長野県市野瀬地域の鹿塩構造帯はマイロナイトと粟沢変成岩から構成されている.地質図を作成し,鉱物組み合わせ,鉱物組成,石英の粒径などを検討して,鹿塩構造帯の内部構造を解明した.これを基に,周辺地帯のテクトニクスも考慮しながら,鹿塩構造帯のテクトニクスを考察した.マイロナイトは石英集合体の石英粒径に基づいて,ゾーンF,M,Cに区分される.ゾーンFからゾーンMに向って温度が上昇することが岩石学的研究から判断された.市野瀬断層より南方の粟沢地域では,片理面,褶曲軸面,層理面およびゾーン境界の走向はすべてN30°Eで,MTLとは斜交している.面構造の走向も石英の粒径もMTLとの距離に関係しておらず,白亜紀のマイロナイト形成運動とMTLの活動は無関係である.MTLの活動と関係するのは変質作用と破砕帯や断層の形成で,その時期に鹿塩構造帯は複雑に変形された.この変形とMTLの活動・形成は赤石山地の地質体が中新世初期の末期に回転・移動したテクトニクスに関連していたと推定される.
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