日本公衆衛生雑誌
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71 巻, 5 号
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原著
  • 黄 辰悦, 印南 一路
    2024 年71 巻5 号 p. 255-265
    発行日: 2024/05/15
    公開日: 2024/05/30
    [早期公開] 公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー

    目的 本研究の目的は,ハローワークが提供する介護職員初任者研修コースに対する求職者の受講行動を促す政策手法を発見することである。

    方法 行動経済学の知見から行動変容を促す手法としてナッジを取り上げ,ナッジに基づく施策を従来の施策と比較した上でその効果を検証した。調査は2回にわたるWeb配信によって実施された。1回目のWeb配信では,①参加同意者の募集,②基本属性と対象者の条件等に関する1回目のWebアンケートの配信,③受講案内の配信を①,②,③の順で実施した。具体的には,1回目のWebアンケートに回答した参加同意者50,000人を無作為に8群に割り付け,介入群にはそれぞれ3種類のナッジ(損失回避ナッジ,共感ナッジ,長期利得ナッジ)とその組み合わせに基づく受講案内,統制群には従来厚生労働省が用いてきた受講案内をWeb上で提示した。介入2週間後に,1回目のWebアンケートの結果から対象者の条件を満たした2,404人を抽出し,彼ら・彼女らを対象に行動変容ステージ(前熟考期,熟考・準備期,情報探索期,実行期)に関する2回目のWebアンケートを配信し,1,995人から回答を得た。分析は,ナッジに基づく介入を説明変数,介入後行動変容ステージを被説明変数とし,性別,年齢,学歴,婚姻状況,介入前介護職に対する興味,介入前行動変容ステージを調整変数とした二項ロジスティック回帰分析を行った。

    結果 分析対象は1,995人であった。介入群に属する対象者1,756人のうち321人(18.3%)が熟考・準備行動,102人(5.8%)が受講に関する情報探索行動,50人(2.8%)が受講行動をとった。統制群に属する対象者239人のうち38人(15.9%)が熟考・準備行動,31人(13.0%)が情報探索行動,2人(0.8%)が受講行動をとった。二項ロジスティック回帰分析の結果,従来の施策は受講に関する情報探索行動の促進まで有効であったが,最終目的である受講行動の促進には損失回避ナッジ,共感ナッジ,長期利得ナッジを組み合わせた施策が効果的であった(オッズ比:5.39, 95%信頼区間:1.18~24.74, P=0.03)。

    結論 介護職員初任者研修コースに対する求職者の受講行動を促進するには,従来の施策や単一のナッジよりも,複数のナッジを組み合わせた施策の導入が必要であることが示唆された。

  • 井村 亘, 難波 知子, 石田 実知子
    2024 年71 巻5 号 p. 266-274
    発行日: 2024/05/15
    公開日: 2024/05/30
    [早期公開] 公開日: 2024/02/21
    ジャーナル フリー

    目的 本研究の目的は,高校生と担任間でおこなわれている日常会話の頻度を測定することができる「高校生版学級担任との日常会話尺度」を開発することである。

    方法 本研究は,調査Ⅰ,Ⅱで構成した。調査Ⅰは,「高校生版学級担任との日常会話尺度(試作版)(以下:試作版尺度)」の構造的妥当性を因子測定モデルと項目の性能の側面から確認することに加えて,信頼性を内的一貫性の側面から確認することを目的とした。調査内容は,高校生の担任との日常会話頻度とし,試作版尺度を用いて測定した。試作版尺度の因子測定モデルは,確認的因子分析を用い,項目の性能は,項目反応理論を用いて検討した。また,内的一貫性は,McDonaldの ω 信頼性係数を用いて検討した。調査Ⅱは,試作版尺度の仮説検証による妥当性を確認することを目的とした。調査内容は,担任との日常会話頻度,担任サポート期待,抑うつ・不安,担任との関係性で構成した。担任との日常会話頻度は,試作版尺度を用いて測定した。分析は,担任との日常会話頻度が担任サポート期待,抑うつ・不安に影響するとしたモデルと担任との日常会話頻度が担任との関係性に影響するとした2つのモデルを構築し,そのモデルの適合性と変数間の関連性について構造方程式モデリングを用いて検討した。仮説は,前記2つのモデルがともに調査データと当てはまっていることに加えて,担任との日常会話頻度と担任サポート期待,担任との関係性は強い有意な正の関連を示し,抑うつ・不安は弱いながらも有意な負の関連を示すとした。

