診の工夫を行った。
    方法 山形県東田川郡庄内町において,阻害要因を排除した「働く男性に配慮した検診」,「働く女性に配慮した検診」の二つのモデル的な検診と,町の施策として無料化を実施したところ,大幅に受診者数が増加した。本研究は,それら介入がいかに影響を与えたのか,受診者へのアンケート調査と検診申込者数比較から分析した。
    結果 モデル事業の検診には計148人が受診し,うち前年未受診者が57.4%,過去に一度も受診していない人が31.1%であった。
      受診の動機は,働く男性に配慮した検診受診者の場合は「土日実施(62.5%)」,「無料(45.8%)」,「短時間(40.3%)」,「早朝実施(33.3%)」,働く女性に配慮した検診の場合は「無料(80.3%)」,「土日(57.9%)」,「女性医師•スタッフ(47.4%)」,「女性限定(25.0%)」であった。
      無料化は,男性より女性(P<0.05),60歳代以上より50歳代以下(P<0.01),過去に受診したことがある人より過去未受診者(P<0.01)の比較において,有意に受診の動機となった。
    結論 働く世代の未受診者にとって,阻害要因の排除と無料化はいずれも評価が高かった。とくに「土日実施」が動機に与える影響が大きかった。
      ただし,いずれの対策においても効果的な周知が必要であることが示唆された。
  • 田村 光平, 藤原 元幸, 大島 克郎, 今村 知明
    2013 年 60 巻 7 号 p. 403-411
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    目的 秋田県は乳歯う蝕の多い地域であり,2002年度の 3 歳児一人平均う歯数の都道府県順位は全国最下位であった。秋田県は乳歯う蝕の減少を目的に,2004年 3 月から PRECEDE–PROCEED model による住民主体型の歯科保健活動を実施したことから,その成果について報告する。
    方法 対象地域は,2002年度のう歯数が5.5本と,秋田県で一番う蝕の多かった鳥海町とした。2003年度の 3 歳児健診時に保護者49人にアンケートを実施し,乳歯う蝕が多い要因を抽出した。抽出された課題を協議する組織として,乳幼児の保護者,歯科医師,歯科衛生士,保育園長,行政職員等で構成された協議会を設置した。協議会では,アンケート結果等を基に乳歯う蝕に関する目標値を設定し,保護者の歯科保健習慣改善に向けて優先的に取り組む項目ごとに 5 つのチームを結成した。活動計画の策定を行い,フッ化物歯面塗布の実施や保護者宛の便りの発行といった対策を実施した。3 歳児一人平均う歯数•う蝕有病率および2006,2008年度のアンケート結果,事業資料等により評価した。
    結果 2003年度と2008年度(保護者33人)のアンケート結果を比較すると,優先的に取り組んだ 4 項目中 2 項目が有意に改善した(「哺乳瓶に甘いものを入れて飲ませている保護者の割合」47%→9%:P<0.01,「仕上げ磨きを毎日している保護者の割合」57%→91%:P<0.01)。また,QOL 指標である「子どもの歯が原因で何か困りごとがある者の割合」が減少した。3 歳児一人平均う歯数は2003年度の3.5本から2008年度は1.6本に,う蝕有病率は56%から27%に減少した。
    結論 住民主体の歯科保健活動により,保護者の子どもに対する歯科保健習慣の改善と乳歯う蝕の減少が確認された。事業終了により2008年度で協議会は解散したが,2009年 6 月に住民による自主活動組織が作られ,啓発活動が継続されていることから,地域住民の歯科保健意識が変化し,活動が地域に定着したものと考えられる。
研究ノート
  • 堀越 直子, 桑原 雄樹, 田口 敦子, 永田 智子, 村嶋 幸代
    2013 年 60 巻 7 号 p. 412-421
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    目的 多死社会を迎える離島地域で,看取り体制の構築に向けた示唆を得るために,離島地域での看取りの実態および在宅療養•死亡場所にかかわる特徴を入院施設の有無別に明らかにすることを目的とした。
    方法 離島振興法等に指定された 1 島 1 市町村中 5 島を抽出し,要介護認定を受け,2009年 4 月 1 日~2011年 7 月31日の期間に亡くなった65歳以上の療養者の介護者(85人)を対象とした。Mixed Method の埋め込みデザインを採用し,調査票を用いた半構造化面接を行い,死亡場所,死亡年齡,性別,死亡原因疾患,療養希望場所などについて尋ねた。
    結果 入院施設なし群の自宅死亡の割合は39.0%(41人中16人)で,入院施設あり群の18.2%(44人中 8 人)に比べて,有意(P=0.029)に高かった。自宅死亡のうち,がんで亡くなった人は,24人中 6 人で,①家族介護力があること,②往診医が確保されていること,③疼痛コントロールが可能なことの 3 つの条件を満たした場合,入院施設の有無にかかわらず,離島地域でも看取りの可能性が高い疾患であることが示された。また,入院先の医療職から在宅療養を勧められ,島内の自宅で亡くなった者がいた。
    結論 在宅療養を支援する専門職は,療養者の疾患の特性や家族の情報をいち早く捉え,医療職との連携に努めることの重要性が示唆された。
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