島根半島の中新統,古浦層と成相寺層からは,それぞれ陸生・海生化石が産出する.しかし,成相寺層下部のみ,その産出は限られ,生層序学的年代と堆積環境が不明であった.この層準について,微化石による生層序学的分析を行ったところ,中上部の層準から微化石の産出を確認することができたが,下部は無化石であった.底生有孔虫群集は,古水深が漸深海帯の膠着質種で占有され,低酸素の堆積環境を示す石灰質種より構成されていた.底生有孔虫群集について,共通種が産出する日本海ODP Leg 127,Site 797の膠着質種と石灰質種の出現層準を参照すると,成相寺層下部の中上部と下部の境界に対比できることが明らかになった.また,古浦層から続いた漸深海帯に達する古水深の汽水的環境が海水の侵入によって置換され,外洋性の海洋環境へ変化した年代を17.75Ma頃とし,このとき以降に日本海への海流の流入が一般化したと考えた.
南部北上帯長安寺地域に分布する上部デボン系(フラーヌ階~ファメヌ階)について,新たに長安寺層として再定義する.長安寺層の中部からはDesquamatia(Seratrypa),上部からはCyrtospiriferと,いずれも後期デボン紀の腕足類が産出する.本論文では,わが国からは未報告であるセルアトリパの1種Desquamatia(Seratrypa)sp.を記載する.
中~後期ペルム紀に形成されたと考えられる超丹波帯上月層は,その一部にデボン紀のチャート層を含むことが判明した.このチャート層は玄武岩類とともに産し,磁鉄鉱の濃集層を頻繁に挟在する.磁鉄鉱濃集層を含むチャートからは,放散虫化石Holoeciscus foremanaeなどが産出し,その年代は後期デボン紀Fammenian期である.これは中国地方から産する化石として最も古い年代であるとともに,日本列島の付加体中に含まれる異地性岩体としては,東北地方の根田茂帯のチャートとならんで最も古いことを示す.
新潟県十日町市の室野泥火山において,2014年11月22日の長野県神城断層地震の発生直後,メタン,二酸化炭素,エタン,プロパンの溶存濃度が地震発生前に比べて増加していたのが確認された.メタンとエタンの炭素同位体比の高い値とC1/(C2+C3)比から,メタンは地震の前後とも有機物の熱分解起源であり,地下深部に由来すると判断される.一方,地震直後にエタンの炭素同位体比が低下することから,地震直後には熟成度のより低い石油根源岩から生成したエタンの供給量が増加した可能性がある.このように,地震による体積歪み変化は地下深部からのガスの供給量の増加やガスの供給源の変化をもたらした.この地震における室野泥火山の理論歪み値は687×10-8ストレインと求められ,同様の規模の体積歪変化を引き起こす地震に頻繁に遭遇していることから,室野泥火山は地震と泥火山の関係を研究する上で重要なフィールドといえる.
岐阜県南東部に分布する中新統瑞浪層群および岩村層群に挟在する凝灰岩3試料のジルコンU-Pb年代測定を行った結果,以下のような年代値が得られた:瑞浪層群の本郷層細久手火山礫凝灰岩は18.8±0.3Ma,明世層Ak-12凝灰岩は17.8±0.4Ma,岩村層群遠山層牧部層中部のTy-12凝灰岩は18.4±0.4Ma.この結果は,再評価したジルコンフィッション・トラック年代と誤差範囲内で一致し,既報の微化石および古地磁気層序と整合的となった.この結果から,瑞浪層群と岩村層群の堆積年代を次のように推定した:瑞浪層群の本郷層は19~18Ma,明世層は約18Ma,岩村層群遠山層牧部層中部は約18Ma.