日本公衆衛生雑誌
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57 巻, 8 号
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論壇
  • 藤野 善久, 二渡 了
    2010 年 57 巻 8 号 p. 597-604
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
     大規模事業を実施する際に,環境の悪化を未然に防止し,持続可能な社会を構築することを目的に環境影響評価(EIA)を実施することが環境影響評価法により定められている。さらに最近では,計画段階での評価を含めた戦略的環境影響評価(SEA)を実施する自治体も出てきた。一方,近年,諸外国において,さまざまな政策分野において健康影響評価(HIA)と呼ばれる手法が積極的に活用されるようになってきた。このような背景の中,とくに環境分野の政策においては,EIA, SEA,および HIA は手法,目的に共通する部分が多い。一方で,それぞれの基礎となる学問的背景の違いなどから,健康に関する評価項目は異なっている。とくに,HIA においては,社会的健康規定要因を基礎に採用しているのに対し,EIA および SEA では健康関連の評価項目は限局的である。本項では,これらの背景を踏まえ,国内の EIA および SEA において,健康関連の評価項目がどのように認識され,取り扱われるかについて事例の検討を行った。
総説
  • 小林 真之, 武知 茉莉亜, 近藤 亨子, 大藤 さとこ, 福島 若葉, 前田 章子, 廣田 良夫
    2010 年 57 巻 8 号 p. 605-611
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 不活化インフルエンザワクチン接種とギラン•バレー症候群(GBS)の関連について文献的に考察する。
    方法 米国予防接種諮問委員会(The US Advisory Committee on Immunization Practices: US-ACIP)の勧告に引用されている文献を中心に,不活化インフルエンザワクチンと GBS の関連についてこれまでの報告を要約するとともに,考察を加える。
    結果 1976年,米国において接種キャンペーンが実施された A/New Jersey/76インフルエンザワクチンについては GBS との因果関係が明らかであった。その後の季節性インフルエンザワクチンと GBS については,一貫した論拠は得られなかった。統計学的に有意な関連を報告した文献では,研究の限界を考慮した寄与危険は最大で100万接種あたり1.6例と推定されていた。
    考察 通常の季節性インフルエンザワクチンと GBS の因果関係について,結論は得られなかった。しかし,これまで報告されているインフルエンザの疾病負担およびワクチン有効性と対比すると,インフルエンザワクチン接種が疾病負担を軽減する有益性は,観察されている季節性ワクチン接種後の GBS のリスクを大きく上まわると考察された。
原著
  • 原田 和弘, 岡 浩一朗, 柴田 愛, 蕪木 広信, 中村 好男
    2010 年 57 巻 8 号 p. 612-623
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 介護予防の一環として,足趾•爪のケアに関する事業が行われ始めている。しかし,わが国において,高齢者における足趾•爪に関する問題やそのケアが介護予防に果たす役割については,十分検討されていないのが現状である。本研究の目的は,わが国の地域在住高齢者を対象に,足趾•爪に関する問題と転倒経験および転倒不安との関連性について検討することであった。
    方法 地域在住の高齢者10,581人(75.2±5.60歳)を対象に,自記式による質問紙調査を実施した。足趾•爪に関する質問項目は,足白癬,皮膚の炎症•むくみ•変色,爪の肥厚•変形,足趾の血流障害•機能障害,足趾•爪のケアの実施,および適切な靴の着用•靴の調整の実施であった。過去 1 年間の転倒の有無または転倒不安の有無を従属変数,足趾•爪に関する項目を説明変数,年齢,有病状況,老研式活動能力指標得点(実施状況),および下肢機能障害を調整変数としたロジスティック回帰分析を,男女別に行った。
