近年,伊豆弧や東北本州弧の詳細な地震波速度構造が示され,岩石の弾性波速度と地震波速度の比較によって,島弧下部地殻の構成岩石の推定が行われてきた.特にP波速度(Vp)とS波速度(Vs)の同時測定により,Vp/Vsトモグラフィーとの対比が可能となり,構成岩石をより詳しく推定することが可能となった.例えば,東北本州弧の下部地殻は,輝石角閃石はんれい岩(日本海東縁),角閃石はんれい岩(島弧主要部),含石英岩石(北上帯)に区分される.最上部マントルに関しても,地震波速度はかんらん岩の弾性波速度と一致するとは限らない.北上帯の最上部マントルはオルソパイロキシナイトから構成されると推定され,白亜紀のスラブ融解由来のメルトとマントルかんらん岩が反応した痕跡であると考えられる.島弧の地殻深部と最上部マントルの構成岩石は以前考えられていたよりも不均質かつ異質であることが明らかにされつつある.
岩石の変形特性は水の存在に強い影響を受けるため,地球内部のレオロジー構造は水の有無によって大きく異なる.本総説では,最新の岩石変形実験の結果に基づき,大陸プレートと海洋プレートのレオロジー構造を作成し,両地域でみられるテクトニクスと水の関連性を議論した.その結果,1)大陸地殻の下部には強度の弱面が存在するため変形が集中すること,2)大陸下のリソスフェアが対流に巻きこまれず安定的に存在するには水に乏しい必要があること,3)大陸縁辺部では,前弧側は沈み込むプレートからの供給により水に富んでいるのに対し,背弧側では島弧マグマの形成により水に乏しいこと,4)海洋リソスフェアは,中央海嶺での水の分別作用により,全体的に水に乏しいこと,5)海溝付近の海洋プレートの一部は,アウターライズ断層沿いの水の侵入により弱化していること,などがレオロジー構造から推察された.
ファインセラミックス合成とその物性を参考にした,岩石を模擬した人工ファイン岩石を用いた研究を総括する.まず,天然の岩石とファインセラミックスの粒界において,共通な構造と偏析が存在していることが示される.また,その粒界の移動した結果(粒成長)生じる,相(鉱物)間の粒径の関係,ゼナー則が成り立っていることが分かった.初期条件(化学組成等)や形成条件(時間,圧力等)が極めて異なる両者において,その微細構造は相似の関係が成り立っている.人工ファイン岩石の超塑性の発現とその変形微細構造が,マイロナイトやマントル岩を含む変成岩の構造と比較され,粒界すべりに伴う,同相粒子集合化構造,変形誘起粒成長および結晶軸選択配向が議論される.ファインセラミックスと岩石のアナロジーの本質は,「共通な」粒界による「共通な」粒界現象にある.決定的に知るのが困難な岩石形成プロセスの理解において,今後も人工ファイン岩石を用いた実験的研究の重要性は増すだろう.
応力逆解析法は,現在または地質学的過去の,テクトニクスの原動力を解明する方法である.この方法は理学的研究だけでなく,防災や原発の安全評価にも使われるようになった.データは,小断層,地震の発震機構解,岩脈や鉱物脈などの引張割れ目,方解石双晶から得られる.応力の時空間変化の把握には,異なる応力に由来するデータが混在していても,応力を分離検出する必要がある.ここ四半世紀で,まず小断層解析でそれが可能となり,地震の発震機構解の解析にも応用されるようになった.次いで岩脈や鉱物脈で可能になり,さらに3本の主応力軸方位・応力比のみならず流体圧も制約できるようになった.方解石双晶でも分離検出が最近可能になり,主応力軸方位と応力比に加え,差応力の推定も可能になりつつある.
ヒマラヤの4つの地質帯を画するプレート境界断層の活動が,北から南へと移動するのに伴い山脈は上昇・隆起してきた.大陸衝突以前に深度100kmを超えるマントルまで沈み込んだテチス海の海洋プレートがslab break-offしたことにより,約50~35Maにチベット前縁山地が急激に上昇した.次にインド亜大陸の北縁の上部原生界の地層が沈み込み,地下約40kmに達し中圧型の変成作用を被ったが,デラミナーションを起こし,22~16 Maに急激に上昇した.約15Maに地表に露出した変成帯は上昇を続け,南方のレッサーヒマラヤを構造的に覆い変成岩ナップを形成したが,その運動は11~10Maに停止した.それ以降ナップと下盤の弱変成したレッサーヒマラヤ堆積物は,その先端から北方に向け約10km/Myrの速度で冷却した.また運動停止後,その前縁に生じたMBTに沿ってインドプレートの沈み込みが始まり,3~2.5Maには南方のMFTに移動し,それによってヒマラヤ前縁山地とシワリク丘陵が誕生した.
九州東部に分布する大野火山岩類は瀬戸内火山岩類の分布の西縁であるとされる.従来報告されているK-Ar年代は5Ma程度の幅を持って分散している.今回大野火山岩類の珪長質火山岩3試料からジルコンを分離し,レーザーアブレーションICP-MSでU-Pb年代を求めた.その結果,238U-206Pb年代の荷重平均年代として最下位の白岩山火砕流堆積物から14.71±0.20Ma(2σ),小倉木凝灰岩から15.14±0.43Ma,最上位の三宅山火砕流堆積物から14.58±0.21Maを得た.今回の結果より岩脈としてのみ産する高Mg安山岩を除く大野火山岩類は従来考えられていたより短期間(ca. 1m.y.)に活動したことが明らかになった.
We describe the characteristics of a Rhinocerotidae femur and tibia found within sea-floor sediments in the Bisan-Seto region, western Japan, a region for which the mammal fauna has been assigned the Middle Pleistocene age. Based on morphological and metrical comparisons between the studied specimens and those from Pleistocene rhinoceroses from Eurasia (Stephanorhinus, Coelodonta, and Rhinoceros), the studied specimens can be referred to as Stephanorhinus sp., although their more specific identification is not possible given a lack of further skeletal elements. Nevertheless, our study confirms the presence of Stephanorhinus during the Middle Pleistocene in Japan and supports similar finds elsewhere in western Japan (e.g., Isa in Yamaguchi Prefecture).