地質学雑誌
Online ISSN : 1349-9963
Print ISSN : 0016-7630
ISSN-L : 0016-7630
119 巻, 4 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
特集 中国地方の中・下部新生界の研究−層序・年代・テクトニクス・古環境−
論説
  • 西田 和浩, 今岡 照喜, 君波 和雄, 長松 雄, 飯泉 滋
    2013 年119 巻4 号 p. 229-248
    発行日: 2013/04/15
    公開日: 2013/08/28
    ジャーナル フリー
    西南日本山陰帯中央部地域の複合バソリスを構成する白亜紀–古第三紀花崗岩類の全岩化学組成とSr–Nd同位体比の時代的変遷について検討し,山陰地域と地質学的関係が深いとされる韓半島の慶尚盆地のそれと比較検討した.
    因美古期貫入岩類(78–68 Ma)はK2O,Rb,Y,Zr,Fに富み,因美新期貫入岩類(68–53 Ma)と田万川期貫入岩類(43–30 Ma)はMgO,P2O5とSrに富み,高いK/Rb比,Ti/Zr比と低いK2O/Na2O比を有する.Sr,Nd同位体比は因美新期から田万川期にかけて枯渇する傾向を示し,εNd(T)は68 Ma頃から高い値へと変化する.同位体比にみられる同様の枯渇傾向は慶尚盆地でも認められる.両地域に共通にみられるこのような時代的変化は,アセノスフェアに由来する枯渇した苦鉄質マグマの注入による下部地殻の改変が白亜紀最末期頃から始まった結果と考えられる.
  • 松原 尚志
    2013 年119 巻4 号 p. 249-266
    発行日: 2013/04/15
    公開日: 2013/08/28
    ジャーナル フリー
    岡山県井原地域に分布する “中新統” 浪形層の貝類化石群について分類学的な再検討を行い,本層の地質年代と古地理学的意義について議論した.浪形層は,主部と千手院貝殻砂岩部層(新称),大西礫岩部層(新称)の2部層に区分される.本層から8種の腹足綱,13種の二枚貝綱および1種の掘足綱が得られた.Molopophorus watanabei Otuka, AcilaTruncacilanagaoi Oyama and Mizuno, Chlamys Nomurachlamys?)namigataensis (Ozaki)およびIsognomonHippochaetahataii Noda and Furuichi の産出から,本層の貝類化石年代は後期始新世後期~前期漸新世に改訂される.最新の板鰓類化石のデータおよび予察的なストロンチウム同位体比を考慮すると,本層の年代は後期始新世後期に限られる.本研究および最近の研究から,第一瀬戸内海は異なる時代に存在した2つの海域,すなわち,南で太平洋に面した古第三紀の外海と北西部で日本海と接続していた内湾の中新世の海域,から構成されていたことが示される.したがって日本の新生代地史における「第一瀬戸内海」の概念については再評価される必要がある.FelaniellaFelaniellanamigataensis n. sp. (和名:ナミガタウソシジミ)を含むいくつかの種について,分類学的な記載・議論を行った.
  • 沢田 順弘, 三代 喜弘, 今岡 照喜, 吉田 聖典, 稲田 理沙, 久井 和徳, 近藤 仁, 兵頭 政幸
    2013 年119 巻4 号 p. 267-284
    発行日: 2013/04/15
    公開日: 2013/08/28
    ジャーナル フリー
    電子付録
    島根県東部における中新統の火山岩類23試料と深成岩類2試料について全岩23試料および斜長石3試料,角閃石4試料,黒雲母2試料のK–Ar年代を報告した.これまでに報告されている放射年代や生層序も含めて検討し,次のような結論を得た.(1)出雲湾入部で,これまで川合層とされていた火山岩類のうち20–19 Ma(誤差を含めると22–18 Ma)の年代を示す火山岩類を「佐田層」として区別した.(2)波多層は下部中新統ではなく最上部下部中新統~中部中新統で,川合層との間には時間的ギャップはない.波多層・川合層のK–Ar年代は17–15 Maである.古地磁気方位を測定した結果,(1)「佐田層」は約50°東偏している.(2)ほとんどの波多層の火山岩および同時期の深成岩はほぼ真北か真南の偏角をもつ.(3)16.5 Ma前後の年代を示す波多層と大東層の火山岩類は19–26°東偏している.4)これらのことから中国地方の時計回り回転運動は18 Ma以降に起こり,遅くとも16 Maには終了していたと推定される.