    結果 男性の46.0%,女性の39.0%の者が,足趾•爪に関する問題を,少なくとも 1 つ以上回答していた。ロジスティック回帰分析の結果,男女ともに,「足白癬」(男性:調整オッズ比=1.37[95%信頼区間=1.15-1.63],女性:1.29[1.08-1.53]),「皮膚の炎症•むくみ•変色」(男性:1.66[1.32-2.10],女性:1.37[1.13-1.66])「爪の肥厚•変形」(男性:1.72[1.45-2.05],女性:1.48[1.26-1.74])「足趾の血流障害•機能障害」(男性:2.42[1.91-3.05],女性:1.66[1.36-2.04])を有している者の方が,過去 1 年間に転倒を経験していることが示された。また,転倒不安に関しても,それぞれの足趾•爪に関する問題の保有が関連していた(足白癬[男性:1.37[1.15-1.62],女性:1.25[1.07-1.47]],皮膚の炎症•むくみ•変色[男性:1.42[1.13-1.80],女性:1.62[1.34-2.00]],爪の肥厚•変形[男性:1.41[1.19-1.68],女性:1.46[1.25-1.70]],足趾の血流障害•機能障害[男性:2.05[1.61-2.60],女性:2.10[1.69-2.60]])。また,女性においては,足趾•爪の定期的なケアの実施者の方が,転倒不安者が有意に低かった(0.81[0.71-0.92])。
    結論 本研究によって,足白癬,皮膚の状態,爪の肥厚,血流障害や機能障害など,足部に関する問題の改善に注目することが,転倒経験•転倒不安の軽減に有効である可能性が示された。今後,足部の問題の客観的な評価を行った前向き研究により,足部の問題と転倒•要介護状態との関連性を検討し,本研究の結果を裏付けることが求められる。
公衆衛生活動報告
  • 横田 紀美子, 椎名 由美, 原田 美知子, 若林 洋子, 稲川 三枝子, 大島 みゆき, 鳥海 佐和子, 廣瀬 久美子, 山岸 良匡, 池 ...
    2010 年 57 巻 8 号 p. 624-632
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 乳幼児の歯科保健事業として,法定の 1 歳 6 か月児,3 歳児健診に加えて,自治体独自で実施した 1 歳児,2 歳児,保育園児,幼稚園児の歯科健診やフッ化物歯面塗布等の予防対策の長期的な評価を行う。
    方法 茨城県真壁郡協和町(現•筑西市協和地区)では,自治体独自の乳幼児う蝕予防対策として,フッ化物歯面塗布を1995年より 1 歳 6 か月児,2 歳児,3 歳児健診時で,1997年より 1 歳児健診で,2002年より保育園児/幼稚園児対象の健康教室で開始した。また,1990年からカリオスタット検査,1995年から RD テストを上記の健診の中で実施した。これら乳幼児う蝕予防対策の効果を分析するため,1984年から2004年までのう蝕有病割合等の推移を,旧下館保健所管内 7 市町村ならびに茨城県,全国の成績と比較した。
    結果 1984年から2004年にかけて,協和町におけるう蝕有病割合の低下は 3 歳児で59%,1 歳 6 か月児で57%と,それぞれ管内 7 市町村の中で 1 番目,2 番目に大きかった。これらの低下は,茨城県や全国の成績に比べて大きかった。3 歳児において,う蝕有病割合の低下はフッ化物歯面塗布導入の1995年以降に大きくみられた。
    結論 自治体独自でフッ化物歯面塗布などのう蝕予防や保健指導を 3 歳児,1 歳 6 か月児以外にも,対象を広げて計画的•長期的に実施したところ,協和町でのう蝕有病割合は管内の他の市町村や県,全国に比べてより大きく低下し,本町におけるう蝕予防対策の有効性が示唆された。
資料
  • 須藤 紀子, 澤口 眞規子, 吉池 信男
    2010 年 57 巻 8 号 p. 633-640
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 被災者支援の中心は市町村であるが,市町村管理栄養士•栄養士の配置は十分ではなく,被災市町村は他の自治体や関係機関などと連携•協力して,住民に対する栄養•食生活支援を実施することが必要となる。他機関からの応援を受けるための体制づくりの一つが災害時の協定である。本研究は,市区町村が実施する栄養•食生活支援活動に対する関係機関からの人的支援や,特殊食品の供給など要援護者の支援に関する協定の締結状況を調べることを目的とした。
