岩手県宮古市日出島に露出している下部白亜系(アプチアン~アルビアン)宮古層群の日出島層は,主にタービダイト砂岩と泥岩の互層と礫岩層や厚い砂岩層から成り,スランプ層や土石流堆積物を伴う.土石流堆積物からは,保存状態の悪いGlycymerisやEriphyla,Nipponitrigonia,厚歯二枚貝などの二枚貝化石が産出し,これら浅海生の二枚貝化石は典型的な異地性の産状を示す.
11属の有孔虫化石が日出島層中部の泥岩から初めて産出し,底生有孔虫化石群集はBathysiphonやRecurvoide,Haplophragmoidesによって占められている.底生有孔虫化石の群集構成と堆積相解析の結果から日出島層は陸棚斜面で堆積した可能性が高い.
北海道北部の下川町上名寄に分布する中部~上部中新統パンケ層から33分類群より構成される大型植物化石群(上名寄植物群)を得た.パンケ層の堆積相解析と植物化石の組成,産状を基に上名寄植物群の示す古植生を復元した.上名寄植物群の示す古植生は,カツラ属やAcer subcarpinifolium(カエデ属),トウヒ属が優占する河畔植生,トクサ属やタケ亜科単子葉類,トウヒ属,ヤナギ属が優占する後背湿地植生,カツラ属やヤナギ属,フジキ属が優占する湖岸植生,湖周辺ではあるがブナ属優占の山地斜面のブナ林が強調された植生の4タイプの植生を認めた.上名寄植物群の組成的特徴は後期中新世~鮮新世前期の三徳型植物群と言える.堆積相と化石の産状から,上名寄植物群の主要構成種は,それらの近似現生種と同じ生育環境と考えられる.したがって,生態的に現在の植生に対比可能な群集が少なくとも北海道においては,中期中新世後期~後期中新世に成立していたことを示している.
愛知県から岐阜県まで中央構造線(MTL)から約60kmの範囲に分布する白亜紀花崗岩類を対象に,石英粒子中に発達するヒールドマイクロクラック(HC)の三次元方向分布から,花崗岩体冷却時(75–67Ma)の古応力を推定した.混合ビンガム分布モデルを利用してHC極の最大集中方向にσ3軸を持つ古応力を抽出し,主応力軸の方向とMTLからの距離の相関を求めると,σ3が弱い相関,σ1およびσ2が無相関を示した.HCから推定されるσ3軸の方向は花崗岩体に発達する十数km規模の剪断帯の運動像から推定されるσ3軸の方向と調和的で,HCは形成時の広域応力場のσ3軸方向を記録している可能性がある.HC形成時の古応力場決定要因として,プレート収束に伴う圧縮と,市之川時階のMTLの正断層運動に関連する古応力の影響が考えられる.後者の影響がMTLからの距離が離れるほど弱くなるためにσ3軸の方向がMTLからの距離と弱い相関を示したと考えられる.
美濃帯西部のジュラ紀中期〜白亜紀最前期メランジュ中の九合石灰岩の産状,鏡下での特徴,年代を記載した.本石灰岩(層厚約80m)は最上部カーニアン〜下部ノーリアンの珪質ミクライトのみからなる.珪質ミクライトは放散虫と薄殻二枚貝で特徴づけられ,粗粒陸源砕屑物を欠く.これらの特徴は本石灰岩が大洋域の遠洋環境で堆積したことを示す.
九合石灰岩と美濃・丹波帯の上部三畳系珪質ミクライトとは同時代である.これらの珪質ミクライトは岩相的に類似するが,層状チャートを伴うか否かの点で相違する.さらに珪質ミクライトは大洋底相層状チャートと同時異相関係にある.前者は炭酸塩補償深度付近〜以浅,後者は以深の堆積物である.美濃・丹波帯の上部三畳系珪質ミクライトは,層状チャートが堆積した大洋域に形成された低平な玄武岩質マウンド上の炭酸塩補償深度付近ないし以浅で堆積したと考えた.