秋田・山形北部地域の海成新第三系に発達する炭酸塩コンクリーションおよび共産する貝化石殻試料のSr同位体比を検討するとともに,コンクリーションに含まれる珪藻化石年代を決定した.珪藻化石の保存状態が良好な5試料について,後期中新世に相当する珪藻化石帯を認定した.コンクリーションのSr同位体比は,生成した当時の海水の同位体比とこの地域の火成岩類が示す低い同位体比との中間的な,87Sr/86Sr=0.709013-0.706749の広い範囲の値をとる.これは,マグマ起源のSrが間隙水を汚染し,そこからコンクリーションが生成したためと解釈できる.コンクリーションと貝化石殻両者の鉱物相とSr同位体比を検討した結果,コンクリーションの多くは,続成初期の間隙水の同位体的特徴を保持していると推定された.
北見紋別地域に分布する立牛層は珪質泥岩主体の地層からなるが,これまでは日高累層群に含められていた.立牛層に挟在されるタービダイト砂岩から砕屑性ジルコン粒子を分離し,LA-ICP-MS法でU-Pb年代を測定した結果,26.9±0.2Maを示す年代値が得られた.一方,立牛層の珪質泥岩から後期漸新世を示準する渦鞭毛藻化石(Williamsidinium sp. C and Spinidinium? sp. A zones)が産出した.立牛層は,後期漸新世に発生した右横ずれ構造運動によって,基盤の日高累層群中に南北に生じた地溝帯を埋めるようにして堆積し,さらに千島海盆(古オホーツク海)からもたらされた底層深層水の湧昇によって、珪質堆積物になったと考えられる。
東北日本の東縁に沿って分布する母体-松ヶ平帯中の古生代の年代を示す山上変成岩類は,高変成度の山上変成岩Ⅰと低変成度の山上変成岩Ⅱに区分されている.このうち,山上変成岩Ⅰは主に泥質片岩と角閃岩からなる.泥質片岩中のルチルにパラゴナイトが含まれることや変成鉱物の組成領域の検討から,山上変成岩Ⅰは蓮華帯の高変成度岩類と同等の低温高圧型変成作用を受けていると推定される.また,泥質片岩と角閃岩中のフェンジャイトK-Ar年代は322-287Maを示し,蓮華帯変成岩類と一致する.変成作用の特徴とフェンジャイトK-Ar年代から見て,山上変成岩類は西南日本の蓮華帯の高変成度岩類に直接対比できる可能性が高いと考えられる.
山口県北西部の日本海に沿って,東西に油谷半島の付け根付近から半島先端を経て角島に至るまで,古第三紀後期漸新世から新第三紀中期中新世の堆積岩が分布している.この基盤岩は後期中新世に噴出した玄武岩の溶岩流によって被覆されている.この溶岩流によって形成された溶岩台地は,その後の地すべりや海水面の作用で侵食や運搬を受け,半島の尾根部にキャップロックとして残されている.この漸新-中新統堆積岩類は,十分固結していない段階から,玄武岩の荷重と地下水の供給を受け,堆積岩内あるいは境界付近をすべり面とする大規模地すべりが発生した.この大規模地すべり域では初生的な地すべりの後に少なくとも2回の地すべりの痕跡が残れている.本案内書では初生的な地すべりを1次地すべり,1次地すべりにより形成された地すべり土塊が,再度すべったものを2次地すべり,さらに表層部のみがすべったものを3次地すべりとする.本地域は,2次,3次地すべりを対象として「地すべり防止区域」に指定され,地すべり工事が実施されてきた.今回の巡検では代表的な地すべり地を巡り,山口県北西部日本海岸の地質との関連を紹介するだけでなく,最近の研究成果による詳細な地すべり滑動のメカニズム,解析手法,対策工事についても議論する.