  • 酒井 哲弥, 古川 絢子, 河野 重範
    2013 年119 巻4 号 p. 285-299
    発行日: 2013/04/15
    公開日: 2013/08/28
    ジャーナル フリー
    古浦層は島根県東部に分布する地層で,これまでの年代に関する研究から,下部中新統とされる.この地層の下部は河川や氾濫原,湿地の堆積物,中部は湖の環境の堆積物である.中部では上位ほど堆積場は浅くなることがわかった.上部は浅い汽水環境の堆積物である.上部ではハンモック状斜交層理の存在から,水域が大きく広がったと解釈される.スランプ構造が見られ,かつ粗粒堆積物が卓越する上部はファンデルタの堆積物と判断される.成相寺層は海成の斜面堆積物で,日本海が大きく拡大した時の堆積物である.
    古浦層中部と上部の基底では,およそ10 mまでの厚さの礫層・砂層がその下位の陸上の堆積物を覆い,それは上位へ向けて湖の堆積物へと漸移する.この堆積物が広い範囲に見られることから,この堆積物は湖の水位が上昇する時のイベント堆積物であると解釈される.堆積物の特徴からそれぞれのイベント堆積物は,湖の決壊洪水に伴う堆積物と推定される.こうした決壊洪水イベントはリフト盆地形成の初期に発生しうる.この古浦堆積盆が海とつながったのはおそらく中部と上部の境界が形成されたときであろう.
  • 林 広樹, 橋野 慎平, 野村 律夫, 田中 裕一郎
    2013 年119 巻4 号 p. 300-311
    発行日: 2013/04/15
    公開日: 2013/08/28
    ジャーナル フリー
    久利層は山陰地方中部の中新統標準層序を構成する地層のひとつである.久利層では, 先行研究により底生有孔虫の広域対比面とされる「Foram. Sharp Line(FSL)」が認められ ているが,模式地の一部を構成する忍原川ルートにおいてはこれを否定する見解もある. このFSLは石灰質有孔虫がほとんど産出しなくなる層準であるとされるが,本研究でボロ ン法による再検討を試みた結果,ほぼ連続的に浮遊性有孔虫の産出を認めた.浮遊性有孔虫および石灰質ナンノ化石の結果に基づくと,本ルートの久利層は,浮遊性有孔虫化石帯 N.8帯,および石灰質ナンノ化石帯CN3帯に対比される.この年代は,広域対比面FSLとされている年代と比べると,50万年以上古い.この微化石年代は,備北層群上部のうちFSLよりも下位の層準に相当する.備北層群上部では本ルートと同様に外洋性の微化石が 産出することから,この時期に中国地方の広い範囲にわたって外洋水の影響が強く及んでいたことが示唆される.
  • 松浦 康隆, 入月 俊明, 林 広樹
    2013 年119 巻4 号 p. 312-320
    発行日: 2013/04/15
    公開日: 2013/08/28
    ジャーナル フリー
    島根県松江市宍道町宍道高校付近に分布する中期中新世布志名層下部よりタコブネ類化石Mizuhobaris izumoensis(Yokoyama)が連続的に比較的多く産出した.これらの産出層準の堆積環境を明らかにするために,微化石を検討した結果,20種の貝形虫化石と12種の浮遊性有孔虫化石が産出した.これらの保存良好な微化石群集は,調査地点の環境が冷温~中間温帯のやや閉鎖的な環境であったことを示す.以上のことから,M. izumoensisの産出は,その産出地点が当時必ずしも暖流の影響を強く受けていた証拠にはならないことを示唆する.
  • 後藤 隆嗣, 入月 俊明, 林 広樹, 田中 裕一郎, 松山 和馬, 岩谷 北斗
    2013 年119 巻4 号 p. 321-333
    発行日: 2013/04/15
    公開日: 2013/08/28
    ジャーナル フリー
    中国山地の山間盆地の岡山県新見市に分布する中新統を本研究で新たに田治部層として定義し,岩相の記載と,浮遊性微化石に基づく生層序の認定を行った.田治部層上部から,初めてBlow(1969)の浮遊性有孔虫化石層序N8帯とOkada and Bukry(1980)の石灰質ナンノ化石層序CN3帯に相当するいくつかの指標種が認められた.それゆえ,この地層は17.0 Maから14.9 Maの間に堆積し,ほとんどの層準は広島県に分布する備北層群是松層に相当する.さらに,岩相と軟体動物化石,浮遊性有孔虫化石そして貝形虫化石に基づき時間空間的な堆積環境の変化を復元した.その結果,田治部層の堆積環境は,温暖な内湾あるいは沿海砂底環境から温暖な陸棚環境へと変化したことが示された.
feedback
Top