地質学雑誌
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114 巻, 4 号
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特集 21世紀の地学教育の深化に向けて
総説
  • 三次 徳二
    2008 年114 巻4 号 p. 149-156
    発行日: 2008/04/15
    公開日: 2009/02/24
    ジャーナル フリー
    小・中学校理科における地層の野外観察の実態を明らかにするために,地域ごとに野外観察の実施状況,野外観察を実施できない理由および教員の意識の調査を行った.その結果,実施率には地域ごとに違いがあり,小学校では0~71%,中学校では0~50%であった.小学校については,基盤となる地質の違いにより実施率に違いがあった.地層の野外観察が実施できない理由として,地層を観察する場所や授業時間,交通手段がないことを挙げる教員が多い.野外観察の代わりに,博物館等の施設を利用する学校は少ない.地層の野外観察はした方が良いと考える教員の割合は小学校では約90%,中学校では約80%であったが,これまで一度も実施したことがない教員は小学校では約30%,中学校では約50%にのぼる.研究者に望む支援の内容として,観察場所の紹介やゲストティーチャーとして研究者の授業への参加を挙げる教員が多い.
  • 田村 糸子
    2008 年114 巻4 号 p. 157-162
    発行日: 2008/04/15
    公開日: 2009/02/24
    ジャーナル フリー
    高等学校において地学教育の機会が減少の一途をたどっている.その要因の一つは,2003年度より施行された現行の学習指導要領である.「情報」・「総合的な学習の時間」・理科の3つの総合的な選択必修科目の導入による,理科の時間数減少の中で,受験に関係の少ない地学が最も削減の影響を受けたと予想される.「地学I」の全高等学校在学者数に対する履修率は3%で,理科の7つの選択必修科目の中で最も少ない.また,地学の教員が減少していることも大きな要因の一つである.高等学校生徒数の減少に伴い教員数も削減され,地学教員退職後の補充がほとんどされてない.
    地学が軽んじられているのは,高等学校の教育が,進路重視,入試最優先という実情にあると考えられる.今後,教育本来の目的を取り戻し,広い視点から高等学校教育を見つめ直す必要がある.
  • 矢島 道子
    2008 年114 巻4 号 p. 163-169
    発行日: 2008/04/15
    公開日: 2009/02/24
    ジャーナル フリー
    地質学は,初等中等教育にあるいは社会教育に,どんな貢献をするべきなのか,あるいは貢献できるのかを考察するために,地学教育の歴史を調べてみた.まず地学の最初の学習指導要領を概観した.そこには「地文学」の影響が大きく見られると思う.現在は「地文学」など言葉すら消滅しているので,どんなものであったかを明治期の中等教育の教科書で探ってみた.「身のまわりの地学現象から出発して,その疑問を解いていく中で,地学に親しんでいく」という「地文学」の精神は今こそ地学教育に必要ではないかと提案する.
  • 中井 睦美, 中井 均
    2008 年114 巻4 号 p. 170-179
    発行日: 2008/04/15
    公開日: 2009/02/24
    ジャーナル フリー
    初等教育教員免許取得希望大学生および中等教育理科教員免許取得希望大学生を対象として実施したアンケート結果を解析したところ,現在の高等学校の教科科目選択制度のもとで,理科4科目(物理・化学・生物・地学)をまんべんなく学習してきた学生は1割程度であり,多くの学生は化学・生物の2科目のみを履修していることが明らかとなった.また,ゆとりをめざす教育による度重なる学習指導要領の改訂によって,小学校・中学校・高等学校の理科の時間数は大きく減少し,その結果,教職課程を履修する学生が小学校・中学校・高等学校を通じて行う実験・観察の絶対的な時間数は減少している.特に,小学校理科の授業内容の約60%は地学・生物に関した内容であり,実験・観察も多く,初等教員養成系学生の理数系学力の低下は深刻な問題である.この状況を改善するためには,現在考えられている現職教員への研修制度の充実や,理科支援教員制度の創設だけでは不充分である.教育職員免許法・学習指導要領を変えて,小学校・中学校・高等学校での理科の時間数を増やし,実験・観察の機会を増加させる,免許更新の研修制度に教科研修を大幅に導入する,全ての小学校に理数系教科の専科教員を導入する,理数系教科専科教員の専門性の認定をする制度をつくる,などの方策の検討が必要である.
  • 三次 徳二, 小泉 治彦
    2008 年114 巻4 号 p. 180-186
    発行日: 2008/04/15
    公開日: 2009/02/24
    ジャーナル フリー
    近年,研究者による社会貢献として,科学の普及と教育に対する役割を果たすことが期待されている.研究者の学術団体である学会でも,普及活動がより重視されるようになった.本論では,日本地質学会の生徒発表会について,2003年からの取り組みを紹介し,その効果や普及活動としての意義について論じた.その結果,生徒発表会に参加した児童・生徒に対して高い教育効果があったこと,研究者側にも児童・生徒の教育へ関与する重要性への意識が生まれてきたことが明らかになった.また,専門分野に関する学会が児童・生徒に直接関与する取り組みとして,生徒発表会は地質学の普及及び後進の育成などに有効であること,実施に当たって参加者の拡大や内容の制限について検討課題があることも指摘した.
通常論文
論説
  • 江藤 稚佳子, 石原 与四郎, 田辺 晋, 木村 克己, 中山 俊雄
    2008 年114 巻4 号 p. 187-199
    発行日: 2008/04/15
    公開日: 2009/02/24
    ジャーナル フリー
    東京低地の地下には,最終氷期最盛期までに形成された開析谷とそれらを充填する沖積層が分布している.本研究では,東京低地北部のボーリング柱状図を用いて,沖積層のN値と岩相の3次元分布モデルの構築方法を検討し,構築したモデルの分布から,堆積システムを特徴付ける堆積物の空間的な分布を明らかにした.3次元分布モデルは,不規則に分布するボーリング柱状図の情報を2次元平面上で補間し,補間により作成された等間隔なデータセットを深度方向に積み重ねることで構築した.N値と岩相の3次元分布モデルは,蛇行河川システムの河川チャネル堆積物と氾濫原堆積物,砂嘴堆積物,海進期の砂州堆積物といった堆積体の分布を示している.
  • 椎野 勇太, 鈴木 雄太郎, 小林 文夫
    2008 年114 巻4 号 p. 200-205
    発行日: 2008/04/15
    公開日: 2009/02/24
    ジャーナル フリー
    南部北上山地宮城県気仙沼市上八瀬地域の中部ペルム系細尾層中の石灰質基質支持礫岩から,新たにSumatrina cf. annae, Pseudodoliolina pseudolepida, Chusenella sinensisおよびその他の有孔虫類を含むフズリナ化石群を発見した.この群集には,テチス域標準年代区分の後期MurgabianからMidianを示すS. cf. annaeが含まれる一方で,前・中期Murgabianの指標となる原始的なNeoschwagerinaAfghanella,および中・後期Midianを指示する進化型のLepidolinaYabeinaが共産しない.このことは,この石灰質礫岩層が前期Midian(ペルム系標準年代層序区分の上部Wordian階)に対比されることを示唆する.この解釈は先行研究によるアンモノイド化石を用いた細尾層の年代論とも整合的である.
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