北半球で氷床の発達したDatum A(2.75 Ma)における寒冷化が軟体動物群にどのような変化を与えているのかを検討すべく,本州中部富山県の頭川層産軟体動物群を検討した.石灰質ナンノ化石に基づくと,頭川層最下部は下部鮮新統NN15帯に対比され,Datum Aは頭川層上部に認められた.頭川層の11産地から125種の軟体動物化石が識別された.これらの化石群中には
Tridonta-
Limatula群集,
Mizuhopecten-
Chlamys群集が認められた.
Tridonta-
Limatula群集は下部浅海帯に生息し,Datum Aより下位の層準から産出する.一方,上部浅海帯の
Mizuhopecten-
Chlamys群集はDatum Aより上位から認められた.つまり,古水深の観点からすると,Datum Aより下位の層準では下部浅海帯に,上位では上部浅海帯に堆積したことが明らかとなった.また,Datum Aより上位で浅海化したにもかかわらず,Datum Aより上位の軟体動物群では寒流系種の個体数比が Datum Aより下位の層準より高いことが明らかとなった.さらに,
Megacrenalla columbianaを除くと,北海道以北に現在も生息している2種はDatum Aより上位の層準に限定される.以上から,2.75 Maの寒冷化は富山県西部の軟体動物群に影響を与えたといえる.
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