日本海拡大時には北陸地方を含む環日本海地域で活発な火成活動が起きた.日本海拡大期に北陸地方で起きた最初の火成活動は,33 Ma頃の能登半島での安山岩質マグマの活動である.能登半島での安山岩質火成活動は,デイサイト質マグマの活動を挟んで前期中新世にも発生した.一方で後期漸新世~前期中新世には,北陸地方の広範囲で月長石を含む流紋岩質火砕流が噴出した.その後,多様な化学組成をもつ玄武岩~安山岩が前期中新世に北陸地方の全域で大量に噴出した.この火成活動に続いて前期~中期中新世には大量の流紋岩が噴出し,北陸地方は急速な沈降を開始した.この日本海拡大に関連した活発な火成活動は,西南日本弧の時計回り回転の終了にあたる16 Ma頃に急速に減退した.これら火成岩類を形成したマグマは,日本海拡大時にアセノスフェア貫入の影響を受けたマントルウェッジや沈み込むスラブ,大陸地殻が溶融することによって生成されたと考えられている.
Otsuki(1989)による「プレート収れん速度の法則」を新たなプレート運動モデル,震波トモグラフィー,古地震学・地質学,GPS測地学などのデータに基づいて更新した.全28の沈み込み帯からスラブ先端深度が200 km以下と異常なテクトニック状況下にあるそれぞれ4つの沈み込み帯を除外して残った20の沈み込み帯は,Va=(Vo//a+Vs//a)-69とVt//a=69-Vs//aという単純な式に従う(単位は全てmm/yで,決定係数R2はともに0.91以上).ここで,Vaは上盤プレートの変形速度(短縮が正),Vs//aとVo//aはそれぞれ下盤プレートと上盤プレートのVaに平行な速度成分(海溝に向かう方向が正),Vt//aは海溝軸の移動速度のVaに平行な成分(海側に向かう方向が正)である.これによって,「プレート収れん速度の法則」がよりしっかりと成立していることが確認された.
八甲田-十和田カルデラ群,湯ノ沢カルデラから噴出した尾開山凝灰岩は陸成の溶結凝灰岩相と海成の非溶結凝灰岩相からなる.本研究では各相から採取した5試料についてジルコンのU-Pb・FTダブル年代測定を行った.非溶結凝灰岩相の3試料のU-Pb年代値は3.9 Maに集中したが,溶結凝灰岩相のうち同凝灰岩の模式地である尾開山中腹の試料は8.7 Ma,大仏公園の黒曜岩試料は5.3 MaのU-Pb年代を示した.これらU-Pb年代結果はダブル年代測定で得たFT年代と誤差範囲で一致することから高精度・高確度噴出年代を決定することができた.これにより,尾開山凝灰岩非溶結凝灰岩相の噴出年代が3.9 Maであることを確定した.一方,流紋岩(溶結凝灰岩相)から得られた5.3 Maの年代値もまた尾開山凝灰岩の噴出年代を示すと考えられるが,3.9 Maに噴出した溶結凝灰岩相がある可能性は否定できない.さらに,尾開山山体の溶結凝灰岩(8.7 Ma)は後期中新統に対比される.同溶結凝灰岩相の噴出年代と分布域については今後検討を要する.
四国北西部に分布する下部-中部中新統久万層群明神層は花崗岩類や半深成岩類を礫として含む.これらの礫は主に久万層群の南向きの古流向に基づき,領家帯・山陽帯の火成岩類に由来すると考えられている.したがって,久万層群は現在その大部分が外帯に分布しているものの,明神層は当時の内帯側に関する情報をもっている.これらの火成岩礫の起源を明らかにするため,礫に関する岩石学的記載とLA-ICP-MSによるジルコンU-Pb年代測定をおこなった.花崗岩類礫,半深成岩類礫からそれぞれ得られた99-95 Ma,約90 Maという年代値は,領家(および山陽)花崗岩類,特に高縄半島や柳井地域から報告されている年代と調和的である.また,火成岩礫の岩石学的特徴も領家(および山陽)火成岩類によく見られるものである.したがって,従来の見解通り,明神層中の火成岩礫は主に領家帯の火成岩類に由来すると考えられる.
氷期-間氷期が顕著である前期更新世の日本海の古環境変遷は,十分には解明されていない.そこで本研究では,新潟県中部新津丘陵の北部に分布する更新統を調査し,貝形虫化石群集に基づき古環境変化を検討した.調査地域の鹿熊層,皆川層の計57試料から,少なくとも83属211種の貝形虫化石が産出した.貝形虫化石群集のクラスター分析に基づくと古環境は4つに区分され,鹿熊層は主として下部浅海帯~上部漸深海帯,皆川層は上部浅海帯で堆積し,全体として上方へ浅海化したことが明らかになった.また皆川層堆積時には一時的に調査地域南部に内湾が広がったこと,低水温の水塊が調査地域北部の一部地域の下部浅海帯~上部漸深海帯に広がったことが示された.調査地域で見られた長期的な浅海化は,調査地域周辺の広域テクトニクスを反映しており,1.4 Maごろには現在の新潟沖より低水温の水塊が,一時的に下部浅海帯~上部漸深海帯に広がった.