目的 近年,重症心身障害者(以下,重症児と略する)の在宅期間は長期化していく傾向にあり,介護する母親は長期にわたって介護負担というストレスに曝される。介護負担感などの否定的心理状態は主観的健康状態に影響を与える。肯定的心理状態につながる生産的社会活動に関して,高齢者を対象とした報告はあるものの,重症児を介護する母親を対象とした研究はない。そこで,本研究では,重症児を介護する母親の生産的社会活動が介護負担感と主観的健康状態との関連に与える影響を明らかにすることを目的とした。
方法 重症児を介護する母親270人に対して,郵送法にて質問紙調査を行った。調査票には,介護する母親の介護負担感(Zarit 介護負担感尺度),主観的健康状態,生産的社会活動(生きがいやはりがあると感じている活動),介護時間や睡眠時間といった介護負担や個人的背景などが含まれた。介護負担の程度や生産的社会活動の有無で主観的健康状態得点に差があるかを t 検定で検討した。また,生産的社会活動が主観的健康状態と介護負担感との関係に与える影響について検討するために,分散分析と多重比較(Bonferroni 法)を用いて検討した。
結果 270人中120人から回答が得られた(回収率44.4%)。生産的社会活動有群は無群に比べて主観的健康状態が良い傾向がみられたが,有意ではなかった(t=3.3,
P=0.07)。分散分析の結果,生産的社会活動有群では介護負担感の軽負担群と重負担群間で主観的健康状態に差がないのに対して(3.4 vs. 3.12, F=1.3,
P=0.253),生産的社会活動無群では,重負担群が軽負担群に比べて有意に低い健康状態を示した(3.4 vs. 2.7, F=5.6,
P=0.017)。
結論 重症児を介護する母親において,介護負担感が重い群の方が軽い群よりも主観的健康状態は低かった。しかし,生産的社会活動を行っている群においては,介護負担感の軽重によって主観的健康状態は異ならず,生産的社会活動が介護負担感と主観的健康状態との関係を修飾する可能性が示唆された。
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