    結果 調査Ⅰの分析対象者は,1~3年生1,394人であった。確認的因子分析,項目反応理論,McDonaldの ω 信頼性係数の結果は,基準を満たす値であった。調査Ⅱの分析対象者は,1~3年生1,688人であった。分析結果から仮説は支持された。

    結論 本研究結果は,試作版尺度が概念的一次元性を備えており,かつ,各項目の難易度のバランスの取れた尺度であることを示唆しており,「高校生版学級担任との日常会話尺度」が開発されたことを示している。本尺度を活用し,担任との日常会話頻度が高校生の心理・行動に与える影響を検討することにより,担任による高校生のメンタルヘルス不調に対する一次予防策に資する知見を得ることが可能になると考える。本尺度は,今後の公衆衛生における学校保健活動に寄与しうるものであると思料する。

  • 高瀬 麻以, 杉浦 圭子, 相良 友哉, 中本 五鈴, 馬 盼盼, 六藤 陽子, 東 憲太郎, 藤原 佳典, 村山 洋史
    2024 年71 巻5 号 p. 275-282
    発行日: 2024/05/15
    公開日: 2024/05/30
    [早期公開] 公開日: 2024/02/21
    ジャーナル フリー

    目的 介護施設で働く介護職員のメンタルヘルスが日本で課題となっている。高年齢介護助手の導入は,介護職員の業務を高年齢介護助手が一部担うことにより介護職員の負担を軽減させることを狙う。一方で,高年齢介護助手が介護職員の業務促進・阻害要素をどのように変化させ,介護職員の情緒的消耗感と如何に関連するかは明示されていない。本研究は,高年齢介護助手の雇用によって介護職員が感じた業務促進・阻害要素の変化を調べ,介護職員の情緒的消耗感との関連を探ることを目的とする。

    方法 2020年度「介護老人保健施設等における業務改善に関する調査研究事業」の調査データを用いた。介護職員の票のうち,勤務先の施設が高年齢介護助手(60歳以上の介護助手)を雇用していると回答した5,185人を解析した。従属変数は日本語版バーンアウト尺度の下位尺度である情緒的消耗感を用いた。独立変数として,高年齢介護助手雇用による介護職員の業務促進・阻害要素の変化(改善,維持・悪化)を9つ設定した。

    結果 高年齢介護助手の雇用により介護職員が改善したと感じた項目は,「全体的な業務の量」(改善:63.6%),「普段の業務における気持ちのゆとり」(改善:39.8%),「介護の専門性を活かした業務への集中」(改善:38.0%)であった。調整変数とすべての業務を調整した重回帰分析の結果,「全体的な業務の量」が減少し(β=-0.383, 95%CI: -0.719, -0.047),「普段の業務における気持ちのゆとり」が増加し(β=-0.432, 95%CI: -0.796, -0.068),「介護の専門性を活かした業務への集中」が向上し(β=-0.574, 95%CI: -0.937, -0.210),「施設職員間の人間関係」が改善した(β=-0.871, 95%CI: -1.263, -0.480)と回答した者ほど,情緒的消耗感得点が低かった。対して,「地域の人や団体と関わる機会」が増加した(β=0.800, 95%CI: 0.162, 1.437)と回答した者ほど,得点が高かった。

    結論 高年齢介護助手の雇用は介護職員が感じる業務促進・阻害要素の変化に関与し,それらが介護職員の低い情緒的消耗感と関連したことから,介護職員のバーンアウトのリスクを軽減する対策になり得る可能性が示唆された。

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