石狩低地帯の西方には支笏-洞爺火山地域が位置し,後期更新世から大規模な爆発的噴火が続いている.これらの噴出物は石狩低地帯に多数のテフラ層として堆積しており,古くからテフラ層序学・年代学に関する多くの研究が行われてきた.それらの結果,支笏-洞爺火山地域では約13万年前頃から洞爺火山で活動が開始し,その後にクッタラ火山,そして支笏火山と活動が波及し,カルデラ形成噴火が続発したこと,さらにそれらのカルデラ火山の活動に並行して,背弧側では羊蹄山や尻別岳の活動があったことが明らかになっている.今回の巡検では代表的な露頭を巡り,北海道の更新世および完新世の主要な指標テフラとテフラ層序を紹介するだけではなく,最近の研究成果による詳細な噴火履歴および代表的噴火の噴火様式についても議論する.
神居古潭変成岩は古くから典型的な低温高圧型の変成岩として良く知られ,数多くの研究が行われて来た.また,北海道白亜系蝦夷層群は,日本列島の中では極めて大規模な前弧海盆堆積物であり,空知層群(空知オフィオライト)を挟んで神居古潭変成岩の構造的上位に分布している.この神居古潭変成岩-空知オフィオライト-蝦夷前弧海盆堆積物は太平洋を挟んで, 北米西岸白亜紀のフランシスカン・コンプレックス-コーストレンジ・オフィオライト-グレートバレー・シーケンスにも対比出来る.本巡検は,かつて北海道の白亜紀の海溝深部から浅海域に位置していたと推察される 地質体を,1泊2日の短期間で巡ることが出来るよう企画された.神居古潭変成岩についての研究は2000年以降,暫く途絶えていたが,新たな視点での研究が再開された.特に,本巡検では2つのテーマに焦点を当てる. 一つは神居古潭変成岩を構成するメンバーの中で最も初期に形成されたと考えられる蛇紋岩メランジュ中の角閃岩・青色片岩テクトニックブロック で,本岩石を構成する変成鉱物(ざくろ石, 角閃石, 緑簾石など)の組成累帯構造に基づき,テクトニックブロックが顕著な冷却の履歴を被ったことが推察されることである.今日,この冷却の履歴は世界の沈み込み帯起源の青色片岩やエクロジャイトから報告されており,海洋プレート沈み込み開始初期から定常状態の沈み込みに至る冷却を示すと考えられるようになった.もう一つは,神居古潭変成岩上昇時のおそらく前弧域における著しい高温流体活動である.最近,いくつかの試料について炭質物ラマン温度計が適用されたほか,緑色黒雲母の産状が明らかとなるなど,変成岩上昇時に青色片岩を緑色片岩に置き換えてしまうほどの高温流体移動による接触変成作用が生じていたことが明らかになりつつある.この事実は,今後,前弧域テクトニクスを解明していく上で大きな示唆を与える.
能取湖北部に分布する呼人層から抽出した放散虫化石と珪藻化石に基づいて,湖口の東西(西ルートと東ルート)の対比を行った.両化石データを総合すると,西ルートと東ルートの呼人層の年代は,それぞれ11.4~6.5Maと7.0~3.5Maと見積もられた.これは,西ルートの珪藻質堆積物の上部の大部分は層序的に東ルートの硬質泥岩相(能取層)に相当すること,また,西ルートの珪藻質堆積物の下部は能取岬の網走層の火山岩類に相当することを示している.このうち呼人層と能取層の同時異相関係は,シリカの相転移を伴う続成過程の地域差を反映していると考えられる.また,珪藻データは,呼人層中部の砂岩層の層準に不整合が存在することを示している.不整合層準よりも上位の地層から放散虫および珪藻の誘導化石と硬質泥岩礫が産出することを考慮すると,10Ma頃を境に後背地が侵食域へ転じたことが推定される.
岐阜県南部に分布する可児層群の最下部を占める蜂屋層は第一瀬戸内累層群東部で最も古い地層であり,主に非海成の火砕岩類からなる.蜂屋層最下部の栃洞溶結凝灰岩部層の溶結凝灰岩から分離したジルコンのレーザーアブレーションICP-MSによるU-Pb年代測定を行ったところ,238U-206Pb年代の加重平均として22.38±0.17Ma(2σ)が得られた.この年代は蜂屋層の堆積開始時期を拘束する.分析を行った溶結凝灰岩試料の蛍光X線分析による全岩主成分・微量元素組成を併せて報告する.
We conducted U-Pb dating of detrital zircons from three sandstones of the central section of the Akaishi Group, which is part of the Shimanto Belt in the Akaishi Mountains. The youngest single-grain ages are 113.6±2.3 Ma (1σ), 114.1±1.6 Ma (1σ), and 100.8±1.2 Ma (1σ) from west to east. The weighted mean ages of the youngest clusters are 115.4±1.4 Ma (1σ), 125.8±1.6 Ma (1σ), and 107.5±1.5 Ma (1σ). These results indicate that the central part of the Akaishi Group was deposited after the Aptian or Albian (Early Cretaceous). The zircon ages are slightly older than the radiolarian ages (Albian to Cenomanian), but the two sets of ages are consistent.
訂 正
124巻6号(2017年6月号)掲載の佐野論説(p.449-467)において,図キャプションを取り違える誤りがありました.著者校正後の修正作業中のミスによるものです.正しくは下記の通りです.ここに訂正し,深くお詫び申し上げます.
p.462,Fig. 12 / p.464,Fig. 13:キャプション
Fig. 12. Composite columnar section of the chert-dominated succession (Hashikadani Formation) showing the Cisuralian to Middle Triassic radiolarian assemblage zones.
Fig. 13. Fault zone associated with the fault gouge formed by a northwest-southeast trending strike-slip fault in the northwestern part of the study area. The rocks comprise strongly contorted basaltic rocks and chert of the chert-dominated succession (Hashikadani Formation) and lower Guadalupian fusulinoideanbearing limestone (sample NF 1463) of the limestone-dominated succession (Funabuseyama Formation). Loc. NF 1463 is shown in Fig. 5.