地質学雑誌
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111 巻, 11 号
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特集 ヒマラヤ-チベットの隆起とアジア・モンスーンの進化,変動
  • 池原 研, 板木 拓也
    2005 年111 巻11 号 p. 633-642
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/01
    ジャーナル フリー
    冬季モンスーンはシベリア高気圧と周囲の低気圧との間の大気循環による現象である.東アジアではシベリア高気圧とアリューシャン低気圧や赤道・オーストラリア低気圧との間の風で特徴付けられ,日本列島周辺では北西季節風が卓越する.この低温で乾燥した北西風は,ロシア極東沿岸日本海の表層水を冷却し,沿岸付近では海氷を形成させる.冷却され,海氷形成時に排出された高塩分水が加わって重くなった表層水は沈み込んで日本海固有水と呼ばれる深層水を形成する.最近の海洋観測結果から,深層水の形成は海氷が形成される極端に寒い冬に起こっているので,海氷と深層水の形成は冬季モンスーンの指標となると考えられる.本稿では,過去16万年間の海氷の発達度合いを示す漂流岩屑の量と冷たくて酸素に富んだ深層水の指標となる放散虫Cycladophora davisianaの産出量を検討した.その結果,酸素同位体ステージ3-5においては,両者とも千年規模の変化を示し,東アジア冬季モンスーンがこの時期に千年規模で変動していたことを示唆する.両者が高い値を示す時期には冬季モンスーンが強かった可能性が高い.同時期の日本海堆積物にはやはり千年規模での変動をもつ夏季モンスーンの記録が暗色層として残されているので,これとの対応関係を見ることで,1本のコアから夏季・冬季モンスーンの強弱の歴史と両者の関係を解明できる可能性がある.
  • 塚本 すみ子, 岩田 修二
    2005 年111 巻11 号 p. 643-653
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/01
    ジャーナル フリー
    石英を用いた光ルミネッセンス(OSL)年代測定は最近急速な進歩を遂げ,数十年から約10万年前までの堆積物の年代測定の手段として定着しつつある.ルミネッセンス年代測定法の特長は,最も普遍的な鉱物である石英や長石を用いて,堆積物の堆積年代を直接測定できる点にある.しかし現在の約10万年という適用限界では,応用範囲が限られる.そこで現在,ルミネッセンス法の上限を拡大するための研究が盛んに行われている.本総説ではまず,石英を用いたOSL年代測定法について解説したのち,上限年代拡大のために開発中の方法について紹介する.さらに最近,堆積物中の石英のOSLは,起源により特徴が異なることがわかってきた.日本をはじめとする変動帯は地質構造が複雑なため,堆積物中には様々な起源の石英が混在しており,年代測定が困難な場合もある.そこで,このような場合に起こりうる問題点と現時点での解決方法についても紹介する.
  • 鬼頭 昭雄
    2005 年111 巻11 号 p. 654-667
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/01
    ジャーナル フリー
    大規模山岳がアジアモンスーンなどの気候形成に果たす役割を調べるために,全球大気海洋結合大循環モデルを用いて,チベット高原を含む全地球の山岳の高度を0(M0)から140%(M14)まで段階的に変える実験を行った.500 hPa面の東西風は,山岳高度が40%以下では一年を通してチベット高原の緯度帯より北の40 ºN付近に位置するが,山岳を60%より高くすると冬季にはチベット高原の南側25 ºN付近にあり春季にチベット高原の北へシフトすることがわかった.山岳高度が60%をしきい値として東アジアの循環場には大きな変化がおき,梅雨降水帯は山岳高度が60%より高い時のみ発現した.地表風の変化については,アラビア海北部では山岳が低い場合には一年を通して北風に支配され,モンスーン南風域には入らない.乾燥気候に区分される面積は山岳上昇とともに減少することもわかった.
  • -そのヒマラヤ-チベット隆起とのリンケージ-
    多田 隆治
    2005 年111 巻11 号 p. 668-678
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/01
    ジャーナル フリー
    ヒマラヤ-チベットの隆起がアジア・モンスーンを強化したとする考えは古くから存在したが,それらの開始時期や様式について十分な知見が得られていなかったため,検証されずに今日に至っている.近年,中国のレス堆積物や日本海堆積物を用いたモンスーン進化過程の復元が進み,ヒマラヤ-チベットの隆起時期や過程についても知見が蓄積されてきた.ヒマラヤ-チベットの隆起とモンスーンの成立,進化の関係の吟味に不可欠な気候モデルも,飛躍的に改善が進んだ.本総説では,アジア・モンスーンの開始,進化,変動に関する最新の古気候学的知見を基にその進化過程を復元し,気候モデルを基に推定された進化過程と比較して,ヒマラヤ-チベットがどのように隆起してきたと考えれば,モンスーン進化過程が最もうまく説明がつくかを検討した.こうして推定されたヒマラヤ-チベットの隆起過程は,構造地質学的に推定された隆起過程と概ね整合的と考えられる.
