紀伊半島中央部に分布する四万十帯白亜系の赤滝コンプレックス,槇尾コンプレックスおよび時代未詳の高原川コンプレックスについて砂岩中の砕屑性ジルコンU-Pb年代を測定した.高原川コンプレックスは,構造的上位より上部砂岩ユニット,混在岩ユニットおよび下部砂岩ユニットに区分され,それぞれ衝上断層で重なる.上部・下部砂岩ユニットともに約115Maの最も若いジルコン年代が得られ,岩相的特徴も併せて,高原川コンプレックスは四万十帯白亜紀付加コンプレックスと判明した.高原川コンプレックスは岩相や砂岩組成から,紀伊半島西部の湯川コンプレックスに対比されるが,最も若いジルコン年代に相違が見られる.また,赤滝コンプレックスは四万十帯の花園コンプレックスや美山コンプレックスの一部と岩相や堆積年代が類似するが,砕屑性ジルコンの年代構成は異なる.一方,槇尾コンプレックスの堆積年代は従来よりも若いカンパニアン期と判明した.
本研究は,紀伊半島中央部に分布する秩父-四万十付加体境界周辺において,詳細な野外調査を行った.本地域では,秩父付加体の山葵谷コンプレックスと四万十付加体の麦谷コンプレックスが,西北西-東南東走向で南に低角で傾斜した大峯-大台スラストで接している.また,大峯-大台スラストを介して構造的上位に分布する秩父付加体の山葵谷コンプレックスにおいて,砂岩のジルコンU-Pb年代測定を行い,最も若いジルコン粒子および最も若いクラスター年代として,約168~152Maの年代が得られた.四万十付加体の麦谷コンプレックスからは,最も若いジルコン粒子および最も若いクラスター年代として約110~100MaのジルコンU-Pb年代が得られており,大峯-大台スラストを境にして,約55Myrという堆積年代差の存在が明らかになった.大峯-大台スラストを境とした堆積年代差は,他地域の秩父-四万十付加体境界で認められる年代差よりも非常に大きな値を有している.
東京都世田谷区の武蔵野台地の下に分布する更新統世田谷層及び東京層の層序と地盤震動特性について検討した.世田谷層はMIS 6に開析された谷地形をMIS 5e前期~中期に埋積した地層であり,内湾成の軟らかい泥層を主体とする.一方,この地域の東京層は,MIS 5e中期?~後期の湾奥で形成された砂層などからなり,世田谷層とは対照的に広範囲に比較的平坦に分布する.常時微動観測により,段丘礫層を伴わず世田谷層が厚く分布する地域では,1Hzにピークをもつ地盤震動特性が示された.首都圏の地盤リスクを考えるとき,世田谷層をはじめとする台地の下のMIS 6開析谷埋積層の分布に注視する必要がある.
北海道から東北日本,西南日本の日本海側,およびフォッサマグナ等のいわゆる「グリーンタフ地帯」では新生代後期に水底堆積した水中火山岩類が広く分布する.このうち凝灰岩は各地で石材として利用されてきた.北海道南西部には中新世末に形成された水中火山岩類が広く分布している.小樽市ではこの水中火山のうち,特に地場の「凝灰岩」を石材として用いた石造建造物が明治初期から昭和初期にかけて数多く建造された.現在,それらの建造物が形成する景観は重要な観光資源となっている.
本巡検では,明治期に急速に発展した都市形成を支えた石材「小樽軟石」と,その石材の供給源である水中火山活動による地質とを関連付けて観察する.これらはともに重要な観光資源でありながら,相互を関連させた議論はされてなかった.小樽市の歴史的石造建造物とこれを構成する石材,および急峻な海食崖からなる海岸景観を構成する中新世の水中火山岩類の巨大露頭を陸上と海上から観察したうえで,地域の地質と文化的基盤との関わりについて議論し,文化地質学的視点からの学びを核とするジオツーリズムの一例を提示する.