地質学雑誌
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112 巻, 11 号
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特集 日高衝突帯研究の最近の進歩 (1) -その深部過程と上昇過程
  • 小山内 康人, 大和田 正明, 志村 俊昭, 中野 伸彦, 川浪 聖志, 小松 正幸
    2006 年 112 巻 11 号 p. 623-638
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/07
    ジャーナル フリー
    日高変成帯主帯下部地殻は,現在地表に露出しているグラニュライト相変成岩分布域(IV帯)および主要部分溶融帯からなる.後者は現在地表に露出しないが,レスタイトと見なされるザクロ石-斜方輝石グラニュライト(トーナル岩の包有物)などから,その存在が推定される.IV帯の泥質グラニュライトでは,黒雲母の脱水溶融反応が起こり,自形の斜方輝石やAn成分に富む斜長石および菫青石を含む様々なリューコゾームが形成された.互層する苦鉄質グラニュライトでもホルンブレンドの脱水溶融が起こり,生成したメルトはブーダンネックなどへ濃集し,含斜方輝石リューコゾームを形成したと見なされる.IV帯における部分溶融度は比較的小さいが,生成したメルトは地殻下部岩石の塑性流動化とデュープレックス構造の形成に関与した.主要部分溶融帯で生成したメルトは移動・濃集してトーナル岩マグマとして挙動し,シート状岩体を形成した.
  • 川浪 聖志, 中野 伸彦, 小山内 康人, 加々美 寛雄, 大和田 正明
    2006 年 112 巻 11 号 p. 639-653
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/07
    ジャーナル フリー
    北海道の中軸部に分布する日高帯の南部地域には,変成岩類と深成岩類が広く分布し,日高変成帯主帯と定義されている.主帯には,角閃岩相~グラニュライト相の変成作用を被った角閃岩類(主帯角閃岩類)が分布する.一方,日高帯北部地域は,主に堆積岩類から構成され,しばしば緑色岩類(北部日高帯緑色岩類)を含む.本論では,同位体組成を含む全岩化学組成を基に,主帯角閃岩類の原岩を推定し,北部日高帯緑色岩類と比較した.主帯角閃岩類は,主成分・微量・希土類元素組成およびNd同位体比初生値から,北部日高帯緑色岩類は主成分元素および微量元素組成からN-MORB起源であると考えられる.両者のSr同位体初生値は,同位体的相互作用の影響を受け一般的なMORB組成よりも高いが,両者の間で調和的な値を示す.したがって,主帯角閃岩類と北部日高帯緑色岩類の原岩は,N-MORB起源の同一の火成作用によって形成された可能性が高い.
  • 志村 俊昭, 小山内 康人, 豊島 剛志, 大和田 正明, 小松 正幸
    2006 年 112 巻 11 号 p. 654-665
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/07
    ジャーナル フリー
    日高変成帯は,第三紀の火成弧の地殻断面であると見なされている.シンテクトニックなトーナル岩マグマは地殻規模のデュープレックス構造のフロアースラスト,ランプ,ルーフスラストに沿って迸入している.このトーナル岩マグマは露出していない最下部地殻のアナテクシスによって生じた.
    日高変成帯北部の新冠川地域には,含輝石トーナル岩類(最下部トーナル岩体)が分布している.このトーナル岩体には,斜方輝石の仮像や,アプライト脈などの様々な冷却過程を示す証拠を見ることが出来る.これらの組織から,このトーナル岩体の冷却過程が明らかになった.シンテクトニックなトーナル岩体と,変成岩層のP-T-t経路は地殻の上昇テクトニクスを示している.一方,デラミネーションを起こした最下部地殻のP-T-t経路も推定することが可能である.
  • 大和田 正明, 山崎 徹, 小山内 康人, 吉元 一峰, 濱本 拓志, 加々美 寛雄
    2006 年 112 巻 11 号 p. 666-683
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/07
    ジャーナル フリー
    日高変成帯の中部に位置する野塚岳地域には,S・I-タイプトーナル岩とそれらに伴って産するはんれい岩~閃緑岩,ニオベツ岩体,野塚岳花崗岩および変成岩類が産する.S・I-タイプトーナル岩と変成岩類は日高変成帯の上昇に伴うマイロナイト化を被っている.一方,ニオベツ岩体と野塚岳花崗岩はマイロナイト化の後に貫入した.ニオベツ岩体はS-タイプトーナル岩起源の捕獲岩を含む.ニオベツ岩体に取り込まれたトーナル岩捕獲岩は部分溶融を起こした.Sr・Nd同位体比組成を含めた火成岩類の化学組成は,野塚岳花崗岩がトーナル岩捕獲岩の部分溶融によって生じたメルトとニオベツ岩体マグマの混合によって形成されたことを示す.日高変成帯からこれまで報告されている火成岩や変成岩の年代測定結果を考慮すると,ニオベツ岩体と野塚岳花崗岩は中新世における千島弧と東北日本弧の衝突に関連した火成活動の産物であると推察される.
  • 川上 源太郎, 大平 寛人, 在田 一則, 板谷 徹丸, 川村 信人
    2006 年 112 巻 11 号 p. 684-698
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/07
    ジャーナル フリー
    既存の年代資料と,新たに得た日高帯の花こう岩体およびそれに由来する砕屑物の熱年代値から,日高山脈の上昇-削剥過程を考察した.
    地殻浅部構成岩である日高帯の花こう岩と日高変成帯東縁の低度変成岩は始新世の冷却年代を示し,暁新世の変成作用ピーク後の広域的な温度降下を記録する.一方,高度変成岩が示す中新世の冷却年代は,衝突テクトニクスによるものである.前者に由来する花こう岩礫は中部中新統に含まれ,後者から供給されたトーナル岩や変成岩礫は上部中新統に出現する.このことは日高地殻の削剥が中新世を通じて深部へ進んだことを示す.一方,日高山脈南東域には前期漸新世頃の冷却年代が知られ,漸新世の地殻規模の水平すべり運動との関連を示唆する.
    一部の花こう岩礫が示す中新世のFT年代と堆積年代から,中期中新世初頭において最大100℃/Myrの冷却速度が概算される.これは日高変成岩類から見積もられる値20-30℃/Myrと比べかなり大きい.
  • 植田 勇人
    2006 年 112 巻 11 号 p. 699-717
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/03/07
    ジャーナル フリー
    東北日本弧と千島弧の間に形成された日高衝突帯の前縁部では,ジュラ紀末~白亜紀の前弧海盆堆積物および付加体が広い面積を占める.これらは,初生的には広域的かつ低角なパイルナップ構造をとっていたと考えられる.ナップユニットは,一部に横ずれデュープレックスが形成されたほかは,主として褶曲による構造再配列を被っている.2つの主要な背斜構造のそれぞれで,軸を挟んで非対称な岩相分布を示すことから,これら背斜構造の地下に剥ぎ取り衝上断層のランプが推定される.イドンナップ帯周辺では未成熟な前弧地殻がめくれ上がっていると考えられ,落差10 km近い大規模なランプによって持ち上げられたと推察される.日高主衝上断層は,このランプから派生したのであろう.一方神居古潭帯周辺では,恐らく落差4~5 kmのランプにより,低温高圧変成を受けた付加体と被覆層がアンチフォームを形成したと考えられる.
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