筆者の研究を中心として,マントル岩由来の砕屑物(特に砕屑性クロムスピネル)の解析法およびその意義を総括した.マントル岩由来の砕屑物は機械的・化学的性質が特異であり,独特の意義を有する.クロムスピネルは岩石学的に重要ないくつかの元素を主要成分として含み,かんらん岩の成因を解釈する上で重要な鉱物である.その組成は,関与したマグマの組成の違いおよびサブソリダスでの冷却・変成により変化する.侵食・運搬・堆積・続成過程では化学組成の変化はなく,後背地の解析のよいツールとなる.砕屑性クロムスピネルはオマーン・オフィオライトマントル部のようなかんらん岩体の性質を概観するのに有効である.また,蛇紋岩メランジュのマトリックスのように強く破砕されたかんらん岩体の性質を理解するのに威力を発揮する.かんらん岩体を,相伴う砕屑性粒子と合わせて解析できればさらに有効である.環伊豆地塊蛇紋岩帯はよい適用例を示す.
石川県白峰地域および福井県滝波川地域における手取層群は,下位より,五味島層,桑島層,赤岩層,北谷層に岩相区分される.白峰地域の大嵐山周辺に露出する赤岩層より産出した植物化石群は,18属23種からなる.それらはシダ類,イチョウ類,球果類などの手取型植物群の指標分類群を主体とするが,少量の領石型植物群の指標分類群を含む.領石型植物群の指標分類群のうち,大きな葉をもつベネチテス類・ソテツ類や,Brachyphyllum属で代表される鱗片状の小さな葉をもつ球果類は,乾季を伴う気候に特徴的な植物とされている.従来,これらの分類群は,北谷層堆積時に混在し始めるとされていたが,本研究の結果,赤岩層堆積時には既に混在が起こっていたことが明らかになった.このことは,手取層群堆積盆の周辺における乾燥化が,これまで考えられていた時期よりも早期に始まっていたことを示唆する.
愛知県豊田市に分布する中新統瀬戸陶土層の古土壌記載と堆積相解析を行い,古土壌の多様性を見出し,当時の風化条件を検討した.堆積相解析結果より,研究地域に分布する陶土層は,蛇行河川システムにおける滞水域,後背湿地,氾濫原において堆積していたことが明らかとなった.古土壌層を3層準で認定でき,これらと現世土壌分類との対比を行った.低地では,inceptisol相当の土壌が形成され,有機物供給量が多い場合は還元的土壌環境によってhistosol相当の土壌が形成されていた.これらは,局地的な排水条件や植生,堆積物供給速度に依存する古土壌である.一方で,丘状の地形面では,Bt層が厚く発達し,土壌の乾湿変動に伴う節理の発達や粘土の膨潤によって生じる凹凸状の地形(gilgai microrelief, mukkara subsurface horizon)が形成されていた.この古土壌は,vertisolの特徴をもつultisolに相当し,瀬戸陶土層の堆積当時が,明瞭な季節性を伴う暖温帯で湿潤な気候条件下にあった可能性を示唆する.
Paleocene diatoms are reported from a calcareous concretion in the Urahoro area, eastern Hokkaido, Japan. Although poorly preserved, the assemblage is predominantly composed of both Hemiaulus spp. and diverse resting spores, associated with Stephanopyxis spp. This study represents the first record of Paleocene diatoms in the Northwestern Pacific region and, therefore, is key to gaining a deeper insight into the regional chronology and global biogeography.