千葉セクションを中期更新世の基底とチバニアン階を定義する国際境界模式層断面とポイント(Global Boundary Stratotype Sections and Points:GSSPs)として提案した.千葉セクションは,千葉複合セクションの中心セクションであり,房総半島中央部に分布する下部-中部更新統境界を含む連続的かつ堆積速度の非常に大きな海成泥質堆積物である.同セクションからは,多種の海生化石と花粉化石,Matuyama-Brunhes(M-B)境界,酸素同位体比変動,および多数のテフラが報告されている.とくにM-B境界直下のByk-Eテフラからは772.7±7.2kaのU-Pb年代値が報告されており,これらを基に詳細な年代層序が確立している.千葉セクションはアクセスも良く,露頭の保存も確約されている.以上のことから,千葉セクションは下部-中部更新統GSSPにもっとも適した候補地である.
房総半島に分布する上総層群は,層厚3000mに達する下部~中部更新統の前弧海盆堆積物である.古くから多くの層序学的研究が行われ,日本の海成更新統の模式層序である.また500層を超える多くのテフラが挟在され,上部の笠森層から下部の黄和田層まで詳細なテフラ層序が確立されている.多数の広域テフラ対比も報告され,日本列島の更新世テフラ編年上,重要である.
本論では,現在までに明らかにされた上総層群の広域テフラをまとめ,約0.4Ma~2Ma間の20層を超える広域テフラを示した.そして黄和田層中のテフラ層序に関して,ダブルカウントや上下逆転などの問題点を指摘した.また報告の少なかった上総層群下部の大原層,浪花層,勝浦層において,新たに多数の細粒ガラス質テフラを記載し広域対比を検討した.その結果,Bnd2-O1(2.1Ma),Fup-KW2(2.2Ma)の2層の広域テフラを新たに見出した.これらのテフラ対比から,上総層群基底の堆積年代が2.3Maを遡る可能性を示した.
この論文では,最近10万年間の広域テフラと火山層序の年代研究の進展をレビューした.14C年代測定は,水月湖のデータセットを採用したIntCal13の登場によって50cal ka BPまで暦年較正できるようになった.ただし,年縞編年では計数誤差を伴うため,年単位の議論をするには課題が残る.14Cスパイクの発見によってB-Tmの噴火がAD 946であることが確定した.14Cスパイクや酸素同位体年輪年代を用いて,樹木年輪の適用範囲を遡ることもひとつの方法である.また,5万年前を超えるものについては,K-Ar年代,FT年代,ルミネッセンス年代,δ18O層序,古地磁気層序などが主に適用され,K-Ar年代の感度法や40Ar/39Ar年代,SAR法RTL,IRTL年代なども報告されている.測定年代を検証するには,良好な層序を保存している露頭やコア試料が極めて重要である.
東京低地と中川低地における沖積層のシーケンス層序と古地理を詳細に解明した結果,沖積層の形成機構に関する次の3つの知見を得ることができた.(1)蛇行河川堆積物を構成するチャネル砂層は,海水準上昇速度が大きい時期にはアナストモーズ状の形態を有し垂直方向に累重するのに対して,海水準上昇速度が小さい時期にはシート状の形態を有し水平付加する.(2)一部の海進期のエスチュアリーシステムは,河川卓越型エスチュアリーとして分類されるべきであり,その湾頭部の潮下帯にはローブ状で上方細粒化する砂体が存在する.(3)潮汐の卓越した溺れ谷などの内湾では,湾内に流入する河川が存在しなくても,湾外から運搬された泥質砕屑物が側方付加することによって埋積され,上方細粒化相が形成される.特に(1)は海水準の変動率が浅海成層と同様に沖積平野の河成層の地層形成に重要な支配要因であることを示す.
濃尾平野には木曽三川を中心に形成された沖積低地が広がる.地形は空中写真判読により扇状地,自然堤防-後背低地帯,三角州に分類され,沖積層層序はボーリング柱状図解析により第一礫層,濃尾層,南陽層に区分されてきた.濃尾平野では,この二十年間にコア堆積物の解析・分析によって貴重なデータが蓄積され,過去一万年間の海水準変動に対する沖積層の形成過程を千年スケールで理解できるようになった.しかし,最終氷期最盛期からヤンガードリアスにかけての情報は限定されている.沖積層の三次元構造の復元や堆積土砂量の推定も,GISを用いた既存データの解析によりおこなわれている.低地における土砂の貯留は千年前以降に増加しており,流域での人間活動による土砂生産量増加を反映していると考えられる.流域における近年の人間活動は水・堆積環境の変化を引き起こし,これらの変化は地盤沈下,局所洗掘,生態系の変化などとして顕在化している.
筆者らは,四国の主要海岸平野の地下に発達する更新統および完新統の岩相層序,指標テフラ,放射性炭素年代測定値をレビューし,平野の形成過程についての最新の知見をまとめ,課題の抽出を行った.徳島平野では,更新世の北島層と更新世末~完新世の徳島層は,東四国における標準的な層序を提示できる可能性が高い.讃岐平野のうち坂出低地と高松低地は,広域テフラと対比可能な複数の火山灰層が見つかっており,北四国における標準的な層序区分検討に好適である.高知平野と松山平野では,完新統の岩相分布が明らかであるが,更新統については年代データの蓄積が十分ではない.年代対比をもとに,層相の差異を検討したところ,沖積層は基底部に礫層が発達し,その上位に薄い泥質な海成層が覆い,さらに泥質・砂質の三角州成層や砂礫質の扇状地成層が重なる場合が多い.層厚は,長期的な地殻の沈降速度が大きい地域で厚くなる傾向が見られる.
琵琶湖の西方には白亜紀の大原・仰木の2つの花崗岩質岩体が近接して露出する.大原岩体(4×1km)は細~中粒弱斑状トーナル岩を主岩相とし,磁鉄鉱系でアダカイト質の特徴を持つ.約100Maの鉱物放射年代を示す.本岩体は丹波帯中央部に点在するアダカイト質岩体の東方延長部に位置する.一方,仰木岩体(5×0.5~1.0km)は細~中粒花崗閃緑岩を主岩相とし,ホルンブレンドの斑晶を顕著に含む.チタン鉄鉱系で非アダカイト質の特徴を持つ.約70Maの鉱物放射年代を示す.本岩体は産状や岩相から琵琶湖コールドロンに関係する岩脈状の岩体とみなせる.