    方法 全国の1,784市町村と東京都23特別区を対象に,平成21年 1 月から 3 月にかけて,郵送法による質問紙調査を実施した。災害時の栄養•食生活支援活動として,「炊き出し」,「巡回栄養相談」,「被災者の健康•食生活調査」,「普通の食事ができない人への個別支援」をあげ,各活動について,どの人材•団体からの支援を想定しているか,自衛隊,管内行政栄養士,ボランティア団体等の11の選択肢から複数回答を得た。さらにこれらの人材•団体との協定の締結状況をたずねた。また,人的支援に関する協定をうまく機能させるための体制づくりと災害時における特殊食品(粉ミルク,ベビーフード,病人食,老人食など)の供給に関する協定についてもたずねた。
    結果 回収率は65.5%(1,183市区町村)であった。他機関からの人的支援を想定している栄養•食生活支援活動としては「炊き出し」が最も多く,日赤支援団(48.9%)や自衛隊(47.8%)からの支援が想定されていた。しかし,支援は想定しているものの,これらの団体と災害時の人的支援に関する協定を締結している市区町村は,それぞれ1.2%と0.5%であった。人的支援に関する協定先として最も多かったのは社会福祉協議会であり,協定を締結している市区町村は2.6%であった。協定の内容はボランティア活動やボランティアセンターの開設•運営等に関するものが多かった。他の自治体や関係機関,企業等と災害時における特殊食品の供給に関する協定を「結んでいる」と回答した市区町村は21.0%であったが,内容をみると一般食料や生活用品に関するものがその 6 割近くを占めていた。
    結論 他機関からの支援を想定している場合は,事前の調整や円滑な支援が受けられるよう,協定締結などの体制整備が必要であると考えられるが,現状は十分ではなかった。また,特殊食品の入手に関する準備体制が整っている自治体は依然として少ないことが分かった。
  • 曽我部 夏子, 丸山 里枝子, 中村 房子, 土屋 律子, 井上 美津子, 五関-曽根 正江
    2010 年 57 巻 8 号 p. 641-648
    発行日: 2010年
    公開日: 2014/06/12
    ジャーナル フリー
    目的 乳幼児期の栄養摂取は,個々の子どもの成長•発達段階に合わせて適切に対応することが大切である。そこで,今回,乳幼児期の食生活状況について,乳歯萌出状況と調理形態•調理方法などとの関連について検討を行った。
    方法 東京都 K 区保健所および各保健センターにおいて,1 歳 2 か月児歯科健診を受診した455人に,歯科医師による歯科健診と保護者への自記式調査票を用いて,離乳食の開始時期,離乳食の進行の目安,現在の食事の調理形態などについて調査を行った。記入漏れがあった18人および在胎期間が36週未満の出生児17人を除く420人を解析対象とした。
    結果 離乳食の開始時期は,生後 5, 6 か月齢頃が81.4%と最も多く,離乳の進め方の目安は,「月齢」と回答した者が最も多かった(71.2%)。乳歯萌出状況により,前歯上下 8 本(乳中切歯 4 本と乳側切歯 4 本)が生え揃っていない段階(ステージI:27.4%),前歯上下 8 本が全て生え揃っているが奥歯(第一乳臼歯)がまだ生え揃っていない段階(ステージII:61.9%),奥歯(第一乳臼歯)が上下 4 本すべて生え揃っている段階(ステージIII:10.7%)の 3 段階に分類した。「おかずの固さの目安」は,ステージI,II,IIIすべてにおいて「歯ぐきでかみつぶせる」がそれぞれ53.5%, 54.4%, 40.0%と最も多かったが,まだ第一乳臼歯 4 本が生え揃っていないステージI,IIにおいて,「奥歯でかみつぶせる」と回答した者が,それぞれ14.0%, 15.1%も認められた。さらに,「大人と同じ固さ」と答えた割合が,ステージI,II,IIIで,それぞれ7.0%, 9.7%, 24.4%であった。また,調理の味付け(塩味,しょうゆ味)については,「大人と同じ」と答えた割合がステージI,II,IIIで,それぞれ13.2%, 17.3%, 22.2%であった。
    結論 今回の調査結果により,乳歯萌出状況は個人差が大きく,個々の口腔の発達段階•咀嚼機能を把握せずに,調理形態•調理方法が進められていることが推察され,今後の食育支援の必要性が示された。
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