  • 山田 和芳, 福澤 仁之
    2005 年111 巻11 号 p. 679-692
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/01
    ジャーナル フリー
    本論では,これまでの東アジアのレス・湖沼堆積物の研究を概観し,約120編の文献を取り上げて紹介した.東アジアのレス・湖沼堆積物には,陸上域での第四紀古環境変動が記録されている.この研究史は新しく,現在までの約20年間で東アジアモンスーンの成立やその変動について多くの証拠が蓄積されてきた.その結果,レスの堆積開始時期は2.6 Maであり,それ以降ミランコビッチフォーシングによる氷期-間氷期サイクルに伴ってモンスーン変動が生じたこと,および,最終氷期以降のモンスーンには,D-Oサイクルと同調する短時間周期の変動が生じていたことが明らかにされた.さらに,レス古土壌の直下に堆積する紅粘土の研究から,モンスーンの成立時期が7~8 Maまで遡るかもしれないという新知見が明らかにされてきた.
  • 横山 祐典, 阿瀬 貴博, 村澤 晃, 松崎 浩之
    2005 年111 巻11 号 p. 693-700
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/01
    ジャーナル フリー
    宇宙線との相互作用によって地球表層で岩石中に生成される核種(TCN)は, 加速器質量分析計(AMS)の発達によって, 地球表層プロセスの研究に急速に広く用いられるようになってきた. TCN研究では半減期の違う複数の核種を組み合わせることによって, 侵食速度, 埋没履歴などを求めることが可能である. 現在はTCNのうち, 10Beや26Alの測定がAMSにより活発に行われてきている. 現在のところTCNの絶対量の誤差は約10%と大きいが, それでもこれらの測定結果を使って, テクトニクスや気候変動についての新しい知見が得られるようになった. チベットにおいての研究例も増え始めており, 今後サンプリング地点を増やし測定を活発に行うことによって, インドのユーラシア衝突によって引き起こされているチベット地域のテクトニクスの詳細や気候変動を細かく明らかにすることができる.
  • -モンスーンシステムの誕生と変動という視点から-
    酒井 治孝
    2005 年111 巻11 号 p. 701-716
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/01
    ジャーナル フリー
    私達の研究により,ヒマラヤの変成岩ナップは~14 Maに出現し,11~10 Maに前進を停止し,1 Maにはヒマラヤの前縁山地が上昇したことが判明した.また11 Ma以前に,ヒマラヤは現在の高度以上になっていたことが明らかになった.またチベット高原からヒマラヤにかけて分布する東西引張り性の正断層群の形成時期,チベット高原から産出した中期中新世の植物化石や酸素同位体を使った古標高の推定結果は,いずれも山塊が14 Ma頃までに現在の高度に達していたことを示す.モンスーン開始の証拠とされた10~8 Ma頃の湧昇の活発化は,インド洋のみならず太平洋や大西洋からも報告されており,南極氷床の拡大とリンクしている可能性もある.今後はチベット高原の中部地殻が広く部分溶融しているという新しい知見を取り入れながら,ヒマラヤ・チベット山塊の進化と上昇,およびそのモンスーンシステムの発達との相互因果関係を解明して行かなければならない.
  • 斎藤 文紀
    2005 年111 巻11 号 p. 717-724
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/03/01
    ジャーナル フリー
    アジアの大河川は,その成因,分布,変遷において,ヒマラヤとチベット高原の隆起の影響を強く受けてきた.これらの大河川がつくるデルタは,完新世において広大なデルタ平野を形成しつつ,陸棚域を前進してきている.デルタの成長に最も影響を及ぼしているのは,完新世の海水準変動であり,海水準上昇期の累重型のデルタから海水準安定期の前進型のデルタに,また内湾域から陸棚域にデルタが前進することによって,より波浪の影響を受けるように進展してきた.アジアに分布するさまざまなデルタは,このようなデルタ成長モデルの中に位置づけることが可能であり,異なった発達段階のデルタをみることができる.
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